企業が「帝国化」する

内容(「BOOK」データベースより)

大ヒット商品の発売を機に大きく変貌を遂げた米アップル社を内側から見てきた著者が、独自の視点でアップル、グーグル、マクドナルド、エクソンモービルなどの巨大企業を分析。一人勝ちをする仕組みを創り上げながら、産業やビジネス、消費の在り方を根底から変え、私たちの生活に影響を与える「私設帝国」とも呼べる企業たち。これらの帝国が支配する新しい世界のすがたを明らかにし、企業が構築するさまざまな仕組みの中で、私たちはどのようにそれらに対応し、生きていくかを考える近未来の指南書。

 興味はあったけど、内容については他のブログやらなんやらを見て大体の概要はなんとなくは知ってしまっていたから、改めて読む気にはなかなかなれなかったが、勘違いしている部分とか、理解が甘い部分とかもあるかもしれないので読んでみた。
 内容的には理解していたものだったけど、具体的な話を出して説得力を高めているので、この本で書かれている未来の動向は、個人的には悪い方向に行くという現実的な未来予想であるので、気が滅入るわ。
 国籍を問わぬ実力主義社会での仕組みを作れる能力と立場を持った超エリートの一人勝ち、「勝者総取りの時代」になってきている。そうした時代なので、先進国中流下流の没落し格差増大するが、途上国の底は押し上げられる、というか世界が平均化を促進するので、世界的にはあるいは良いことなのかもしれないけど先進国の中流以下にとっては厳しい時代となる。そして帝国企業の力は各国政府を動かせるようになっているが、そうした企業は特定国家に帰属する意識が薄く、節税でほとんど税を払っていないこともあり、国家の力は弱まり、社会福祉が切り捨てられるだろうということもあるから、ダブルパンチできついわ。
 それに対する処方箋が、企業帝国には彼らはイメージの悪化を恐れるから、彼らをしっかり監視し何かあったらそれ、例えば不衛生だったりや酷い労働環境など、を糾弾し、改善を促し、社会福祉などが切り捨てられて国家が頼りにならない状態になるから、友達関係などのネットワークがより重要になるからそれを維持・強化することが大事なんていう、いまいち頼りないものしかないのは、ある意味現実的な対処なんだろうけど、やれることの少なさと小ささにため息が出るな。あとは、習得するのに時間が掛かる専門的スキルなど、そうしたものを習得する、なるべくなら複数といった、ひたすらに個人の努力が求められるという、どう考えても普通の人ならパンクしたりしそうで、そうすることが楽しいと思えるように自分を洗脳、というのが言葉が悪いとしたら教育でもいいけど、できる人間でなくば、生きるために、好きなことに費やせる余暇など生きる楽しみがなくなるような道しかないように見える。そうなると自殺かうつ病かの二択、あるいは両方となる人がでる未来がリアルに思えるのが難点だな。
 そうした未来となることは抗えないのだから、そうした状況に適応しなければならないというのは理解はできるけど、割り切ったりはできないかな。
 「はじめに」でアップルが「アメリカ合衆国政府よりも多い現金保有高や株価の時価総額」を持つというのが話題になったと書いているが、そのことを知らなかったのでちょいと驚き、同時にそれを知って、そうした大企業はまさしく企業「帝国」というに相応しいと感じるようになる。
 エクソンモービル、アマゾン、マクドナルド、グーグルなど生活や商習慣を変え、政治に強い影響を持つ「私設帝国」である企業帝国。そうした企業帝国は、ソニーパナソニックなどのように色々な事業に手を染めるようなことはなく、得意な事業に集中する企業が多い。
 そして一般庶民は彼らが作った仕組みのなかで消費を強いられる存在となっていて、仕組みを作る側と、仕組みの中で使われる側の間に確かな壁が生まれつつある。
 格差問題は単なる収入の差でなく、企業が最大利益を追求する中で発生する「副作用」。
