フォークの歯はなぜ四本になったか

フォークの歯はなぜ四本になったか (平凡社ライブラリー)

フォークの歯はなぜ四本になったか (平凡社ライブラリー)

内容(「BOOK」データベースより)

人間が加工してつくる道具やモノ、その形は、どうやって進化してきたのか―この問いに、要求される機能に沿って、と答えるのでは不十分。実用品の変化は、それが出来ることではなく、出来なかったこと、不具合や失敗の線を軸に歴史を刻んできた―デザインと技術の歴史に豊富な事例をもって新しい視点を据えつけ、“失敗”からのモノづくりを教える著者の代表作。


 フォークやナイフ、ペーパークリップ、テープなどの具体例を通して、様々な実用品が現在のポピュラーなデザインのものとなるまでの変遷を見て、現在一般的なデザインも完璧(完全無欠)なものでないことが書かれる。
 モノの(物理的、心理的、機能的、文化的な)失敗が物の形にどう影響を及ぼすか、その失敗による欠点を不便に思った人(発明家)たちがその部分を改善して、別の形ができていく。もちろんそうした試みが全て成功するとは限らないが、そうして色々な形が出てくる。
 解説によると本書の英語でのタイトルを直訳すると「実用品の進化論」ということからもわかるように、多くの発明家があるものの欠点を改善して、あるいは新たに誕生させた(ファスナーなど)歴史、身近なさまざまな実用品が現在の形になるまでの歴史を見る。
 食べ物を突き刺す手段としてのフォークが登場したことで、ナイフの刃先丸い。
 古代ギリシアでは鍋から肉を取り出す際の肉(フレッシュ)フォークを持っていたが、フォークが食卓で用いられるようになったのは、中東では7世紀、イタリアでは1100年ごろに伝わったが重要な役割を担い始めたのは14世紀頃、イギリスにフォークが登場したのは17世紀。
 初期のフォーク、歯がまっすぐだったので落ちないように水平に保って口に運ばなければならなかった。
 発明家、何か身の回りに面倒くさいものがあったときに、それをどうにか自分の気に入る、便利なものにしようとする人々。
 『どんな人工物にも、多かれ少なかれ機能上の欠陥があり、それが進化を推し進める要因となっている。
 さて、ここが大事なところである。作られたモノの形は、現状に認められる欠点や機能不足に応じてたえず変化を余儀なくされ、この原則が、全ての発明、革新、創意工夫を左右し、全ての発明家、革新家、エンジニアを駆り立てる。そこで、次のような推論が成り立つ。完璧なものなど一つもなく、その上、完璧さに対するわれわれの観念でさえ定まっていないのだから、ありとあらゆるものは、時の流れとともに変化を余儀なくされる。』(P47)どんなものにも欠点あるというのは、『ごく普通のディナーテーブルは、二人でも十二人でも使えること、小さな子供にも大きな大人にも高さが合うこと、傷やしみがつかないような見た目にも美しい仕上げがほどこされていること、邪魔にならずに天板を支えるような脚部があること、といった競合するすべての条件を同時に満たせないがゆえに、失敗作なのである。われわれが蚤とり眼で探せば、どんなおなじみのモノにも欠点は見つかる。』(P57)。あるいは右利き用の製品だと、左利きの人間には使いにくいという欠点があるということ。またこの本でもあげられているがハンマーの例でいうとハンマーにはさまざまな形やサイズのものがあるが、それはある一つの形のハンマーでは用途によっては不便(欠点)があるからそうやってわかれている。そして「時の流れとともに変化」というのは、使われる用途の割合が変わるからとか、もっと欠点の少ないデザインが出るからという意味かな。
 ペーパークリップの例を見れば分かるように「形は機能にしたがう」は誤り、ある目的を達成するためにはいくつもの形がある。最終的に一番使用に便利、あるいは形が優美というものが一般的な形になるというだけ。例えば現状のペーパークリップ(ゼムクリップ)にも曲線的な形の製でまとまった分量の書類に取り付けるのが困難などの欠点はあるけど、形の美しさもあって、他のデザインに勝利して最も一般的なデザインとなっている。最良の解決策を選定するのは決断と妥協の問題であり、『究極的には、望ましくない度合いが最も低い選択肢はどれかで決まる。』(P307)コストや見た目などを含めて。
 現在一般的になって普及しているモノでも唯一絶対の正解の形ではなく、他にも同じ目的を達成できる形もあるだろうということ。また、のこぎりが東洋と西洋で形が違うことからもわかるように、木を切るという一つのの機能に従った形は一つでない。
 缶詰が登場しても、缶きりが一般的になるまでたっぷり半世紀以上の時が必要であった。保存と利用、利用する際にどう開けるかは利用する側の問題というのが他のものにも言える。例えば人工物でないがヤシの実だったり、あるいは開けにくい(現在はそうでもないが)プラスチックの袋に入った調味料や食品など。
 たいていの新商品は不完璧だが、われわれが便利だと思う機能を不完全であれ実現しているから購入され、その形に順応していく。