ディスコ探偵水曜日 中

ディスコ探偵水曜日〈中〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈中〉 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

蝶空寺嬉遊、桜月淡雪、美神二瑠主、名探偵たちは華麗な推理を披露してゆく。果たして、ミステリー作家・暗病院終了の怪死とパインハウスが秘めた謎は解明できるのか。そして、二〇〇六年七月十五日二十三時二十六分にいったい何が起こるのか?真実は逃げ水の如く近づけば遠ざかる。「無駄ですよ。この事件絶対終わりませんよ」。行け、ディスコ、世界がお前を待っている。


 ラストでまた新しい出来事が発生したが、今回はほとんど丸々パインハウス編だな。前巻から引き続いてパインハウスにおいて幾人もの名探偵たちが推理しては死んでいく。前巻からことごとく名探偵が真相を見抜いたと確信した推理から真相が逃げ水のように逃げて行き失敗する。そして、その度に箸を目から脳に刺されて死ぬというおぞましい死に方をした。九十九十九などは箸を突き立てて、脳を壊された人間が重要な部位を壊されずロボトミーのようなカタチとなって、生きているけど目から透明な脳髄液を垂れ流して、精神が壊されて、身体もふらふらになりなっているのは生きているからこそグロテスクだし痛ましく感じてしまい、そういう描写は本当に嫌いだから、そうした描写があるのは本当に読んでいて辛い。
 宿命的に、文脈的にディスコが解決することが求められていたこの事件で、ディスコが推理に入る前に次々と名探偵たちが討ち死にすると同時に、彼に材料を与えて散って行った。そして漸くディスコは推理が真実に確定させる強い意思を持つことができる正しいと信じることができる推理をようやく構築できたことで、長かったパインハウスでの事件も終わる。
 前巻最後で八極の推理はどこか破綻していることは推理に参加した人々が死亡したことからわかっていたが、ディスコまわりの話が(勺子の話もディスコが精神病だという指摘も)ぜんぜん当たっていなかったということは驚いたし、ちょっと笑えた。しかし流石に勺子の話まで的を射ていなかったとは思っていなかったわ。
 水星Cは知力も暴力もきわめて優秀な人間なのだが、子供っぽく気分によって暴力を振るうし、同じく気分のまま楽しいかどうかで場をめちゃくちゃに荒らすなあ。とても個性的なキャラクターで、なんだか小説のキャラクターというよりも神話の登場人物に誓いと感じるような性質の人だ。
 梢の存在もあるからオカルトやファンタジー的なことが推理に織り込まれてくるし、また推理のたびに推理中に新しい事実を述べることが多く、読者が推理することは不可能で、論理的に考えてひとつの正解にたどり着けるものでもない(名探偵たちのような多くの正解のひとつを導くことはできるかもしれないが)ので、推理小説とはいえないかもしれないが、名探偵としての死(推理の失敗)が現実の死としてフィードバックされる異様な空間の中で、名探偵の推理の正しさの源泉(意思は結果を作る。名探偵の強い意思によって真相が作られる)など名探偵が色々と自己言及的に名探偵という存在について語っているので、探偵小説ではあろうな。
 しかしオカルトやファンタジーを混ぜ、異常に推理できる幅が広くなった世界観だから、多くの名探偵たちの突飛に見えるさまざまな推理が見ることができて面白いし、著者の筆力が高いから寒いことにもならず、こういう世界観だと納得できるし、事件がどうなっているのかすっかり分からなくなっても掛け合いやちょっとした描写を、そして物語を面白いと思いながら読める。
 エンジェルバーニーズの霊能者加藤が推理しはじめたときに二留主が名探偵より前に正解を導けるはずがないと思っているから、その推理はきっと間違いだから、止めなくては純粋に善意からそんなことを思ってあわてているのがちょっと笑える。
 ディスコは霊能者加藤に導かれて生と死の中間点たる地点に赴くも、そことはまた違う別の場所へ行ってしまう。そうやって異界に導ける力を持っているということは、霊能者が本物だということだからオカルト、伝奇、ファンタジー(?)どれかわからんが、そういった類の色がいっそう強まったな。
 嬉遊が披露した円形の血痕についてのエンジェルバーニーズが自分が疑われないように隣まで移動させてを繰り返した結果生まれたものという推理で、それについて彼らは正しいといっていたが、実は嬉遊にお願いされて正しいと証言して事実でなかったということになり、そうした封に一旦自白もあり事実と確定したかのように見えた出来事が嘘と判明するなど一体何を事実と思っていいのか、さっぱりわからなくなってきて、そうやって大きく否定されるものが多いから、結局どういった部分が真実でどういった部分が誤りなのかがわからなくなってくる。
