魔法科高校の劣等生 16 四葉継承編

内容(「BOOK」データベースより)

司波深雪の許へ、四葉本家から一族の有力者が顔を揃える新年の集い「慶春会」の招待状が届く。それが意味するものは、四葉家次期当主の指名。―自分が後継者に選ばれれば、兄も日陰者に甘んじなくて済む。―次期当主の地位にはきっと、それに相応しい「婚約者」が付いてくる。深雪の心は千々に乱れる。そして「慶春会」前夜。四葉本家へ出頭した達也たちは、現当主・四葉真夜の口から「深雪は達也の妹ではない」という衝撃的な「嘘」を告げられる。それは、兄を恋愛対象として意識してもよいという意味であった。はたして深雪は―!

 今回は四葉の黒羽以外の分家の有力者の顔見せと、四葉内部の達也が中枢を占めることに危機感を抱く人々が、彼らが次代の当主を発表するための正月の親族の集まりに2人がこれないように足止めするという展開ではあるが、実際それで足止めできたところで合議制って決まっているわけでもないし、真夜の心は変わらないので結果は変わらないから無意味な戦いであり、実力的にも隔絶しているから緊張感はないけれども、達也の力を同世代の有力者に理解させることにはなったかな。
 少なくとも有力な分家である津久葉家は、今の時点で、真夜よりも深雪が「優秀」と思っているとはちょっと意外であるな。まあ、強さでの比較ではまた違うのだろうけど。
 今回、達也が四葉家において邪険に扱われていた理由が明かされる。この巻で、達也と同じくらい世代のメンバーは彼への忌避感ないから、精神操作とかでそうなっているのかと思ったが、親世代が彼を恐れ迫害するのは彼の出生のときの妙な負い目からそうなっていたのね。
 しかし達也の出生がなんというか神話的・伝説的なものとなっているな。精神操作で胎児の性質を変えようとしたというある意味呪いであり祝いである行為によって生まれた世界を破壊できる能力を持って生まれた存在。潜在的な魔法技能を見通す能力を盛っていた家の人間(英作)がその能力を見抜いた。
 それを他の人間は恐れて、また呪/祝いによって自分たちが生んでしまったかもしれないことでなおさら彼を嫌悪した親戚連だが、英作に却下され、また世界を憎み恨む真夜はそうした能力を持った彼の誕生を喜ぶ。どう転ぼうと自分の復讐心を満たしてくれる存在として、本当に息子のように愛する、彼の「力」を。
 呪術的に超人を求めた人々と、誕生した赤子を見てその恐ろしいほどに強大な力を見通す占い師、そしてあまりに強大なその力を危ぶみ殺そうとする人々と、制止する占い師。そして彼の(感情に)枷が嵌められる(さらに枷として作られた美しきゴーレム)。成長した後も彼を畏れ、さげすむ人々。とすると、もう神話・伝説上のエピソードだと感じる。そしてこの世を倦む王(真夜)は彼の存在を喜び、後ろ盾となると。
 達也と深雪の関係は深雪が達也へそうした形での愛を持っていることから、そのキャラを崩さずに、綺麗にまとめるには二人がくっつくより他ないよなという感じで、そうした意味でもメインヒロインをはることは予想通りではあった。
 そして、そのためには二人の関係性が額面どおりの兄妹関係ではないという展開になるだろうとは予想していたけど、個人的には真夜が表向きに発表した達也が彼女の息子だということが、この兄妹関係の隠されていた秘密で、それが明らかになって二人が結ばれるということになると思っていたから、それが表向きの理由(嘘)として使われて、実際は違ったということは純粋に予想外だ。
 実際には、二人は全く兄妹ではないということではなくて、同じ父母ではあるが、深雪の方の出生が特殊だったというのは予想外だった。そして深雪が両親の遺伝子を使いながら四葉の技術の粋で持って作られた最高傑作の調整体であったというのは驚き。
 けれども、実際にくっつくのだったら、子供には悪影響でず、遺伝的には結構遠い関係だが、父と母は同じという血縁的に微妙でちょっとモヤッとする形でなく、もっと純粋に二人を祝福できるような表向きの理由どおり従兄妹とか、深雪が四葉の作った完全な人造人間で血縁ないとかであればよかったのにとも少し思わなくはない。まあ、血縁関係がグレーでなく完全な白で結婚できるならば背徳性がなくなってしまい、兄妹愛の妙味が消えるとかのこだわりがあるのかもしれないけどさ。いや、理由があるにしてもそういう特殊嗜好でなく、兄妹という関係が狂ってしまうというか、なくなってしまい、関係が著しく変わるから書きにくいということのほうが近いのだろうが。
 しかし敵になると思っていた真夜が達也の「力」を生まれたときから祝福していたことが明らかになり、むしろ達也の後ろ盾につき、その権威で他の分家連中を黙らせて、達也を自分の「息子」(表向きの真実)として、深雪の夫にして、他の分家連中の上に置くとは予想外。
 今回は思ったよりもずっと劇的な変化が起きて、四葉家周りの事情はこれで大体かたがついたかな。もっと血みどろの出来事を経て、四葉から解放されるという展開になると思っていたが、達也が四葉の中枢に位置するようになるとはな、しかもこんなにあっさりと。
 あと、黒羽の双子の亜夜子、薄々感じていたけど達也に惚れていたのね。
 巻末の広告ページによると次巻は夏ごろに発売されるということで、案外続刊が早く来てくれるのは嬉しいな。