北の舞姫 芙蓉千里II

内容(「BOOK」データベースより)

哈爾濱の妓楼に入った少女フミは、天性の舞踊の才を開花させ、大陸一の芸妓を目指す。―それから9年の時が過ぎた。古巣の妓楼も今はなく、ロシア革命の嵐が吹き荒れ、時代が大きく動く狭間で、少女は大人の女になり、名妓・芙蓉の名も不動のものとなっていた。初恋のひと山村と別れ、パトロンの黒谷と家族のような愛を育んでいたフミだったが、おのれの舞を極めようとする強い心は、幸せを崩す奔流となって彼女を襲う。激動の第2巻。


 文庫版発売日には買っていたが、シリーズ1作目である前作は面白かったけど重たい内容だったから、今度もまた重い内容だということが容易に想像できるから読むのを躊躇しているうちにいつのまにやら1年たってしまったが、ようやく読了。最近、家で読むと内容がヘヴィから読む手が止まってしまうことが容易に想像できるが面白いだろう本は、電車移動中に読むようになったので、そうした積み本が最近徐々に消化できてきた。
 景気が悪くなってきているとはいえ、芸妓としての価値を落とす身を売るようなことを、自身でもそのことを恥じながらやっているのは冒頭からヘヴィーだし、2巻となってもそうしたフミの人生ハード具合は変わらないことが容易に予想できて少し気がめいる。その厳しい人生の局面は、フミの踊りにも恋にも仕事にも一本気な気性だからこそ呼び込まれてしまったという面も悲しいことに否定できないけど。
 まあ、前巻で物語の雰囲気はわかっていたから、前回のように読んでいて辛くて辛くて、読みすすめられない、でも読みすすめなきゃ終わらないから読まなきゃとしんどい重いしながら読みすすめるということは流石にないけど。
 フミは自身の舞がスランプに陥っていたことを、満州の人々からは今までの芙蓉の踊り、名声によって指摘されてこなかったが、ロシアから逃げてきた一流のバレエの踊り手エリアナや貴文の弟武臣という外から来た二人の指摘されて、否応なしに気づかされることになる。
 それを戻すために、シベリア出兵で日本が占領しているチタに出向きそこで慰問公演をすることで、場所を変えることで踊りを戻そうとするもそれは果たせず、コサック将軍に犯されそうになるも山村=ジェンがフミを助けられる。しかし山村はフミにそこまでの慕情はないと思っていたが、我が身の危険を顧みず長く会わなかった彼女を助けにきたのだから、思っていたよりもずっと彼女のことを好きなのだなと感じて少しばかり意外に感じた。
 そうしてフミは、今までおろそかにしてきた、それを重視せずとも持ち前の表現力など他の優秀さでごまかせてきたが、それらの調子がくるってきたときには、今回のように外の厳しい鑑賞者の目からは見るに耐えないものと見られることを痛感して、基礎を改めて習得しに、大連の元芸者幾松のもとへ行く。そのかいあって無事復活して、エリアナにも見直されて、溜飲を下げた。まあ、どうやらエリアナもフミが不調であってもフミに自分に近しいものを感じたため、そんな彼女を発奮されるためにきつい物言いをしたということのようだが。
 フミが持つ山村への恋心を利用され、呼び出されて、志仁は山村が符丁に「芙蓉」という言葉を使っていたことからフミと関係していると思い込んではフミは本当に知らないのに、黄金のありかを吐かせようとして、それを知らないといっているから、部下に強姦させるというのは、フミが恋心のためにそんなことになってしまったことには心が軋む。その最中の描写がなかったことだけが少し救われるが、こんなことが行われてしまったという事実には悲しくなってしまい、心を落ち着かせるために少し本から目を離して深い呼吸を何度かして繰り返した。
 フミの新作の舞「鷺娘」の描写は本当に美しく素晴らしい演技であることが伝わり、背筋がゾクッとするほど素晴らしい。実際にポテンシャルをフルに出し切った神がかった演技だったようだが、それに相応しい描写を文章でするのは本当にすごい。
 ウメは予言のように、踊りを極めるには人としての幸福を犠牲にしなければならなくなるとフミに告げるが、その言葉は、この巻のフミを見ているだけでも伝わってくるが、言葉にされると重いな。今回のような素晴らしい舞をしなくてもフミに普通の幸福を手に入れて欲しいという気持ちが強いけど、文章だけでも伝わるほどの素晴らしい舞だったので、そんな舞を捨てるのはもったいないという気持ちもどこかに持ってしまうから、踊った本人やそれを実際に見た観衆は、そのことを知ったらより複雑な思いを抱くだろうなとは容易に想像がつく。
 この巻のラストでフミは山村の元へ走る決心をして、実際に幸運にも彼の元へたどり着き、そして彼に受け入れられる。そして黒谷貴文は同時期、ついに今まで自分の気持ちの整理がつかずフミに手をだしていなかったが、ついにフミとともに生きようと決意するものの、時既に遅く、彼が中国大陸に帰ってきたときには、フミが出奔して所在がわからなくなった後だったが、しかしそれでも彼女を探し、思いを伝え添い遂げようとフミへの愛情をついに自分にも明らかにして行動し始める。
 ただ、山村も普通にフミのことが好きなようだし、読者としては貴文とくっついて欲しいが(その後が安心できるので)、フミの焦がれるような愛情は山村に向かっているから、貴文にとっては厳しい戦いとなりそうだな。