ミャンマーを知るための60章

ミャンマーを知るための60章 (エリア・スタディーズ125)

ミャンマーを知るための60章 (エリア・スタディーズ125)

2011年3月の新政権発足以来、世界の耳目を集めているミャンマーとその魅力を、ミャンマーに長期滞在した日本人、また日本に留学や仕事で長く暮らしているミャンマー人の執筆者が、その経験と知識にに裏付けされた視点から紹介する一書。

(ホーム > ミャンマーを知るための60章 明石書店HPより)


 以前ノンフィクション作家高野秀行さんのブログで面白いとかかれているのを見て興味を持っていたが、ようやく読めた。
 この「エリア・スタディーズ」というシリーズの本を読むのはこの本が初めてだが、ミャンマーに限らず他にも色々な国についてのこうした本が出ているようで、ある国のことを知りたいと思ったときに読むにはかなり良さそうな感じのシリーズなので、このシリーズの存在を知ったことも収穫かな。
 歴史、自然、社会、文化、政治、経済の6つのカテゴリーそれぞれに各10章ずつ割き、それに加えて各章末にコラムが2つずつ付されている。そうしたそれぞれのカテゴリーに同じだけの章を立てているので、幅広く、内容の偏りの少ない(1つの国について350ページほどでなく完璧な形で説明するのは不可能だろう、いや何万ページ使ったって。)形になるように作られたバランスの良い本。
 今までミャンマーについての知識は、高野秀行「アヘン王国記」「ミャンマーの柳生一族」で得た知識くらいしかなかったし、この本を読んだのもミャンマーに格別の関心があるからというよりは、この本が面白いとその著者がブログで賞賛していたからなので、ある程度の知識がないから一読したくらいでは直ぐに頭が飽和して、色んな情報が一杯ある本ではあるのだが、情報を入れるそばから零れ落ちていくというか、どうもしっかり記憶できなかったから、なんか悔いというのかな、そういうものが残るような読後感。もうちょっとミャンマー関連の著作を読んでから再び読み返してみよう。
 しかし高野さんの著作で読んでいて、そこで読んだことって案外覚えているものだな。そしてリーダビリティー高いノンフィクションだったけど情報量豊富だったのだなと改めて感心する。
 そしてこの本を読んでいて改めて、東南アジアについての知識があまりにも足りていないことに気づいたので、東南アジアについての本を今後は少しずつ意識して呼んでいこうかな。そうした知識のなさもあって、これまでミャンマーベトナムがなぜかごっちゃになってどっちだっけと思うことがあった(日本と韓国と中国をごっちゃにする外国人の気持ちがわかった)が、少なくともコレを読んだことでそうしたことは確実になくなったといえることが一番の収穫かもしれないな(笑)。
 ビルマの4代に渡る王朝は、ビルマの王統がインドの釈迦族に出自することを示しているというのは面白い。それだけでもいかに仏教の信仰が扱った地域なのかが良く伝わってくる。
 ミャンマー人執筆者が書いた項もいくつかあり、それらの項ではその地の感覚・日常のが垣間見える文章もあって(例えば[6]とか)、それらは読んでいて面白い。
 民族の概念は『英国による国勢調査などの統治義撃つの浸透を通して外から与えられたものと説明されたが、』(P51-2)それと同時に英国に敗れて王制が廃止されて、アイデンティティ危機にさらされた人々によりミャンマービルマ民族を見出し、それをよりどころとしたという面もある。
 英国統治下に置かれる以前も南アジアとの交流においてその地の人がミャンマーに土着化することはあったものの、現在いる南アジア系(インド系)の住民の多くは英国の植民地になっていた時代に都市労働者として移民してきた人々である。独立したミャンマーは土着諸民族連合という形をとっていたこともあり、近くにいる内なる他者としてそうした南アジア系の人々を独立後は差別的な待遇を受けていた。
 バマー・ムスリムミャンマーの文化になじみ比較的古くからミャンマーに土着している人々もいるが少数で、そして英国統治時代に新しく来たムスリムはインドの服を着て、インドの言葉を話しているのでムスリムミャンマー文化と相容れない存在と一般的に見られるようになって、独立当初は土着民族と見られていたがやがて、土着民族とも認められなくなり、ミャンマー社会に溶け込んだムスリムたちが逆に社会の周縁に追いやられるという状況となった。
