ゴプセック 毬打つ猫の店


ゴプセック・毬打つ猫の店 (岩波文庫)

ゴプセック・毬打つ猫の店 (岩波文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

巨万の富を握り、社会を裏で牛耳る高利貸、その目に映った貴族社会の頽廃。天使のような美貌で、天才画家に見初められた商人の娘の苦悩。私生活に隠された秘密、金銭がつなぐ物語の構造。斬新な視点が作家バルザックの地位を築いた『私生活情景』の二作。

 大分前に購入したけど読めていなかった本だけど、ようやく読めた。正直何時買ったかについての明確な記憶はないのだが、たぶん、バルザック読もうと思って、わざわざこうしたマイナータイトルを購入したということは、たぶんコレがちょうど新刊だったとかそうしたタイミングだったと思うから、5年以上(6年近く)積んでいたということになるのかなあ。そう、改めて積んでいた年月を指折り数えてみると、積みすぎだなあ(笑)。
 「ゴプセック」と「毬打つ猫の店」の中編2編が収録。
 当時の市井の人々の生活というには、上流階級がメインだけど、当時のある風景を切り取った社会的に大きな事件ではなく、世間ではありふれている悲劇かもしれないが、一人の人生にとっては大きな出来事を中心としたある人生の物語が綴られる。
 wiki見ると、バルザックは自作をいくつかの分類にわけたようだが、これはその中の風俗研究の中の「私生活風景」という分類に入るようだ。感想を書くにはちょっと困るけど、こうした普通の人生で起こるような悲劇、それで起きるさまざまな人の行動や心の動きなどを描いているような、そうした話を見るのは読んでいて興味深いな。

 バルザックは「人間喜劇」と題して小説を、同じ世界観のもとで登場人物などを関連させているから、「ゴリオ爺さん」ゴリオの娘が「ゴプセック」に出てくる伯爵夫人だというのだが、以前読んだけどそちらは覚えていないから、もっと他の作品も読めば楽しくなるのだろうなとちょっと悔しく思っていたけど、解説を読むにこの小説はバルザックのかなり初期の作品だそうだから、そうしたことを気にする必要もなかったかな(笑)。
 まあ、いずれにせよバルザックの作品は読めば読むほどキャラの関連がつかめて、面白くなりそうだから、これを読んだのを契機に他の作品も続けて読んでしまおうかなという気が起きてきた。まあ、とはいってもバルザックの小説は人間生活の悲劇を活写するという類の作品群というイメージ(偏見かもしれないが)だから、本当にそんなに読めるかは微妙かもしれない。悲劇は苦手なのでねえ。

