本好きの下剋上 第一部 兵士の娘 2

内容(「BOOK」データベースより)

見知らぬ世界で、貧しい家の幼い少女マインに生まれ変わってから一年。彼女は本が大好きにも関わらず、手に入れるどころか、読書さえ難しい中、本作りに追われる毎日だった。何とか文字を書き残すべく奮闘するも失敗続きで前途は多難。おまけに「身食い」に侵されて寝込んでばかり。持ち前の頑張りで、お金を稼ぎつつ、近所に暮らす少年・ルッツの助けもあって、ようやく本格的な「紙作り」が始まるが…さて、一体どうなるやら?本好きのための、本好きに捧ぐ、ビブリア・ファンタジー第2章!書き下ろし番外編、2本収録!

 てっきり「第一部 兵士の娘」はこの巻で終わるのだと勘違いしていたが、どうもそれは次巻まで持ち越しで、3巻の発売は初夏とちょっと間があくのか。
 この巻でも巻末に約15ページの短編が2つ新たに書き下ろされる。その短編は、コリンナとオットーの結婚話について回想する短編「コリンナの結婚事情」と、マインの母であるエーファ視点で井戸端会議しながら子供たちの話がなされ、また彼女がギュンターと結婚したときの話について少し書かれる「洗濯中の井戸端会議」。
 商人のマルクは計算機は使えるけど、どうしてその数字が出てくるのかわからなかったから筆算をマインに教えてもらって興味深いといっていたるなど、こうした細かなところで現代とのギャップを見せるのは、そういう当たり前と思っていた知識について感心されるのは新鮮だし、異世界だということを改めて感じさせてくれるから好き。またマインが約一年こちらの世界で過ごしてきたから、何か見つけたらとりあえず拾っていくという習慣が身についたというような些細な習慣の違いなんかが書かれるのもまたいいね。
 マインはいささか軽率なところがあるからついボロがでて、ルッツにその知識を怪しまれ本当にマインかと追求される。マインは真実(死んだ幼子マインの身体に、別の世界で死んだ自分が何故か入ってしまったこと)を話す。しかし現在のマインが憑いて、元々のマインを殺したのではないことが、本もあまりない世界、手に入れられない身分でこんな虚弱な身体になりたかったと思うと言われて、ルッツもそれを理解でき、またマインが今のマインになったのは1年前と知り、自分の知っているマインはお前だといわれる。こうして承認を得たことで、彼女は本当の意味でマインとしてこの世界に生まれ直す、この世界で生き直すことになった。
 なんか、こういう何か誤魔化しがばれるシーンはたとえ悪意でやったことでなくても、ドキドキした(web版での初読時は、正直これ終わるまでそういう緊張が嫌で流し読みしてたわ)けど、こうして自分の真実を明かして、それを了解して友のままにいてくれる人(ルッツ)ができて、フォローしてくれることになったのは良いことで、少しだけ安心感も増す。
 それにベンノもその知識、知らないはずのやったことないが知っているということ、を疑うも放り出されても仕方ない覚悟でそうした知識を教えたとマインにいわれて、商売になるならそんなこと構わないと理解者となるなど、そうした不自然さを感じつつも許容してくれる人ができたのもいいね。マインの家族はそんな革新的なことをしているとは理解せずに単に変わったことをする子程度にしか見ていないからな。それはそれで悪くないけど、読者の私にとってなんだか騙している罪悪感みたいなものがあった。こうしてそうした不自然さがあっても付き合ってくれる人ができた(それも複数)ことで、ようやくこの世界に地に足が着いたという感じか。
 しかしマインの家族はマインの知識の価値というのを理解していないからこそ、自然体で不自然に思わず接してくれるのだけど、そのせいで変なことをする困った子ども扱いされていた。しかしベンノとあうことで真価を見出してくれる人がでてきて、紙を作るのを援助してくれるようになったのはよかったのだけど、そうして商人の世界に踏み込むようになって、それまでにない立体的な装飾をほどこした髪飾りをつけた簪を値引きしたりとマイン自身もその価値をわかっていなかったことがわかるのが笑いどころ。
 今回はマインが紙製作に成功したり、髪飾りについてもベンノによって売られることになって母と姉に普通よりも大分高い内職になって彼女らが燃えたり、リンシャンが大規模に作られはじめたりと、彼女の知識で作られたものがベンノの力で今回で一気に商売になっていくのは面白いな。
 簪と飾り、家族からマージンをとるのに躊躇しているルッツだが、マインにこれも商人になるための勉強だし、それに自分で直接作らなければと思うのは職人的意識で、商人は物を作らなくても物を移動させることで儲けを得るのだし、今回のベンノも作っていないけど私達が作ったものを売買することで利益得ているわけでしょとマインにいわれてハッとそのことに気づく。
 マインがマルクに稼いだ金を預けていることをルッツが疑問に思っている(この世界の民の多くは冬支度前に少々タンス貯金するくらいなので、全額持ち帰らないことに少し罪悪感あった)と次に作りたいものができたときの設備投資のためとマインはいい、続けてそしてルッツは商人になることに親の賛成が得られないかもしれないのだから、そうなったときのためだったり、商人としての身づくろいをするために必要な物を買うために資金が必要でしょと言われて、ようやく納得。こうした貯金についての意識のギャップみたいなささいなことが書かれるのはいいね。
 web版では最近で番少なく、web版は第一部の再読はほとんどしていないが改めて読むとルッツ、いい男だなあとしみじみ思う。
 「コリンナの結婚事情」大恋愛かと思えば、オットーの猛烈なアプローチ、会った日にプロポーズで断られると、親のいる町で市民権と開店資金にしようと考えていた金を使い市民権を買って、それでもなにで食っていくのかと言われて断られると、現在の兵士の職の口を見つけて再度熱心にプロポーズという一直線なものだったのね。もうちょっとムードあるロマンチックなものかと思いきや(笑)。
 「洗濯中の井戸端会議」マインの父であるギュンターが相当なロマンチストなことがわかる。それを知って腑に落ちることもあるな。