 そして近年になってミャンマーでは仏教とムスリムとの対立は激しくなっている。
 ミャンマー、全体としては植物についての調査が最も不十分な地域の一つで、『特に雨季になると立ち入りが困難な地域が多く、雨季に開花する樹木や、雨季にだけ地上に姿を現すような草本植物にはまだ知られていないものが多く残されていると推測される。』(P81)植物にそんなに関心のある性質ではないのだが、そういうのはなかなか興味がそそられる。
 田舎町では今も馬車が、バスやタクシーと同じ赤いナンバープレートをつけられ、公共交通機関として用いられているというのは驚きだな。
 ミャンマーの使役ゾウ、仕事のときだけつれてきて働いてもらい、あとは森に放し飼いしておき、半分以上の時間を自然の中で過ごす半野生の状態というのはすごいな、それでよく仕事してくれるな(笑)。ゾウが子供のころはしっかりそうしたことができるように訓練させるとかそういうのがあるのかな?
 カワゴンドウというイルカと協力してする伝統的な漁法がある。その漁の手順は、『水位が下がった乾季にイルカを見つけた漁師が船縁を棒でたたき水中に信号を送り、そこでイルカが尾ひれで水面を一つたたけば契約成立。彼らは船を漁場に誘導し、魚を集め始める。決めの合図もやはり尾鰭。激しいはたきに立ち上るしぶき。そこを目がけて放たれる投網。漁師は魚群を一網打尽にでき、イルカは手繰り寄せられる網の末尾についていけば網目と底との間隙から逃げ出す魚を労せず食べられる。こうした共生関係ができている。』(P90)というもので、野生のイルカとそういうことができるんだと驚いた。しかしそうした伝統的な漁法も現在、存亡の危機にあるようだが。こうした想像しなかった、風習や伝統について色々と知ることができるのは楽しいことだ。
 そして、ミャンマーの大学入試、試験の評価点で進学する学部が決まるというのはなかなかにすごい制度だな。
 ビルマ料理、油たっぷりのおかずとインディカ種のご飯を多く食べるというものだが、そうした油を大量に使う料理があるとは知っていたが、どこの国の料理かについてはちょっと覚えていなかったが、ミャンマーだったか。今回こうやって読んだのでそうした料理はミャンマーの料理だというのはしっかりと記憶できたわ。まあ、多民族だから都市部では違う民族間での痛恨も多いから家庭ごとに違うし、それぞれの民族の料理を出す飯屋もあるから、少なくとも都市のビルマ民族はずっと油を大量に用いた料理を食べているわけではないだろうが、日本人だからってずっと和食ばかり食べるというわけではないように。
 46項で、ミャンマー公務員について書かれているが、エリート意識をもっているが、公務員の給与は低く、副業収入に頼らなければならない状況で、しかしそれでも公務員としての道を選ぶ人が後をたたない。それはなんでだろうと思ったが、『「武士は食わねど高楊枝」という言葉を思い出させる』(P288)と項の終わりで書いてあるのを見て、なんか納得した。
 タイとの国境に多くの難民がいて、民主化しても難民が減らないことから民主化とは別の原因で難民が生じている、というのはその理由についてちょっと知りたくなる。だが、それと同時に欧米諸国への移住目的でキャンプに「難民」として入る人もいるというのはなんだかな。
 販売利益率が15%あっても、闇の金利が平均年60%なので、販売利益率15%は資金投下期間が5ヶ月とすると月に3%の収益で、闇の金利の場合は月5%となるため、ミャンマーのビジネスマンはその事業に興味を示さないというのは、ちょっと面白い。闇の金利との比較ねえ。
 巻末にブックガイドとミャンマーを知るための年表が付されており、ブックガイドには単なる書名の羅列ではなく、その内容について一言説明されているのがいいね。そして、年表には出来事の羅列だけでなく、その出来事について少しでも言及している章の番号が後ろに付されているのは、後から何かを調べたり、何て書いてあったかを確かめる際に便利だろうからありがたい。