地政学入門

地政学入門―外交戦略の政治学 (中公新書 (721))

地政学入門―外交戦略の政治学 (中公新書 (721))

地政学とは地球全体を常に一つの単位と見、その動向をリアル・タイムでつかんで、そこから現在の政策に必要な判断の材料を引き出そうとする学問の謂であり、かなり高度な政策科学の一種である。従来、誤解されがちな観念論でも宿命論でもない。国際政治学が国際関係を静態モデルの連続として、その間の変化を細かくとらえようとするのに対して、地政学は国際関係を常に動態力学的な見地からみようとするものである。
地政学入門|新書|中央公論新社 より)


 地政学は世界の政治とかを理解するのに重要なものだということは知っていたから、以前からどんなものだろうと気になっていて、まとまった本を読みたいと思っていたが、難しそうだからと読むのが先送りにし続けてしまっていたけど、ようやく読めた。
 知らない学問だけど、現在は常識化したものが多いからこの学問の影響力は強いのだなとは思うけど、読んでいて目の覚めるように感じるようなものがなかったかな。
 まあ、大雑把に地理をもとに世界の対立を見る学問で、しかもその入門だから、そんなに目新しいことや深いことがなくてもしかたないのかな。
 地政学政治学の一種。20世紀初頭に起こった学問。
 一章では地政学創始者地政学という語は用いなかったが)マッキンダー、二章では地政学の歴史上重要な人物ハウスホーファー、三章ではアメリカの地政学を、終章ではソ連地政学について書いていて、学問としての大まかな歴史やを扱い、主要な人物の理論を説明をしている。三章・終章、冷戦時代に書かれた書物だということもあって、現在(当時)に繋がる歴史的な動き、あるいはそのまま現在の国家の動きを、地政学的に説明しているという感じの章。
 地政学の開祖マッキンダーは英国の人。彼はユーラシア大陸の心臓部(ハートランド)という概念を普及させ、その言葉はその後世界全体の運命を左右する動きの中心と言う意味で地政学の用語として定着。そのため彼の理論は「ハートランドの理論」と呼ばれる。
 シー・パワー(海上交通を維持し、保護する機能)とランド・パワーの対比論。
 マッキンダーの導入した国際社会観。かつて英国はそのシー・パワーを利用して、勢力均衡外交を行ってきたが、20世紀になってから独力で世界島( ユーラシア大陸+アフリカ大陸)を相手に勢力均衡外交の継続は不可能となった。そのため、それを独占する国家あるいは国家群を出現させないために、かつての英国の地位に変わる海洋諸国(シー・パワー)の編成と連携が必要。
 ハートランドとは、内陸アジアの一般に海上交通から遮断された地域のことで、真のハートランドをウラル以西の東欧と主張。
 第一次大戦後に彼は、世界島を制する国が出たら、世界の海がその国の閉鎖海になってしまうという恐怖のシナリオを描いた。
 本書が扱っている内容とは関係ないが、かつてのチュートン騎士団の所領であったバルト海沿岸部、ロシアの領土となった後も、ドイツの影響が長く残っていた。そういうことを読んで、ああ、ロシア文学とかでドイツ人が結構出てくるのはこのためかと納得。
 北のバルト海、南は黒海によって狭められた地域を完全に占領する、ウラル以西の東欧(ハートランド)の支配がなされると、その両方の海を閉鎖海にすることができ外部のシー・パワーからの有力な干渉を免れることができる。その状態を放置すると、中央と東欧の一部とを支配する中欧の国家(セントラル・パワーズ)はやがて地中海に進出して、その制海権を手に入れ、アフリカとユーラシアは文字通り一体となって世界島を形成することになる。そのため、それを防ぐことが日露から第一次大戦の戦略目標であり、第二次大戦の背景をなす事情も基本的にはその延長。
 橋頭堡、シー・パワーがランド・パワーを相手にし、それと取り組むときの足がかりとなる地域。
 『結論的にいって、東欧に政治的な不安定が続くかぎり、西欧は必然的にその大きな余波をこうむる。そして東欧を全体として支配する一大勢力が出現した場合には、西欧は完全に孤立した半島の地位に置かれてしまうわけだ。』(P70-1)
 ハウスホーファー。両大戦の戦間期に活躍したドイツの地政学者。地政学の大家だが、その理論がヒトラーに影響を与えたということもあって、その評価は否定的なものも多い。
 駐日武官として日本に滞在していたこともあり、日本にも多く触れている。ハウスホーファー、日本の正解指導者の国民世論を誘導する巧みさに感銘。
 彼がドイツ地政学を始めたとされ、そんな彼が影響を受けたものは大きなもので3つある。1つは、フリードリッヒ・ラッツェルのドイツ民族の生活圏の思想。2つは、マッキンダーの影響、シー・パワーとランド・パワーの対比論。3つは、日本の大陸政策。
 生活圏、定義あやふやな概念。
 ドイツの地政学、その方法・対象・結論で国際共産主義と驚くべき類似点を持っていた。
 日本、海上交通・貿易に依存する島国でありながら、生存条件が全く異なるドイツから学ぼうとしたのが後の失敗を生む。
 ドイツ地政学。現在はほとんど語るものがなくなったが、何かと役に立つ思想体系はそう潰えず、アメリカ合衆国の戦略家・国際政治学者に熱心に研究され、彼らに受け継がれた。
 アメリカの地政学ハウスホーファー地政学を熱心に研究、彼を批判しながらも彼の理論の系譜を継いでいる。市民権を得る。アメリカの章では、理論的な話よりも、実際のアメリカ政府の動きを中心に書いている。
 モンロー主義地政学的な理論と思ったことなかったからちょっと目からうろこ。新大陸に対する旧大陸への政治干渉排除から出発し、20世紀に入ってから東半球(ヨーロッパ)に対抗して西半球(南北アメリカ)の自主性をどう保つかという命題に対処することを迫られる。
 カリブ海派にアメリカの地中海であり、また西半球全体の回転軸。その地域にアメリカが積極的な軍事介入を行ったたのは、そういったような認識があったためであろう。
 かつてマッキンダーはユーラシア・アフリカを制した国は全世界を支配するといった。スパイクマン、西半球(南北アメリカ)だけ守り通してもナチスハートランド、そして世界島を制覇するならば、西半球の防衛は不可能で、ハートランドの外にある縁辺の諸国(リムランド)と共同してハートランド世禄の拡大を抑止するほかないという判断に到達。これがやがて封じ込め政策に変貌した。
 『アルゼンチンの陸軍内部では、むしろブラジルの領土拡張欲にたいする疑念が強く(略)、地政学的に見れば、ブラジルもまたソ連に劣らず危険な存在だとみなされている。』(P174)ブラジルは確かに大きな国だが、国として危険という印象はまるでなかったので、地政学で言えばそうなるのかとちょっと意外な見方にへえとなった。
 マハン、アメリカの地政学創始者。シー・パワーの理論。
 終章の「核宇宙時代の地政学」という大仰なタイトルには時代を感じるなあ。ソ連地政学について扱う。
 マッキンダーはかつてアラビア半島の付け根をユーラシアとアフリカを結ぶ陸橋(ランドブリッジ)と称したが、航空機・戦闘機が登場した現在でも戦略的な重要さは変わっていない。