アルジャン・カレール 革命の英雄、或いは女王の菓子職人 上

内容(「BOOK」データベースより)

革命とその後の混乱を経て、平和を取り戻したフロリア。その王都パリゼの隅で、劇作家のオーギュストは小さな菓子屋を見つける。そこは魅惑の菓子で溢れていたが、無愛想な銀髪の店主は何やら怪しげで、すわ革命派の残党か、或いは盗賊かと疑うオーギュストだったが…!?“将軍の銀の猟犬”と呼ばれ名を馳せた動乱の英雄が、女王の菓子職人として大活躍!後に“菓聖”と呼ばれることになる青年の伝説を描く、ヒストリカル・ファンタジーが上下巻で登場!!


 読む前は戦国モノのライトノベルみたいに、てっきり歴史上の人物(海外)を使ったライトノベルかと早合点して、それは風変わりだし面白そうだと思って読みはじめたが、実在の人物をモデルにしたファンタジーなのね。まあ、その勘違いのおかげで読みたいと思ったラノベができて、上下巻と短いこともあり、実際に手を伸ばせて、詠みやすい良い作品だったのだから怪我の功名(?)かな。
 基本的に劇作家の語り手オーギュスト・ラ・グリュー視点で、菓子屋で女王のパティシエでもあるアルジャン・カレールについて書かれる。
 基本的に語り手がアルジャンに頼り、それ彼が助ける。あるいはオーギュストはアルジャンの菓子のファンなので菓子店にしばしば行くが、ひょんなことからアルジャンがかつて有能な軍人で英雄だった人物と言うことを知り、そうした過去があるのに何故菓子職人になったのか不思議に思っていることもあって、店番の女の子やちょっとした彼の言葉から彼の過去を垣間見たり、彼と女王のエピソードやシーンでそうした過去のことについてが話されたり描かれたりする。
 上巻は、美味しそうなお菓子の描写を楽しみながら、英雄の軍人で現在菓子職人(街で店も出しているが、女王の菓子職人でもある)という不思議な存在であるアルジャンという人物について知っていくという話。
 愛想がないクールなアルジャン。
 一話、何でわざわざ劇場の調理場で調理するのかと思い、単純に店にどやどや来られるのを厭うておるのかと思ったが、そもそも砂糖の出所が女優が持っていた砂糖を使ったからか。
 しかし軍人廃業しているのに、女王はなんで彼に暗殺者みたいな真似をさせているのかちょっと良くわからないなあ。見せ場やオーギュストにしっぽつかませることが必要なのはわかるけど、女王は彼を大事な存在と思っているのに、一線を退いて別の仕事をしている彼に手を汚させるのもちょっと違和感があるなあ。
 女王のイメージが薔薇ということもあり、薔薇香りの新作菓子を作っているけど、どうも女王にささげるものがそれ一辺倒ではちょっとワンパターではという気がしないでもないが、まあ、本人たちが満足しとるなら別段いうことないか。
 オーギュストが自分の書いた悲劇が受けないといわれて明るい恋愛要素多い喜劇を書いてくれといわれていることを嘆いているのは、何かとどっかで見たようなと思ったら、ああ、最近のライトノベルの流行へのちょっとした棘か(笑)。
 12歳で軍隊入って、18歳で軍隊退役って若すぎ! なんというか、そこはせめて現在20代後半とか、30代にしとこうぜ。若い主人公で過去云々としてしまったら、とんでもな低年齢にすごいことしてた設定になることがライトノベルにはたまにあるけど、あまりに低年齢過ぎるとリアリティ感じなくなるからなあ。
 上巻の後半、四話はアルジャンと女王の過去話。一平卒であったアルジャンが女王が即位する手助けをして、英雄と呼ばれるようになったのね。少女であった後に女王となる彼女はナポレオンモチーフの将軍に大義名分を与える神輿として自分を売り込み利用させ、利用した。
 アルジャンは低年齢で軍隊に出仕したということからもわかるように、豊かな家の出ではない。そんな中で、子供時代に近所の偏屈な学者のおじいさんの手伝いをしたときにたまに貰った菓子が本当に美味しくて、それが彼の菓子職人へ憧れるきっかけとなったというエピソードは好きだな、こういうのいいなあ。
 アルジャンは仕事としてやっていたから大した活躍はしていなかったが、女王となる少女を自分が守らなければならないという状況になって、八面六臂の大活躍を見せる。
 しかし女王となる少女に見出され、売り込まれた将軍は彼女を試してから担いだという経緯であるならば、この間のはじめあたりにオーギュストに君は将軍の猟犬ではといわれても、そうじゃないと否定し、女王の菓子職人だと誇りをこめて言ったという彼の反応もわかるわ。
 あとがき、この本でなく別の作品で六稿も重ねたあげく満足いくものができなくて、その作品諦めるというようなことが、著者クラスの作家でもあるんだとちょっと意外。