若き日本の肖像 一九〇〇年、欧州への旅

内容(「BOOK」データベースより)

20世紀を解読する「知の遠近法」。夏目漱石秋山真之南方熊楠…新世紀の熱い息吹に触れた若き日本人の精神と足跡。1900年の欧州で、彼らは何を見たか―。

 当時の欧州の様子と、そこでの日本人留学生ないし旅行者の姿を詳しく書くような本だと早合点して購入したけど、実際は1900年頃の欧州から、「1」戦後の日本はアメリカを通じて世界を見ている。現在は欧州が、欧州が持つ意味が、見えづらくなっている状態だが、開国初期の日本が欧州からおおい学んでいる。そうした20世紀に日本に世界に大きな影響を与えながらも、現在では見えづらくなっている、当時の日欧関係や当時の欧州を見て、そして現在の米国とは違う路線を試行錯誤しながら進む欧州を見る。当時の日本人がいかに真剣に欧州文明に相対して当時の日本の状況を考え、また学んだか、そして「2」20世紀に起きた重大な出来事(社会主義ファシズムなど)の予兆を見てとって、現在の日本では米国の方ばかり見て、そして米国の視点で考えることが多く、「欧米」と一緒くたにしてしまうことも多いが、欧州がまた別の視点を持っていることを知り、米国・日本だけでなく、欧州を知ることでより深く世界を、20世紀を見ることができる。そうやって欧州の重要性を改めて認識しながら20世紀を総括して、またそうして得た教訓や現在の世界についての話から、これからの時代(21世紀)について考えるといったといった本。そうした内容の世紀末2000年に出た、20世紀総括本。
 「1」は明治のエリートがいかに欧州の文化・文明などにふれて、いかに深刻勝つ真剣にそのことを受け止めて思考したか、当時の人たちの偉さについて書かれて、そうした真剣な学びの精神を見て、現代にいる私たちもそうした学ぶ姿勢を持とうという話で、「2」では、20世紀に大きな事跡、足跡を残した人物について、そうした人が生まれた社会的な風土・土壌についてコンパクトにまとめられている。
 どうも思っていた内容と違うし、その内容を説明するのに一言で言い切れない、20世紀総括本といえばそれで済むっちゃ済むけど、それだとタイトルにある日本とか当時の留学生とかが異物っぽくなっちまうから、微妙に収まりが悪いから、どう一言で言おうかなんて考えながら読んでいたけど、読み終えても言い表せないから、そこらへんに悩みながら読んでいたことと内容的にぜんぜん想像と違ったからいまいち楽しめなかったな。まあ、結局一言で言い表せなかったから徒労だったけど。
 タイトルから、当時の欧州の町の様子だったり、その留学していた日本人の生活やそこで生活して驚いたことなどをいろんな資料とか留学していた人の手記とかを引用しながら描くという類の本かと想像していたが、ぜんぜん違ったな。文庫の新刊本をろくにリサーチせずに買うときに、たまにこういうことがあるけど、読んでいて、それが悪くない本だとしてもコレジャナイと思いながら読むからいまいち面白く思えないのよねえ。単純にちゃんと調べず、タイトルで勝手に期待して買った私が悪いのだけど。
 単純に好きな、あるいは読みたいジャンルの本ではないということも多いからと言うのも結構大きな要素だけど。
 夏目漱石、ロンドン留学する際にもともと洋行を願っていたというわけではないので、明示に欧米留学した人としては珍しく国家を背負ってという類の気負いがなかったというのは知らなかったので、ちょっと意外に思った。
 浮世絵、日本から送られてきた陶器の詰め物の浮世絵を見た美術関係者が発見して、注目されたという説もあるが、最近の研究ではもう少し根のある話とされていて、1867年のパリ万博で展示された百点の浮世絵がジャポニズム導入のスタートとしている。ふうん、詰め物というのは有名だが、それは多分に俗説的なものなのね。
 「全体と個の調和」、西欧社会が苦しんでたどりついた「民主主義」や「個の尊厳と自由」について、当時のエリートたちも西洋技術文明に対する抵抗線として和魂洋才という言葉があるように、そうした思想・精神は、思想も技術も変えることでアイデンティティのよりどころをなくしたり、西洋化への反発者を減らすためと言う意識的・無意識的な意図があったのか、表層的にはともかく、真剣には学ばなかった。そうした「日本が西洋に学ばなかったこと」についても書かれている。そして学び得なかったことでした、時代の潮流の読み間違え、外交的ミスなどの失敗だったり、欧州の文脈・視点で見た戦前日本の行動と学ばなかったことでの手痛い罰としての敗戦について書かれている。そうしたことから改めて欧州を、世界をしっかりと学ぶ重要性あるいは教訓(「欧州動向が見えなくなると日本は混迷する」)を示している。ということでいいのかな。自分の中でどうにかまとめようと試みたもののが、わかりづらい上に、まとまっていないという感じは強くするけど、何時間もそれほど強く感じるものがあったでない本について色々と考えるというのは、もう疲れたのであきらめた。
 解説にこの本を「思索の書」と書いているように、色々なことに触れて書いてある。20世紀を改めてみることで今後の日本を語りたいというのはわかるが、色々なテーマの話があるから、読解力がないからどこが要点なのかわからず、ちょっと困惑してしまった。
 そして副題に一九〇〇年と書いてあるけど、一九〇〇年だけにしぼって書かれているわけではなく、他の要素の割合がかなり大きくて、例えばマルクスケインズフランコなど20世紀の政治・経済などに大きなインパクトを与えた人物の紹介にかなりの尺を使っている。
 終章では、資本主義の総本山である米国と違い、欧州主要国では社会主義政権が誕生したなど資本主義の欠落部分をどうにか補おうと試行錯誤してきた非米国流の資本主義のもう一つの方向性といった米国と欧州との違い、または国際機関でも米国本拠があるなら米国政府の影響を強く受けるが、欧州本拠である国際機関はそれとはまた経路が違うことや米国に飲まれずにEUを形成など対立軸として登場とする現代の欧州のことを説明して、改めて米国との差異を明らかにして、また戦後の米国べったりではなく多元的外交というものが必要となってきている中でもあるので、改めて欧州を学ぶ意義が高まっていることを示す。