本好きの下剋上 第一部 兵士の娘 1

内容(「BOOK」データベースより)

幼い頃から本が大好きな、ある女子大生が事故に巻き込まれ、見知らぬ世界で生まれ変わった。貧しい兵士の家に、病気がちな5歳の女の子、マインとして…。おまけに、その世界では人々の識字率も低く、書物はほとんど存在しない。いくら読みたくても高価で手に入らない。マインは決意する。ないなら、作ってしまえばいいじゃない!目指すは図書館司書。本に囲まれて生きるため、本を作ることから始めよう!本好きのための、本好きに捧ぐ、ビブリア・ファンタジー開幕!書き下ろし番外編、2本収録!

 去年の下半期に知ってから、かなりはまった、それもめったにないレベルではまった作品なのでweb小説の書籍化なので迷わず購入。しかしamazonで購入したため、ちょっと手元に来るのが遅くて、読むのも遅れてしまった。
 まあ、迷わずといっても実は購入を決心したのは、書き下ろし短編が2つ付いていると聞いてのことなのだけど(笑)。
 イラストは表紙だけ見るといまいち好みじゃなかったけど、折りたたみのカラーページや実際の挿絵を見ると、非常にきれいなイラストで、子供の等身もバランスいいし、大人達も格好いいし、多彩な表情も魅力的にかけているしでいい絵師さんだなと、当初微妙だなと内心思っていたことを謝りたいしだい。特に石盤と石筆(小さな黒板とチョークみたいなもの)でこの世界の文字を書いて、頬が紅潮し口を緩ませてキラキラと本当に幸せそうにしているP117のイラストとか、粘土板潰されて泣きながら起こっている201ページのマインのイラストとか好きだわ。
 本と読書をこの上なく愛する大学生麗乃は事故で死亡した後、なぜか死した幼子マインに憑依することになる。そして彼女の精神が死んだ後に異世界でマインとしてかつての記憶(麗乃とマイン両方の)を持ちながら病弱・虚弱な肉体を抱えて生きることになる。そしてマインとしてその身体、裕福ではない家庭という不自由さを抱えながらも、自身の生命力の源である本を手に入れるために色々なことをしようとして、そうする中で色々なつながりを得ることになる。そして本のため、あるいは生活を満足できるものとするために、生前に得た豊富な知識を生かして彼女は色々この世界にはない物品を作ることになる。
 正直マインが安定して自身の能力を発揮できる地盤を得るまで、ちょっとどうなるかはらはらしたような気分があったし、また憑依して家族の中にいて虚弱さを心配されているから、なんだか騙しているような感覚があって(個人的になんだかしらないけど、どんな話でも、面白いといわれていてもそういう身を偽ることがわかってみていると見ていられないような気分になってしまうほど苦手)読んでいてなんだかちょっと辛くて、正直純粋に面白いと思えるようになってこの物語が好きだと自然に感じるようになったのは、この巻で掲載されている内容よりも後の話。そうした騙しているような感覚がなくなったのは、ルッツや神官長(後に登場)にそのことを知られ、それでもそのあり方を知って許容して彼女を叱咤し支えるキャラとなってくれてからのこと。それでなんだか肩の荷が降ろせたというか、そういうのを気にせず読めるようになった。
 まあ、そんなわけで正直序盤はそうした意識で読んでいたこともあって読み直しもしていなかったのだが、今後マインの家族の縁の強さや、ベンノとルッツがこの後心強い味方となってくれるキャラであることを理解して改めて読み直すと素直に楽しめるし、面白いな。
 冒頭にマインの家や彼女が暮らすエーレンフェストの街をイラストで描いたのが置いてあるのは、想像力が広がっていいね。
 しかし元が異常なほど本好きで、優秀だったという設定もあって現代知識で活躍しても、肉体的・金銭的に自分一人ではできないことがほとんどだということもあって、NAISEIにありがちな臭みが感じられないのはいいよね。
 本がなければ自分で作ると結論を出したというところに、かっとんだところがあるよね(笑)。私は単純に面白いから本を読んでいるだけで、何であれ(説明書だろうが何だろうが)文字があれば良いという活字中毒ではないが、マインはそうした活字中毒のさらに上を行くような自分の書いたことでも読み返せるものをもつことができるのでもいいというのは筋金入りですごいわ。
 しかし塩析の方法とか、いろんな細かいやり方をしっているってすごいわあ。今後もさまざまなそうした技術の知識や料理の知識を活用して、今回もそしてこれからもマインが活躍するエピソードが書かれることになるが、こうしたエピソードはやっぱいいよね。
 そうやった活躍を描きつつも、異世界での日常の生活がきっちりと書かれているところがすごく好きだわ。
 しかし魔法のある世界だけあって、変な食材、潰すとき変な声が聞こえて赤く染まるにんにくのような味をするものとか、中々キッツいなと思うと同時にこういう世界なら文明が更なる発展をしてもベジタリアンなんてでないんだろうなあと思ったり(笑)。
 書き下ろし短編2つは各15ページほどで、一つ目はマインのいないときの子供組の話、フェイとルッツがマインの怖さ(粘土板潰したときの)を語るというものだが、これはギュンター視点の閑話がなくなったことで消えたルッツのマイン評を出すという意味が大きい感じ。でも、夕暮れにフェイとルッツという2人の子供が買い食いしながら家へ帰る道を行くというシーンは情景が目に浮かぶし、なんだかいいな。2つ目は生前(麗乃)の話で、彼女の幼馴染視点で、いかに主人公が本好きだったかを示すエピソードが書かれる。