 「ゴプセック」革命後の復古王政の時代。時代的に1829〜30年にかけての冬と言うことだから、その後1年経たずに7月革命というのが起きて貴族制が再度廃止されるようだ。流石に財産没収とかはないだろうけど、この家族のその後は一体どうなるのかとその情報を聞きちょいと気になった。
 貴族階級の若い男女。女側の親子爵夫人はその男若い伯爵自身はいいけど、財産がないのと彼の母が浪費家で、かつてよくない噂の種だったことを懸念。
 それを聞いた代訴人(弁護士)デルヴィルが語る、今は亡き高利貸しゴプセック老人の話。彼に金を借りたその伯爵夫人と、それが縁で彼やデルヴィルと知り合った父伯爵が息子(長男)のために、なんとか財産を妻に渡さずに息子に遺そうと画策。そのためにゴプセックを信頼。それを察して伯爵夫人は不実な自らの行いの報いを避けるため、父ゴリオが亡くなったことが思い改めるきっかけとなって(愛人の卑劣さにも気づき)子供に財産を残すため、死の床に就いた伯爵にそうした動きをさせないようにするも、概ね死に瀕した父伯爵の思惑通りに進み、財産をゴプセックのもとに移動させたため伯爵夫人は没落。息子伯爵しかるべき年齢に達したため、ゴプセックの死後、変わりに彼に財産を渡す役回りとなっていたデルヴィル。そのため資産の心配なしと保障。それを聞いて、子爵夫人は喜ぶ。もちろん伯爵夫人に、その財産を勝手されないようにしないと言うこと忘れないが。
 結構当時の法律について、細かな話が言及されること多めなので、なんだか金を巡る人間模様を書いて法を描く物語のようでもある。
 しかし契約を結べるようになるのは25歳というのは驚き、今でも20で、昔のが大人になる、社会に出るの早かったのにそれはちょっと驚き。閑話休題
 伯爵夫人は不実(浮気)で財産をその愛人に貢いでいた。それで夫であるレストー伯爵に愛想をつかされ(というよりも愛が憎悪に変わり)、伯爵は彼女や子供(おそらく愛人の子)に遺産を残さずに、長男だけに自らの財産が渡るように画策したため、没落する。
 金を貯めることに偏執的なこだわりを抱いていて、金に関することで情を交えることはない。金欠で金を借りにくる人たちの媚びている様を見ることで、金の権力を感じるし、金を仮に来た人間が必死にそうした態度をとりながら言葉で自分を動かそうとしている様を(その演じようを)見るのが、それがとほうもなく好きだという人間。ただ、彼は同時に信頼されたら裏切らない男。つまり金に目がくらんで自らルールを破るようなこともしないし、変に恩を着せようとしない人。例えばデルヴィルが自らの法律事務所を開くときに借金を申し込んだとき、たなごころを加えず高利をとったが、それによって恩を感じて欲しくないと思ったから『いいかい、それはね、このわしには何の世話にもなっていないと思う権利をきみにあたえて、感謝しなくて済むようにしてやったのさ。だからこそ、われわれは最良の友なのさ』(P90)。
 革命期の人物の名前が出てくるけど、「小説フランス革命」を読んでから、その頃の人物の名前が親しく感じられるようになったな。
 レストー伯爵は死の間際に、(のちに息子に渡してもらうための)財産委譲計画の最後の詰めをしようとデルヴィルと会おうとする。伯爵夫人にいわれて使用人はデルヴィルとあわせようとしない。そのため死の床についている状態で彼は財産を残そうとした息子にそのことをいわず、デルヴィルの手紙をポストに入れてくるように深い愛を示しながら、懇ろに頼む。長男から、伯爵夫人は伯爵が言っていたことを聞きだそう(たぶらかそう)とする。彼女が卑劣な振る舞いによって目的を達する前に、伯爵は骨のようにやせ細った姿で最後の力を振り絞って部屋から抜け出て、彼女を糾弾した。それで力を使い果たし近くに死亡。
 その後、ゴプセックの死の話が書かれる。最後は、元のサロンの場に戻り締め。その伯爵の息子(現レストー伯爵)との結婚、資産の心配ないということがわかり、順調に結婚が決まりそうな感じで終わったけど、その二人の結婚した後の話が。
 「毬打つ猫の店」天才芸術家に翻弄された、一女性の短い生涯。
 ある貴族階級出身の才能あふれる若き画家が、父ギョーム氏は昔気質でそれなりの大きな商家だけどしまり屋で、娯楽もかなり制限されているような堅い家の美しい箱入り娘を見初めた。
 そして恋する画家が情熱をこめて描いた、彼女と彼女の実家の商家を描いた絵が傑作として評判になる。その評判を聞いて見に来ていた当人が、会場にいた画家と出会い愛をうちあけられる。
 情熱的に愛を示され、箱入り娘のオーギュスチーヌはその情熱にやられて、彼女もまた彼に恋するようになる。それから密かに二人で些細な示し合わせて互いの顔を見るというような類のことをする。
 筆頭店員。長女と結婚することになっていたが、美しい次女のオーギュスチーヌに心惹かれていた。
 商家の主に長女との結婚を持ちかけられ、実は次女に片恋しているとあかす。それに商家の主は動揺しつつも、ミサに行くとき次女に腕を貸してやってごらんとチャンスを与えるなど、この人は昔気質だけど頑固というより身内にはかなり甘い、優しい人なんだなとそれをみて気づく。(結局筆頭定員は姉と結婚したが、幸せになっているので良かった)
 それに気づいた両親怒る。しかし正式に求婚されたおり、両親もそれをさほど反対せずというか簡単に説得され、わりあいスムーズに結婚。しかし芸術家は放蕩する人間だから、後々娘が困らないよう、財産は別々のまま結婚するということを条件に結婚を許した。
 しかし時を経ずさまざまの違いのため、男の愛情は薄れていく。美しくはあり、貞節で一途に愛してくれる妻だが、その分だけ男にとって刺激がなく、彼女に芸術的感性がないため、自分の仕事をわかってくれないという思いがあったため。また、浪費家的な男の性格と、堅実な女の性格があわないというのもある。
 そのため彼は別の女、年上の公爵夫人に愛をささげるようになる。それをオーギュスチーヌは知り、大きな打撃。しかしそれでも彼への愛は変わっていない。
 彼女は自分の夫の心を奪った技巧を知るため、その公爵夫人の下に赴く。夫を取り戻すため。そこで彼女はその純さがゆえに、公爵夫人に気まぐれな同情をされて、助言を受ける。しかしあまりに愛していたゆえ駆け引きなんてものをしたくなかったがために、そうしたもの実践できなかった。(むしろ絵を渡されたことで、利用された)。
 その後、そうした悲しみ・苦しみのために数年後に死ぬことになる。。