勝ち続ける意志力


勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

内容(「BOOK」データベースより)

17歳にして世界一になった。2010年8月、「最も長く賞金を稼いでいるプロ・ゲーマー」としてギネス・ワールドレコードに認定された。職業、プロ格闘ゲーマー―。これから僕は、「世界一になって」、そして「世界一であり続けることによってしか見えなかったこと」について話をしたいと思う。それは「勝つために必要なことは何か?」「なぜ多くの人は勝ち続けることができないのか?」という話だ。いわば「世界一になり、世界一であり続けるための仕事術」とも言えるかと思う。その技術は、ゲームの世界ではもちろんのこと、それ以外の世界でも必ずや、前進のためのお役に立てるだろう。

 ウメハラさんは名前くらいしか知らなかったけど、最近ニコニコとかで格闘ゲーム関連の動画を少し見るようになったので、何かそれに関するまとまった本が読みたいと思ったので、その世界のトッププレイヤーである著者の本を読む。そもそも、そうした動画を見るきっかけとなったのは、昔テレビでやっていた海外の盲目の格闘ゲーマーの話をふと思い出して、それを調べていたら、その裏話について話している動画を見て、そこから総師範KSKさんについての話を色々動画で見て、それが面白かったので、ちょこちょこと他にも格闘ゲーム関係の動画を見るようになった。
 amazonで「本>ビジネス・経済>ビジネス実用> 仕事術・整理法」という分類にもなっているようにビジネス本的・自己啓発盆的なスタイルの本。そうした成長とか向上心とかそうしたことを盛んにいっている本は、読んでいてゲンナリしてしまうため、あまり好きでないのだけど、あくまで自分のことを語っているだけで押し付けがましさがないから読めた。それに、ウメハラさんの想像以上のゲームに対するストイックな取り組み方と真剣さを通して、格闘ゲームのトップの世界の真剣さもかいまみれた気がするので良かった。
 プロローグで、背水の逆転劇と呼ばれているウメハラさんが世界的に名が広まるきっかけとなった試合の話から始まっている。そこでの描写を見て、ちょっと実際の試合見てみたいと思って動画を見たが、素人でもそのすごさが伝わってくる動画で面白かった。
 「結果を出す」と「結果を出し続ける」の両者は根本的に違い、この本は後者についての話。
 ゲームに没頭していることに不安になりながらも、それでも好きなゲームの世界で格闘ゲームを追及した中学時代。他の人が勉強やスポーツに打ち込んでいるように自分もゲームをと思っていたが、自分が格闘ゲームをしていることへの迷い、これでいいのかという気持ちは、その後も(プロになるまでは)なかなか払拭されなかったようだ。
 形に縛られて、プレイの幅が狭くなるためスタイルを作らないし、「ウメハラの良さはここ」と指摘されると(無自覚にそうしたプレイに頼っていたのだろうと思うからだろうか)、そうしたプレイは極力捨てる。
 『勝負の本質は、その人の好みやスタイルとは関係ないところにある。勝つために最善の行動を探ること。それこそが重要なのであって、趣味嗜好は瑣末で個人的な願望に過ぎない。』(P56)
 最終的に絶対的な力量を高めて勝つこと、それ以外は瑣末なことと切り捨てて、スタイルを持つことを忌避しているその姿勢には、長年世界のトッププレイヤーとして君臨しているだけあって絶対王者の貫禄があって格好いい。
 便利な戦法や行動を選択して練習すれば、効率的に実力を10(一般的な努力で到達できる最高点)まで伸ばせる。しかしウメハラさんは非効率に見える、ダメと思えることでも一度やってみるという片っ端からの徹底的なトライアンドエラーを繰り返し、完璧にそのキャラの全てを分析して、把握していくことを目指す。そうした方法を取っているため、最初はそれほど強くはならないため、効率的な方法をとっているプレイヤーに勝てないが、最終的には11、12、13という強さを手に入れる。そうした11以上の力を手に入れるには、その先があるのか分からない、道があるのかもわからないところに踏み入ることが必要となる。そして著者にとって格闘ゲームは特別なものだから、その険しい道を迷わずに選べる。格闘ゲームは新しいゲームが出てくるので、11以上の強さを10年、20年と持ち越せるものではないが、それでも10の強さを超えたときの成長の実感と充実感のためにはどんな苦労でもいとわずにすることができる。
 そしてそうした便利な技に頼らず、むしろそれ以外で勝つ方法を探し、努力することで、キャラ頼り技頼りといったシステムに頼った強さではない本当の実力を手に入れることができる。そうしたストイックな姿勢が、長く格闘ゲーム界の頂点に位置し続ける力なんだろうな。
 相手の弱点をついて勝つのは好きでなく、むしろ相手の長所となる部分で勝負を挑む。たぶん究極的には、完全な実力、有無を言わせぬ絶対的な強さを手に入れてそれで勝つということが理想なのだろうが、そこまでストイックに絶対的な力量を重視するというのは、剣豪とか武道の求道者みたいな感じの格好良さがあって、思わず感嘆してしまう。
 変化が一時的な交代を意味しても、成長するためには変化が必要で恐れず変化し続ける。
 『あえて嫌いな人と付き合い、嫌いと感じずに過ごせるようになれば、そこに自分自身の成長を見ることができる』(P91)そうしたことを自分自身の成長と見る観点はなかったので、ちょっと目からうろこ。
 『これまでの経験から、あきらめなければ結果が出るとは言い切れない。だが、あきらめずに続けていれば人の目が気にならなくなる日来るのは確かだ。そして、人の目が気にならない世界で生きることは本当に楽しい、と確信を持って断言できる。』(P108)
 流行っている最激戦地のゲームで挑戦するからこそ、より力を高められる。
 2004年、23歳で閉塞感を感じはじめゲームの世界を離れ、麻雀の道に踏み入れる。そこでも研究熱心さを発揮して、麻雀のプロにもなれるくらいの実力をつけるも、格闘ゲームと同じことの繰り返しになるだろうことを直感して、麻雀もやめて、介護施設で働くように。
 そしてそこでの仕事は充実していたが、ストリートファイター4発売直後に、友人に誘われてゲームセンターに足を運び、久しぶりにゲームをして、そこで充実感を感じ、改めて自分はゲームが勝負が、心底好きということに気づく。
 継続できない、自分を痛めつけたり、苦しいことを我慢する努力は、自分が努力している気にさせるが、それは間違った努力。継続できる適度な量を継続することこそが肝要。
 そしてさらっと書いてあるけど、『基礎練習では、30分の1秒以内に入力しなければ無効になってしまうコマンドを99%ミスなしでできるレベルを維持する努力を続けてきた。』(P224)というのはやばいな。これを見て、いかに格闘ゲームの世界がとんでもないことができるまで練習した人が集っているのかが、そしてその世界の激しさが少しでもわかった気がした。