アルジャン・カレール 下

内容(「BOOK」データベースより)

若き女王ロクサーヌの治める平和なフロリア。王都の片隅の小さな菓子屋には、今日も劇作家がやっかいごととともに駆け込んでくる。そんな平和な日々が、不意に揺らぎ始めた。フロリアの守護神、バルトレオン将軍の遠征失敗によって。フロリアは再び混沌に呑まれるのか―。その行く末は、国際会議の席でのロクサーヌの外交、そしてその席で供されるアルジャンの菓子の力に委ねられた!!“菓聖”の伝説を綴るヒストリカル・ファンタジー、緊迫の下巻!!


 上下巻で短く、綺麗にまとまっていて、日常的な話も多くあって面白かったわ。最近中々新しいシリーズに手が伸びなかったけど、億劫がらずに読んでみるものだと再認識。
 「第五話」他国と婚姻することは女王本人はできないし、縁戚も少なくなっているだろうから、なんとか形式的に親戚を作って他国の王室とつながりをつくることは必要だとはいえ、年上の国内貴族の娘(シュゼット)を自分の養子にして婚姻外交に利用するとは随分な力技だな。
 オーギュストはアルジャンとシュゼットの間柄を恋人だと思い込み暴走、アルジャンの名前で恋文まがいの手紙を出すとは、一人合点で事態をこじらせるなあ。シュゼット本人がそれをアルジャンの手のものではないと見抜いていたからこじれなくてよかったけど。しかしアルジャンと彼女は、腹違いの兄妹でそれに互いが気づいているし、相手もそれを知っていることを知っているが、それを直接口に出してはいわないが互いに思いやっているという間柄なのね。
 「第六話」バルトレオン、食事はスピード重視で味も気にしない人で、アルジャンが菓子職人になったのは資質の無駄遣いと思っている人だが、アルジャンの作ったマロングラッセを気に入って遠征中に補給物資としてマロングラッセを送ること求めたというのはなんだかいいね。
 「第七話」オーギュストはアルジャンに友達と思われているのか不安に思っていて、彼の口から無理に自分を名前呼びにさせて、友達だといわせようとしてうざがられる。しかし最後にアルジャンは新作のケーキに「友情」と名前をつけたことを知ってちょっとほっこり。
 「第八話」最後まで日常話で終わるかと思ったら、最後はバルトレオン将軍の遠征での敗走で、それまで彼の威を恐れて紛争を起こそうとしてこなかった各国がここぞとばかりにフロリアから利益を掠め取ろうとする。そのため戦争が目の前まで来ている状況下となる。そうはいっても、将軍は健在で国内が諸国にズタズタにされることはないが、国内で戦乱が再び起きる(とはいっても、今現在も将軍が後進諸国で植民地獲得に暴れまわっているわけだが……)のを恐れる女王は国際会議でなんとか戦争を回避しようという展開になる。最後にして一番の山場。それまで日常を積み重ねてきた分、彼女やアルジャンがその日常を守ろうとするのが良く理解できる。
 そして女王が自身の話術とアルジャンの製菓の腕で文化の高さを見せることで、戦争回避をもくろみ、菓子による演出で見事に「もし、そうなったら」という可能性を提示することで、戦争のデメリットを共有させたこともあって、何とか成功裏に終わらせる。まあ、結局エピローグ見るに後々には将軍と決裂して戦争になったりしたようだけど。
 しかしオーギュスト、前話から引きつづき、変に誤解させるようなことを口走るが、想い人がいるところにもよらず、彼の元に通い詰めていたからそれが妙な真実を帯びてしまっていて、七話で想い人に誤解されてしまったのもやむなし(笑)。
 あとがき、当初一冊にまとめるつもりだったというが、普通がどれだけのものか知らないけどプロットが原稿用紙換算で181枚って、それは流石に1冊ではね。