 帝国企業、小さな世界的な販売戦略や開発に携わる数千人のコアとなる超エリートと、コールセンターや単純作業で代替可能な数十万の人員。
 しかしそんな超エリートたちが集う本社でも実力主義とはいえ、社内政治もかなり殺伐とした様相であったり、勤務評定の低い2〜5%が毎年切られていくなど超エリートたちも競争が激しく楽とはいえないありさまだし、いまいちどこの立場にあっても救いが見えないなあ、このリアルな未来図で……。
 いくつかの様々な業種の企業帝国の末端の姿、最大利益のために犠牲になるもの(例えば途上国で苛酷な労働環境で働く従業員だったり、不衛生な場所で飼育される家畜たちなど)を、それぞれの業種ごとに章を立てて説明している。
 鶏、ブロイラーの改良で育つまでの時間が短縮されたということは知っていたが、食の好みによって、体重に占める鳥の胸肉の割合が10%から21%に増えたというように肉のつけ方まで帰るというのはちょっと驚いた、まあ少し考えればそういう品種改良を先人がするのは不思議ではないとは思うけれどね。
 大規模農場、何万頭といる牛がくるぶしまで自分の糞尿で使っているというのは酷いそして米国の精肉業が、低賃金の違法移民によって労働力がまかなわれている上に、精肉所の労働者の3人に一人が重度な疾病を患ったり怪我を負うということを見ると、20世紀初頭とかに社会主義者たちが批判していたような状況が今もアメリカのような先進国の中に顕然とあることには愕然とする、世界の実相がそんなにも、コスト重視で様々なものが切り捨てられているという状況であることに。
 グーグルやフェイスブックにとって利用者は、客ではなく商品であるというとちょっとショッキングだが、広告主こそが客でそこから収入を得ているのだから理屈はわからなくもない。しかしそれでも、利用者を商品として利用して商売しているという事実はそうした言葉で改めて言い表されるとちょっと抵抗感があるなあ。
 帝国は先進的サービスを提供するから、単に拒絶するだけというのももったいないし、どうあろうとも日常的に大きなウェイトを占めつつあり、使わざるを得なくなるものもあるので、上手に付き合おう。帝国はイメージ(世論やネットの声)を気にするので、企業が利益追求のために、やっているおかしな行為にはしっかり声を上げて対抗しよう。……みたいな常識的過ぎるし、個人でどうこうできない話なので、結局そういうものだと諦めなければならないが、ただ声が大きくなれば反応するからどんな不正なことをしていても口を閉ざして諦観しなければならないものではないということだけが、ほんのわずかな救いと言うことか。
 野球の試合結果や株式相場などについて、記事を自動生成するプログラムが既に利用されているというのはちょっと驚き。
 先進国では、より低い賃金で同じ仕事をしてくれる海外に仕事をしてもらうため中層(ホワイトカラー)の仕事が減って、低層の仕事サービス業が増えている。
 国家は政治の弱体化や既得権益の妨害で改革が進まないのに対して、企業帝国群は最大の利益の追求にひたすらまい進できるという状況があり、国家と企業の力が逆転している状況にある。そして先進諸国では社会福祉があてにならない状況になっていっている。
 最後はちょっと説教臭いのはなあ、この流れは止められず、先進国の一般民衆の状況は一層悪くなっていくことが必定なので、その世界のあり方を受け入れて、その世界で生き残るために、海外に流出できない職業についたり、専門的技術を身につけたり、いくつものスキルを持ったり、常に自分を高め続けるよう、努力せーよという話で、常識的・現実的過ぎるから、諦念しか覚えんし、ため息しか出ないわ。
 世界の流れがいくら速くなっているとはいえ、先進国の中層以下が没落し厳しい状況となる時代が、そんな早く終わって、世界全体の底上げが行われる時代になるとは思えんから、未来に希望が持てんのだわ。