物語の体操

内容(「BOOK」データベースより)

オリジナルのカードや方程式を使ったユニークなプロットやキャラクターの作り方を通じて、あなたの「物語る力」を再発見し、リハビリし、発達させるトレーニングとなる全六講義に補講を書き下ろし。徹底して実用的な物語入門書の形をかりながら、「なぜ人は物語るのか」という問題を根本から考え直すためにかかれた批評書、待望の復刊。

 この本で書かれている24枚のカードを使った、簡単なおはなしのあらすじ(プロット)を作るための練習法を、以前どこかのブログかなにかで見かけてから気になっていたが当時は新刊手に入れられなかったので、気になりつつも読めていなかったが、いつのまにやら新書として再刊されていたようなので、購入。しかし文庫の新刊はチェックしていても新書はほとんどチェックできていないから、1年以上新書として出ていたことに気づかなかったわ(苦笑)。
 この種のノウハウ本にありがちな文章の書き方ではなく、あまり書かれてこなかった、その前の何を書くかというものの、その書くための何か、おはなしの筋を上手く発想できる、作れるようになるための本。
 カードでストーリーを考えるとき、事前にどういうジャンルで作ろうと定めておいたほうがやりやすい。頭の体操、筋トレ的に多く作る。そうした言葉で制約されることで、同じようなパターンを発送してしまうという型を外せる。カードの言葉と数にはあまり意味がないようだ。飽きっぽいからプロットを100個作るとかはしないと思うけど、たまにこれを使ってちょっと筋を作ってみるのは面白そうだとは思うので、そうして遊び道具として使うと思う(笑)。
 物語の構造とかの話が多くて、そういう話は好きなので嬉しい。といってもあまり読んだことがなく、興味があるといったほうが正しいかな? 著者の生徒が書いた、上述のカードを使って作るプロットだったり、あるいは有名な物語の構造を換骨奪胎して作ったあらすじや、有名作や著者自身の作を舞台として作ったあらすじなどが掲載されているのも興味深い。案外プロット短くてもいいということと、カードの言葉をあまり厳密にとらえずに作ってもいいということがわかるので、それはハードルが下がるのでありがたい。
 おはなしに普遍的な6人の登場人物とその関係を示したグレマスの行為者モデル(↓)とかも使い勝手よさそう。

送り手→対 象→受け手
      ↑
援助者→主 体←敵対者

 初心者にはユニット方の主役の型が動かしやすいというのはなるほどねえ。
 つげ義春をノベライズした生徒の作品を見ながら、近代の日本文学、私小説について語られる。私小説的な仮構の「私」が語り出す、「私」への自己言及は日本語の特性? 「私」のキャラクター化の推移。
 教養小説のジャンル、日本の文学のなかでははっきりとした形をとっていない。そうした「通過儀礼の物語」の構造は大衆小説、「娯楽」として展開。
 著者80年代の終わりに若者の犯罪・逸脱行為、自作自演の通過儀礼と感じる。何人かの自殺した人や犯罪を犯した人が出来損ない(「私」を上手い落としどころ、終着点、までもっていけなかったと言う意味で)教養小説を書いていたことも。彼らは「教養小説」のモデルがないから、書き得なかった。カミングアウト式の私を分かってという小説でなく、私が私になるための教養小説を書くべきだった。「私」をキャラクターとして見て、それを物語構造に配置する書き方が手の届くところに示されていればとの思いがあった。
 ただそうしたものがあっても、「自前の教養小説」には、近代における「大人のモデル」と「大人になるための場の不在」という問題があるようだが。
 結構興味深い話も合ったし、なかなかに面白そうな遊び道具を手に入れられたので満足な読後感。