とむらい機関車
- 作者: 大阪圭吉
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2001/10
- メディア: 文庫
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内容紹介
数々の変奏を生み出した名作「とむらい機関車」を劈頭に、シャーロック・ホームズばりの叡智で謎を解く名探偵青山喬介の全活躍譚、金鉱探しに取り憑かれた男が辿る狂惑の過程を容赦なく描く「雪解」、海底炭坑という舞台を得て物された最高傑作との呼び声も高い本格中篇「坑鬼」――計九篇に併せて「連続短篇回顧」などのエッセイと初出時の挿絵を附す。戦前探偵文壇にあって本格派の孤高を持し、惜しくも戦地に歿した大阪圭吉のベスト・コレクション。解説=巽昌章
短編集だが最後に30ページほどいくつかの随筆が収録されている。雑誌掲載時のものなのか、挿絵がついている。その挿絵は昔のもので解像度が荒いということもあり、味があるともいえるけど、それがついているせいでちょっとおどろおどろしい印象も受けてしまうなあ。
戦前の日本ミステリーの知られざる良作とか、良いミステリーだとかずっと以前ブログかなにかで目にしたので、そういういい作品を書いているが知られざる作家とか聞くと、超有名作家はなかなか読まないのに、なんとなく興味がわく性質であるので同著者の「銀座幽霊」と共に購入。青空文庫にも結構作品が掲載されているのでそれを読んでもよかったのでだが、読みやすい文章ならともかく、青空文庫に入っているような古い文章のようなそこそこ文章が読みにくいから、それを画面越しに読むのは面倒に思い、ネット環境あるとネットのほうで読むのにストレスの掛からない文章をあれこれと見てしまいろくに読む手が進まないことが多いので文庫で購入して読み進めようと、思ったのはいいのだけれど、なんだかんだで1年か2年くらい積読してしまっていたがようやく読了。しかし読んでいる最中に気づいたのだが戦前のミステリーを読むと言っても、よく考えたら江戸川乱歩も一冊も読めていないので(子供時代に怪人に銃面相と少年探偵団が出てくる小説を少し読んだ記憶もあるが、不気味な雰囲気で読むのが怖くなって読むのを止めた)、それに気づいたときには我がことながら読む順番が大概おかしいなと思わず苦笑いが混じった笑みを顔に形作ってしまった。
そして、読み終わって感想を格段になって気づいたのだが、これを購入した当時は昔のミステリーで短編だから筋がわかりやすいだろうとなんとなく思って、それを読んだり筋を書き写すことでミステリーの骨格というかどうやって作られているのかを見てみよう、そうすればもっとミステリーが楽しめるようになろうなんて意欲もあったのだが、読んでいる最中にはすっかりわすれていたし、現在はそんな意欲はとっくに萎んでしまってやる気がおきないわ(苦笑)。
ただ単に私が無知であるというだけのことなのかもしれないが、列車とか船(ヨット
周りについての描写が何回か読み直してもいまいちわからないというかイメージができず、推理聞いていてもへえ、そうとしか思えないし犯行の具体的な方法がいまいち理解できなかった短編もあって読むのに時間がかかった。
名探偵青山喬介が出てくる短編が多いが、彼が出てくる短編はそうしたいまいち理解できない話が多かったので、彼が出てこない短編のほうが面白かったかな。それに彼が出てくる短編だと事件が発生したところに彼がやってくるところから始まってそこで証拠・証言を見聞きして直ぐ推理となってしまい、彼が出てこないないし前面にでてこない短編の法が人の感情とかや背景などが多く書き込まれているということもあるので非名探偵青山喬介モノの短編のほうが読んでいて面白いと思えた。この本では「あやつり裁判」「坑鬼」なんかが特に面白かったかな。
しかし、誰も名探偵青山喬介が事件の現場に来て推理することに疑念を抱いていないのは流石に昔の話だなあと思うが、短編でそこらへん毎度何かしらリアクションとられても無駄にページ数か駆るだけだから、「名探偵」だからそれができるとわりきれるこのような全く雰囲気も嫌いではないね。
わかりやすい怨恨の犯罪や名探偵に挑むかのようなトリックを駆使した犯罪でなく犯行にいたるまで色々な事情があって、彼ら/彼女らにとって論理的に考えた結果、不可解な結果が起きているというのは、犯人が犯行にいたった理由についてそれを知るとある程度共感・理解ができるから、いいね。
「とむらい機関車」表題作。八百屋お七とか、細かいところは忘れたが、また会いたかったから再び葬式が行われるようにしたというコピペを思い出すオチ。
「白鮫号の殺人」被害者の所有物で、死んだ被害者がくくりつけられていたヨットを推理の検証のためとはいえ、普通に名探偵青山喬介が使っているのには思わず笑った。
「気狂い機関車」犯人の犯行動機が、目的を達すために殺す必要がないと思える、いい感じな共感不能具合でいいね。
「あやつり裁判」偽証の理由の意外さがいいね。
「雪解」犯人視点から犯行がかかれるが、こういうジャンルのミステリーってなんていうのだっけ。最後の恋人が父を殺した犯人だとわかったが、相手は血が頭に上ってそれに気づかず、自分も何も言えないまま何時間もその頭に血が上った恋人を見ながらすごしたキエの心境は筆舌にしがたいものがあるだろうな。
「坑鬼」炭鉱・鉱山で働く現場と言うのがどういうものかについてあまり知らなかったので、ここでのリアリティのあふれる描写に興味を抱き、そうしたことが書かれている本があったら読んでみたくなった。
エッセイで出てきた、著者の近所の弓の先生が行っていたという最初は技術がないのに割合弓が当たるが、だんだん上手くなるこまごまとした技術を意識することで一時期当たりが悪くなるが、やがてそうした技術を意識することが自然とできるようになり、今度は本当の当たりができるようになるという話はちょっと印象に残った。
解説で『最高傑作「坑鬼」』とあるが、たしかにそれは面白かったなあ。『極端に飛躍した動機や、奇怪だがみょうに筋の通った審理など、常識を終えた歪んだ論理の面白さ』(P334)と大阪圭吉の先駆性を説明しているが、それがあるおかげで現代的に感じて古臭さを感じなかった。