オーバーロード 8 二人の指導者

内容(「BOOK」データベースより)

シリーズ初の、完全書下ろしを含むアナザーストーリー2本立て。“森の賢王”が去り、森の均衡が崩れたことで、新たな脅威が迫りつつあった…。―「エンリの激動かつ慌ただしい日々」。偉大なるナザリック大墳墓を支配する者の苦悩の日々が明らかに。―「ナザリックの一日」。

 初版限定のリバーシブルカバー、知らなかったので読む前にカバーを外してちょっとびっくりした。
 200ページほどの中編2編。それらの内容はそれぞれエンリを主役にしたものとナザリックの日常を描いたもの。両者の内容的にも同じシーンを別視点で描いたところがあるなど、ちょっとリンクしているところもあり、同じ時期の話。
 エンリ主役の中編はwebでも外伝として掲載されていた短編を、web版と書籍版の違いを考えて再構成したもの。
 「エンリの激動かつ慌ただしい日々」
 エンリの配下のゴブリンたちがボディビルのポーズを好んでとるなどweb版にはない妙なキャラ付けがなされているのと、そのためにエンリがボディビルのポーズの名前を覚えてわかるようになっていることにはちょっと笑った。
 しかしエンリは書籍版では序盤しか出てきていないということもあって、web版の設定の方をよく覚えているので、正直なところ設定がwebから書籍版でどう変わったのかという記憶があいまいだ。
 ただ、web版ではやけにエンリを優遇していることには違和感があったが、書籍版では得意な能力を持つンフィーレア(書籍版で登場するキャラ)が彼女に恋していて、そしてンフィーレアもその村に移住した(覚えていないけど、ポーションについての知見を深めるために研究させるのに、都市での情報漏れを防止するためそうさせたんだっけ?)ということもあって、彼のためアインズはエンリだったり村に対してそうした処遇していると納得ができる理由に設定が変えられたのはいいね。
 ゴブリンの英雄「ジュゲム・ジュゲーム」をもじって、彼女が召還したゴブリンの一人に「ジュゲム」と名を付けたとあるのを見るに、その英雄、プレイヤーか。こうした予期せぬところにプレイヤーの影が見えるのは、アインズ・ナザリックが今後どうなるかちょっと不安になる。配下のために悪役ロールやってしまっているだけに、借りに接触しても妥協は難しそうだから、よりそのように感じる。
 しかしゴブリンとかも普通に同じ言語使えているのを見て、それなのに害獣のように殺して当然とされているのを見ると、改めてこの世界の殺伐さを感じるよ。個人的にこういう敵モンスターと意思疎通ができるという設定があると、急にその世界が残酷なものに感じられてしまうから、あまり好きじゃないのよね。エルフが草木と、断片的ななんとなくの感情が伝わるとかではなく普通に話しあえているという設定とかもそう。
 『世界中で私だけなんじゃないの? いきなりあがめられてすごく偉いふりしなきゃいけなかったり、(後略)』(P87)というエンリの愚痴を見ると、勘違いされ崇拝されている中でリーダーとしてふるまって、したことのない仕事をこなさなければならない境遇に置かれたという意味で、エンリはもう一人のアインズでもあるのか。ただ、ゴブリンはエンリの無力を把握しているけど、アインズはなまじ自分に「力」(レベル100のキャラクターとしての)があるぶんだけ、部下にそうしたことを理解してくれる人間がいないから、より辛いな。似た人物(エンリ)がでてくることで、より一層わかるアインズの苦労(笑)。
 副題の「二人の指導者」、アルベドが裏でナザリックのもう一人の(あるいは実際的な)トップとしてやっている何かしら、不穏なものがかかれでもするのかとも思っていたがそうではなかったか。
 都市に入る際にマークされて困っているエンリを助けているのはさすがにアインズ干渉しすぎじゃないかと思ったけど、後半の中編のアインズパートでそれもンフィーレアのためとわかって納得。
 ゴブリンたちが村になじんでいるとは言っても、村の人たちは個体識別をするつもりもないなど、あくまでエンリの従属物としてみている。
 モモン(アインズの冒険者としての顔)が森の賢獣(ハムスケ)を捕獲した影響で、森のパワーバランスが変わっていっているという話は、ちょっとしたものだが、英雄譚のその後の語られざる部分って感じで面白い。さらっと書かれているからこその面白み、反英雄譚的に書かれると嫌味を感じて、面白くなくなるだろう。
 「ナザリックの一日」
 アインズの入浴シーンから始まる。風呂入っているのね、彼。しかしいちいちブラシで骨の細かいでこぼこした部分まで洗うのが面倒で時間がかかり、メイドにやってもらうと洗いこぼしがないかちょっと不安だから、スライムに全身を浸らせながら洗ってもらうという方式をとっているようだ。しかし彼も骨の姿にすっかりなじんでいるようだね(笑)。
 ナザリックの普通のメイドたち(非戦闘メイド)の朝食シーンという、今まで書かれてこなかったナザリック構成員の日常の描写があるのはいいね。
 どうでもいいことだが、このメイドたちの制服といい、エンリの服装といい、乳袋的なやけに胸を強調した服を着ているのはなんでだろうな。
 至高の41人の一人であるペペロンチーノが残していった、初期配布のアイテムに書きこまれていた内容がなぜかかなりの部分消えていたというのを見ると、なんか不穏。ちょこちょこ、こうした不安になるような情報が出てくるなあ。
 ナザリック内の図書館、書籍型のアイテムや公式が配布しているバックグラウンド的な物語や、その世界を舞台にした二次創作、著作権が切れた書籍などが陳列されている。守護者の一人だるマーレはそうした著作権の切れた古典小説を読んで、普通に面白かったと言っているのは意外。魔法のない世界を不思議に思わず楽しめているのか。彼らのいた世界は実は現代から分岐した未来世界的な設定だったりするのかな。それなら楽しめるのも大古典だからと理解できるけど。
 しかしアインズ、口八丁的なつじつまを合わせて説明するスキルが上がっているねえ(笑)。誰もがアインズを純粋に信頼しているからこそ、その説明に納得するというのも大きいけどさ。
 森の賢獣がいなくなったあとに、森の中で勢力争いをしている二つの勢力を見に行って、蹂躙。こうやってアインズが純粋に無双、強者ロールをしているのは新鮮だなあ。いつもは力の差があっても、内心焦っていたり不安だったりということが多いからね。
 ナザリックの男たちで風呂に入っているところで締め。挿絵にはその男風呂が。リバーシブルカバーでは女風呂版がイラストとして描かれている。
 しかしマーレ(男の娘)と同じ風呂に入るというのは、アインズにはその気がなくてもちょっとやっぱりいかがわしい(笑)。
 次回予告で王国と帝国の戦争が書かれるということが書かれているので、当初思っていたよりもweb版とストーリーラインは変わらないみたい。