 ディスコと水星Cがパインハウスに到着して早々に、水星Cは上から降り立ってきた出豆海を殴り飛ばして怪我をさせるなどしていたが、いつの間にやら水星Cの手下のような立ち居地で妙に小物臭がするキャラになっていたことに笑う。しかし九十九十九が9番目と10番目の推理をしたことで、出豆海が11番目に推理している最中に名探偵ルンババ12が登場したことにより、文脈的にその推理が誤りであること、意思が運命に負けたこと、がわかり出豆海が動揺して、嘆いているのが、彼にとっては全く笑い事ではないのだがちょっと笑えてしまった。
 ルンババ12はこの場所のルールを分かっているはずなのに間違えるために、ディスコにヒントを与えるためにやってきたのかとその覚悟に戦慄したが、そもそもがこの事件の始まりにいる人であり、自分の目的のためにこの事件を作ったミステリー作家の彼の「過去」かい。
 ルンババ12のそうしたヒントや彼の推理の前に地ならしをして多くの事実を明らかにして地ならしをして散って行った十数名の名探偵諸氏のお膳立てがあって、ついにディスコも推理を開始する。
 パインハウスは空間が現実に歪んでいて長方形の建物が、円形に見えていたし、長方形に見える人間には物理法則は長方形の建物の中でおかしくないように作用し、円形に見える人間には物理法則もその円形のなかで作用するという時空だったという推理・真相だが、それも少しでも自分が揺らいだり、他の人を信じさせることができなければ真相とならないだろうといっているが、どうやらその思いは事件を解決して世界の節理を見た後、ディスコが意思で時を越えられる(それに死んだ名探偵たちの脳みそを――意思のごり押しで――治して生き返らせていたように時空間も操れるようだ)とができることを知って、それを実行している姿を見て、そうした懸念がまさか現実のものとは思わなかったので驚いた。いやあ、そこまで意思が力を持つ世界観だとはな。
 散々繰り返されてきた出来事は意思と運命の相互作用で決まる、人の意識が世界を作るというような言葉がこういった風に直接的に物語に関係してくるとは意外で驚きだ。
 三田村三郎がディスコがこの謎を解くことが望んだのは彼が迷子探しの探偵だからで、彼に時を越えて三田村三郎の兄弟いなくなった3つ子のうちの2人を探してもらうためか。
 三田村三郎の依頼だけでなく、双子の子供をさらわれたパンダからもその子供を助けることをお願いされて、またこの世界の時空が折りたたまれていることを知る(11年前・11年後のパンダ事件が行われていることがその表れだった)、そしてそのパンダからディスコが望む梢に性的なことをした黒い鳥の入墨をした男を探していることを知っている三田村三郎(ルンババ12)は、交渉条件のために時空を飛びながらその事実を探ったが、その男を見つけることができなかったが、そのことでそいつが時間を直接いじっている時間の外側にいる人間であることを知り、時空を折りたたんでいる犯人あるいは近しい立場にいることを知って、そのこともディスコに伝える。
 そうしてディスコはパンダの双子と3つ子である三田村三郎のいなくなった2人の兄弟を探すことを頼まれたので、またそうすることが幼い梢に非道なことをした犯人を見つけることにつながるため、失われた双子、3つ子の2人を探すことになる。
 しかしディスコがパインハウスの事件を終わらせたことで、出豆海とか二瑠主といった最後まで残った名探偵が心酔した様子で敬意を払っているのはなんだかほほえましくて、顔に笑みが浮かんでしまう。
 ディスコはパインハウスの件が終わってから、時空をどんどん飛んでつじつま合わせるように、過去の自分を導くようにパンダラヴァーの事件も作って/終わらせていった。ディスコは運命に導かれるようにしてパインハウスにやってきたが、今回(@過去)パンダラヴァーという一連の事件を作出することで自分をパインハウスへと導く助けとした。
 しかし桔梗は梢の別人格が桔梗として生まれるはずだった子を弾き飛ばして成長した子で、勺子も結局17歳の梢が、現在のディスコの力を借りて過去に戻り、過去に死んだ勺子の肉体の中に入った人だということで、なんつーか女性陣が梢だらけで愕然とするんだけど。それにあらゆる梢を色々な意味で愛しているから、なんだかディスコが変体チックな感じにも見えてきてしまう(笑)。
 しかしディスコはパインハウスの事件を解決後に、時間を飛ぶすべを知ったから、ラスト近くで時空間をあちらこちらに飛んでいって、一体何がどうなっているのか、ディスコが何ができないのかがわかんなくなってくる。はじめの手紙から始まって事件も、時を飛んでつじつまを合わせる(自分を誘導する)ディスコの行動も、ウロボロス的にはじまりがどこなのか終わりがどこなのかわからない循環構造になっているからそうしたわけわからない感が増す。
 しかし最後の梢の記憶に残っていた、おぞましい記憶だが、その話が過去でなくディスコがこの段階でおきることになろうとは、ディスコも予想外だったようであるが、強烈なクリフハンガー。上巻の名探偵たちの死で終わったラストといい、強烈なエピソードで締めて次の巻を読ませたいと思わせる技術はにくいね!しかしディスコに抗って欲しいと思う気持ちと、梢記憶にあるのだから抗えないとあきらめて絶望的に思う気持ちが半々だ。まあ、なんにせよ下巻のはじまりから長く欝シーンが続かないように祈るばかりだよ。