夜市

夜市 (角川ホラー文庫)

夜市 (角川ホラー文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた―。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。


 100ページほどの中篇二つ、表題作の「夜市」と「風の古道」が収録。
 この本は評判がいいし、著者の名も良く目にするから、以前からちょっと気になってはいたのだが、デビュー作のこの作品がホラー文庫で、ホラーではなくファンタジー的と書かれているのを目にしていても、でもホラー文庫で出ていて、個人的にちょっとホラー苦手だから読むのが遅れてしまった。実際読んでみたら、個人的に苦手な精神的に圧迫感のあるような描写やグロもなかったし、ちょっと不気味なファンタジーとして楽しめたし、平明な文章(軽すぎず、ごてごてとおどろおどろくしくしたような描写・文飾もない)で読みやすく、しっかりとした異世界を描写しているのは個人的に好みなので、今まで読んでこなかったことが悔やまれる。早速、別の作品も読もう!
 化物だったり、その異世界のルールを変に人間に優しくしたり、人間的に親しみやすくするのではなく、逆にやたらと厳しいものでもない。それでいて、ただその世界では当然のルールとして存在しているもののように描き、異界のルールは現実とは別のルールであり、また物理法則のように変えがたい確固としたもので、本当に「異界」(神秘的、稀有であり、同時にちょっと不気味さや怖さのある魅力的な場)という感じがしていいね。不気味であり魅力あり、想像力を書き立てる、なんか民話のような雰囲気の世界観であり話。
 「夜市」不定期に、どこかで異世界で開かれる(そしていくつもの異世界と繋がる)夜市へ向かう道が開かれる。そこでは買い物をしなければ帰ることができない世界のルールとなっている。
 いずみは知り合いの男、裕二に連れられて行く。彼は子供時代そこから帰るため、そしてそこで見かけた野球選手の器(才能)に惹かれて弟を売ってしまい、それを買い戻しにきた。そこまで読んで、交換と嫌な想像が脳裏をよぎったが、単純にそんなブラックなオチにしたりせずにそこから一ひねり、二ひねりいれて、二人と彼の弟の3人はそれぞれが望んだ結果を得て、ちょっと切ない感じがありつつも後味の良い終わり方だったのはいいね。弟が語る自身の数奇な体験(冒険譚)もとても面白い。
 個人的には短編、中編くらいの長さの作品を好きになることはあまりないけど、これは単純に面白いし、弟のエピソードとかは色々と想像が捗るし、好きだわ。
 「風の古道」ひょんなことから、別世界で独特の世界の摂理があり、化物がいて、かつて修行を積んだ僧などが通っていた道、「古道」の存在を知った子供二人がそうした由来を知らずに、そこに入り込む。現在の「私」がその出来事を語るという形式。
 外の世界を間近で見ることはできるが、外の世界と行き来できる場所は限られている。
 カズキと「私」の二人は、その出入り口まで一人の青年に連れて行ってもらうことになる。しかしその途上で、その青年レンと因縁のある相手が、青年に銃撃してきて流れ弾がカズキにあたり死んでしまう。
 そしてそれを見て、レンはあっさりとその攻撃してきた男を殺す。そのあっさりさにはショックを受けるが、旅の途上で話される彼の話を聞いて、そうした理由に納得。
 そしてこの道の世界の中で生き返らせられるかもしれない場所をレンと「私」、カズキの死体をつれて古道を旅する。
 その旅の途上、レンは「私」に自分の生い立ちを語る。ホシカワとレンの関係はいいなあ。年の差の相棒であり、親子のような存在だった二人。
 結局カズキは蘇生させるにはあまりにも高い代償が必要だとわかり、自然の摂理のままにそのまま死の世界へと解放してあげる。
 両方の短編で『永久放浪者』という語がでているので、彼は両短編の世界観的には繋がりあるのかな。まあ、夜市はさまざまな世界に繋がっているようだから、どの程度のつながりかはわからんけどね。
 そして永久放浪者なんて語を使っているところを見ると、現在の「私」はそれ以後もそうした世界と交流をもっているのかなと思ったり。