RPF レッドドラゴン 1 第一夜 還り人の島

内容(「BOOK」データベースより)

世界の覇権を懸けて争う巨大国家・ドナティアと黄爛との狭間に位置する謎めいた島国、ニル・カムイ。その守護神とも言える“赤の竜”に突如生じた異変の原因を突き止めるべく組織された“混成調査隊”のメンバーたちに、この島の運命は委ねられた!救うのか。滅ぼすのか。それとも、“革命”か―。TRPG(テーブルトークRPG)の手法を用いて物語を描き出すRPF(ロール・プレイング・フィクション)企画第一弾、虚淵玄×奈須きのこ×紅玉いづき×しまどりる×成田良悟が紡ぎ上げる奇跡の物語。これぞ五人の英雄が織りなす、最高の冒険譚!


 帯にある2月に発表される映像化を含むメディアミックス、まさかのアニメ化か!? どういう形で映像化されるのかちょっと楽しみ。
 星海社のホームページ「最前線」に連載されていたのは読んでいたけど、実際に単行本で読んだのは1巻きりだった。しかし文庫化になってお求めやすくなったのであれば、シリーズを集めてみようかな。そのページで、三夜〜六夜上がもう見れなくなっていることだし(笑)。
 有名な作者たちによるTRPG(テーブル・ロールプレイングゲーム)のセッションのリプレイ本。TRPGリプレイとはいっても既存のシステムによるリプレイではなく、この1度きりの企画のために作られたオリジナルのシステムや世界観で物語がつむがれる。しかし1つのキャンペーンのために、何人ものそうしたシステムつくりのプロが携わって設定がふんだんに作られ、また多くのシナリオ分岐を用意しては、一つ選択するごとに多くの組み上げられた予定が破棄されるその贅沢さ。
 二つの巨大国家黄爛とドナティアにはさまれる島ニル・カムイだが、赤竜に守られていたことと皇統種の存在があって、両国はこの場にろくに人を送れず、独自の国を形成していた。島を統べる皇統種がいなくなってからその巨大な2国に翻弄されていた。さらに最近になり、赤竜が狂って村落を襲う事態が起きる。それを知った勢力争いをしている両国は、互いに精鋭(黄爛から婁震戒、ドナティアからスアロー)を出し赤竜討伐を試みる。そしてこの島のトップである議会には両国から戦力制限されているため、革命軍の首魁阿ギトの釈放を条件に精鋭二人(エィハ&忌ブキ)が革命軍から出される。
 忌ブキ(PLしまどりる)や、婁震戒(PL虚淵玄)はロールがぴったりはまっていて素敵。後者についてはそのキャラがはまっていていいのかというのはあるけど、あくまでPLとPCの発言が分離していないというか、PLからしてそのキャラらしくふるまっていて素敵。初々しい忌ブキと、クールな狂人の婁震戒。
 スアロー(PL奈須きのこ)の場合はこのPCだとこうふるまうなとか言ったり、メタっぽいことも若干している(婁への警戒とかもたぶんPL視点からのものでしょ)のは、それはそれでわいわいやっているゲームっぽさがあっていいけど、シリアスな物語として見る分には忌ブキや婁震戒のようなPLとPCが(少なくとも読者視点では)ぴったりとはまっているキャラのことが特にいいなと感じる。
 忌ブキは逡巡しながら進む正統派少年主人公キャラで、婁震戒はその本性をPCには見せない曲者な狂気を含んだ暗殺者。
 最初のシーンからエィハ(PL紅玉いづき)を不可避なことで殺したというシーンはちょっと衝撃で、最初に読んだときもそう思ったが一体これからどうなるかという期待感が一気に高まっていいね。そしてそのエィハと忌ブキのシーンがここで途切れ、次のスアローのシーンで、二人のシーンで何が起こったか知らない、二人と入れ替わりできた奈須さんが『FMどういうことよ! 紅玉さんすごい顔してたよ!? 目が死んでたんですけど!』(P50)といっているのもPL的にも混乱するようなことだったことがわかる。
 その後エィハは、この島特有の還り人という現象で蘇った。竜が近くにという特殊な状況下(作中世界的にも)ということもあったのか流石にペナルティはなくてよかった。
 阿ギトとイズン、イズンははじめのイベントで死んでしまったが、イズンには阿ギトは憧れであり、阿ギトにとって強い戦力を有するイズンは希望だった、しかしイズンは”つながれもの”として寿命が迫っているのを知っていたから獄中の阿ギトを待てなくなり、皇統種の忌ブキをかつぎ赤竜の助力を得ようとして一足飛びに革命成功させようとしたがあえなく死亡したというのはなんかいいなあ。その関係性もそのイズンの焦燥と、ことを知った阿ギトも気持ちが分かる故にそうしてしまったかとは思っただろうが、非難する気持ちも寸分もないだろうというような感じ。
 しかし婁震戒、ぶれずにそのキャラをやって、値踏みするように、特に警戒に値する能力のスアローをみたり、竜討伐のメンバーを尾行してみたりしていることや、一言二言の台詞でめちゃくちゃ笑わせてくれるのがすごいわ。ずるいくらい彼がやることなすことが面白い。
 そして婁震戒がスアローにいった「道具に嫌われている」という言葉、偶然だけどピンポイントにスアローの琴線、設定の根幹である彼のあり方と関わるようなことをいった、そのリアルで遣っているからこそこうした偶然性がとても魅力を増す。
 この回の最後は五行躰という魔術的・機械的な身体を持つ不死商人・禍グラバは、現在は身体の交換を行うための時期で動いていない。そのため黄爛とドナティアが曲者の彼を確保するために動く。
 そうした情報を聞いて婁震戒は影武者を置いて、自身は単独行で、彼の住む要塞のような独立都市に向かい、そこに暗殺者の本領を発揮して誰にも気づかれず単独で潜入して、禍グラバの面前まで来たというところで、禍グラバのシークレットPL成田良悟の登場で幕を閉じる。たぶん一人で来ることなんて予測していなかっただろうが、虚淵さんは地図から潜入しやすい場所を考えたり、能力をフルに発揮して見事に彼の元にたどり着いた。しかし禍グラバがPLでなかったら、殺されていたのではなかろうかと思える流れだったので、成田さんも裏で冷や冷やしてたのかもなあ、シークレットプレイヤーとして登場前にキャラが殺されかねない事態となって(笑)。