サン・キュロットの暴走 小説フランス革命13

内容(「BOOK」データベースより)

国王ルイ16世を断頭台に送り込み、共和政の道を歩み始めたフランス。しかし不況はとどまるところを知らず、対外戦争ではフランス包囲網が敷かれ戦況は暗転、国内ではヴァンデ県を発端に内乱が拡大する。国内外の脅威に無為無策ながら、政権を手放さないジロンド派がマラを告発したことで、マラを信奉するサン・キュロットら庶民の怒りが膨れ上がり―。民意が革命を暴走させる、第13巻。毎日出版文化賞特別賞受賞作。


 マラ(ジャコバン派)視点はないが、マラのフォロワーで自身も新聞を発行して人気となって、現在パリ市第二助役となっているエベールが新登場して、冒頭から彼の視点で始まっていたり、マラの裁判について語られたりと、今回はマラが中心に物語が動く。
 1793年2月25日、財政難、植民地の反乱、戦争という事情もあったが、一旦は物価落ち着いていた、しかし再びの物価高騰(5割以上↑)でパリは再び暴動の季節に。
 ジロンド派は、過激なマラの論説(そしてパリ・サン・キュロットたちの間では、彼の言説の範囲内か否かで、その行いが許容される範囲内かが決まるくらいに影響力がある)を問題にして、彼を刑事告発しようと試みる。最初は、政争的な掣肘だったのかもしれないが、事態が進み、上手い状況が生まれたことで本当に刑事告発されることになる。
 食糧問題で過激な主張を唱える激昂派、あまりに過激すぎて、ジャコバン・クラブやパリ自治委員会にさえ煙たがられている。
 王の処刑により、イギリスまでが対フランス戦争に参戦。ジロンド派が恐れていたことがおこってしまった。
 そうした非常時の体制において革命裁判所の設立され吏員の任命が国民公会で行われることになるなど、議会のもとに権力が集中(立法のもとに、司法・行政がという体制になりつつある)。後のことを思うと、不穏な感じがどんどんと高まってくる感じを受ける。
 革命裁判所、デムーランの遠縁の親戚のフーキエ・タンヴィル、中々の切れ者で今後何か重要な役割を担いそうな気もするが、今回はまだ顔見世という感じで、何か政治を動かすような大きなことには関与していない。
 革命で得をしたのは町ばかりと言う不満がたまっていたところに、30万徴兵という大規模徴兵を実施しようとしたため、それに反対する地方が反乱を起こす(ヴァンデの反乱)。農民軍であると同時に、王党派の貴族たちも蜂起の指導者として名を連ねていて貴族軍でもある。貴族が参加しているため、ちゃんとした士官が指揮を取っているから精強で、しばしば正規のフランス軍を敗走に追い込む。
 デュムーリエが指揮する軍が敗退して、彼の責任を問う声高まる。また、彼に王国再興の野望ありとみなされ、彼は自身の軍と共に一地方を事実上占領して、議会に対して挑戦的な発言(事実上無政府状態)をするなど、クー・デタの疑いが強く持たれる。
 ダントンはこの戦時には挙国一致が必要で、それにはジロンド派の協力が不可欠と思っているから、ジロンド派との繋がり強いデュムーリエを庇う姿勢を見せている。しかしそのために彼に共犯者ではとの疑いの眼を向ける向きもある。
 それにも関わらず当のジロンド派がダントン糾弾をはじめたので、ちょっと前に妻を亡くしていたということもあり、その直後にこの不実に流石に堪忍袋の緒が切れて、ジロンド派とデュムーリエの繋がりについて議会で指摘し逆に攻めたて、相手を黙らす。これまでジャコバン派でありながら、ジロンド派とも繋がり、調整役をかってでて、なんとか挙国一致で政治を進めよう(そして自身のポジションを高めよう)としていたが、ついにジロンド派を政敵にまわす決心をする。
 それに触発され、ジャコバン派ジロンド派への攻勢の勢いを強めた。特にロベスピエール、そしてマラ。
 デュムーリエは議会への召喚を拒否し、使節として彼のもとにきた4議員をオーストリア軍に引渡し、国民公会に宣戦布告しクー・デタの意思をあらわにした。しかしそのクー・デタは王政復古の意図が見えみえで、兵士に指示されず、デュムーリエや幕下の人間たちは亡命することになる。
 その事件あってから、ジャコバン派の提案で「良き公安委員会」という国民公会の一委員会でありながら、内閣と行政の監督をして、祖国と革命に対する陰謀が告発されれば非公開の討議で一切の許諾なしに革命裁判所に訴追できる(議員、将軍、閣僚は議会の追認必要だが)機関が作られる。
 徴兵を速やかに進めるため地方へ多くのジャコバン派議員が出張していた隙に、ジロンド派はマラの逮捕についての議決がなされ、逮捕が決まる。そしてマラの裁判には、多くのマラの支持者が詰めかけ、有罪にしたらマラの奪還と暴動を起こし、有罪を決めたやつらはただですまさないと非常に強い圧力をかける。そのかいもあり、マラは無罪を勝ち取って、民衆に椅子ごと担がれながらそのまま議会へと赴く。
 そしてロベスピエールジロンド派への政争だけやりとおして、彼らだけは排除しなければという思いを強く抱く。まあ、それはジロンド派も同様だから、互いに徹底的に敵視して政争もいよいよ過激になるか。
 ロベスピエール生存権などを新たに規定した独自の新憲法案を出す。それに対して、ジロンド派が難癖をつけている最中、民衆に奉戴されたマラが議会に降臨。
 国民公会は議場を移し傍聴席の数が減ったことで、パリ市民の圧力を軽減する。しかしマラ訴追の陰謀も敗れたことで、ジロンド派に対する逆風強くなる。しかし地方年ではジャコバン派的やり口や、パリの圧力で国政が左右の政治に不満がたかまっているので、そうしたところを見れば穏健なジロンド派への支持は高いものがある。
 ジロンド派、パリからの議場移転を目論むもパリへ一矢報いたいという気分もあり、その話は進まない。今後を知っているから、こうしてずるずるパリの泥沼にはまっていっているのが、断頭台へ一歩一歩進んでいるような不穏なものが感じられる。