天帝のみぎわなる鳳翔

内容(「BOOK」データベースより)

戦後悲願の航空母艦駿河率いる第二艦隊は、非戦派内閣の思惑で台湾親善訪問に出発した。折しも勃発した満州戦争から遠ざけておくためだ。だが開戦と戦後利権を狙う海軍強硬派の陰謀は、昼餐会での高官暗殺、イージス艦金剛・潜水艦春潮の無力化に発展し…そして本格ミステリ史上初の三千人殺し!!軍楽少佐と軍楽隊は絶望的な特命調査を続けるが…。

 毎回舞台が変わるこのシリーズだが、今回は艦隊が舞台となる。しかし前回から引き続き(いや列車は前々回だったかな?)、というか更に、死人の人数も事件の規模がでかくて、謎が小事としてかすんでしまうほどおおごとが起きるから唖然としてしまう。もちろん謎がその大事の真相を知る意図ではあるのだが。しかし、約800ページは長いな。そしてその長さで本格だから、当然のことだが謎が複雑。読者への挑戦状があるが、その前に作中で指摘された命題がまとめられているが数が多すぎて、読んで一応の推理をつけられるミステリ読みの人たちってすごいんだなと改めて感じたり(笑)。まあ、私が謎解きしない(というかできない)人だということもあって、真相がどうなのかさっぱり当たりをつけられなかった。
 策謀者の予想通りの展開ならどうにか対処できるが、そうでない事態が起きたら探偵が必要となるからとて、まほろを送り込むか華頂宮様。18歳の彼を25歳の儀典将校、楽軍少佐と大いに身分を偽って。こうした身分を偽る話は、どうもばれたときどうなるのか恐くて、読んでいていまいち楽しめんのよね。
 日本敗戦後、ソ連の軍事的冒険がなされた結果として戦前からの色々なもの(軍とか華族制度)が温存されたという世界観なのね。その変気になっていたから、今回それが明かされてようやくすっきり。
 信濃充佳少尉に正体を見破られ、彼女が今回のヒロインに。しかしこうしてヒロインが毎回変わること、ミステリーの探偵役が1作ごとに束の間のロマンスをする女性が出てくるというある意味お約束的なものがあってそれを踏襲してこうしているのねと、今回ようやく気づく。何で違う相手と濡れ場が度々あるのかと思っていたが、そういうことだったのね。こういうお約束(?)は、以前、確か「ミレニアム」の解説で読んではじめてしったわ。個人的には古典の名作とかを読んでいないからかもしれないけど、実際にシリーズモノで1作ごとにヒロイン変わるという作品、パッと頭に浮かばないわ。有名なシリーズだと、一体何があるんだろ? それともハードボイルドとかそっち系のミステリの話なのだろうか、それなら私はそちらは全くといっていいほど読んでないから知らないのも不思議でないが。
 ヨーソローって、特に意味ない掛け声かと思っていたが、「面舵宜候」(おもかじよーそろー)という字面を見て、意味があることとその意味が大体伝わってきた。
 英米仏などの将校も乗る艦で、レセプションの昼餐の最中に彼らの目の前で、遼上校(大佐)が毒による死を遂げる第一の事件発生。遼上校はこのパラレルワールド内で崩壊しつつある東満州国の軍人で、最新の巡洋艦の艦長で、艦ともども現在事実上日本の庇護下にあって、その存在をてこにして東西満州戦争に介入しようとする勢力が海軍内に存在している状況であった。
 紙谷警部、やたらまほろに当たり強いのには、そういう探偵を糾弾する役回りなんだろうし、まほろの甘さ・感傷によってもたらされる被害というのもあるから根拠ないものではないけど、でもやっぱり主人公にキツイキャラはどうにも苦手だな。だけど、警察が彼女ひとりしかいないという状況だからか、科学的調査、証拠集めのためのさまざまな機器を持ってきて(使ったものだけでなく、使わなかったものも相当持ってきているんだろうな。)それを使いこなしているのを見ると相当有能だが、半ば一人しか警察がいないという都合上万能な人になっているという感もあってちょっと笑える。
 そして紙谷警部、まほろや金之助や美沙が、青酸カリの入った薬包が使われたという可能性を考えず、他の物品の以上についてたずねてくることになんでだよと動揺しているのはなんかほほえましい。徹底的に探偵小説的アプローチを取って、メタ的なこともする探偵たちやこの小説だけど、彼女は探偵小説の文法に理解のない人ということなのね。
 まほろ、尋ねられた国際法についてを何も参照せずに(著者は法律が専門だということもあってか)非常に詳しくすらすらと述べていることにすごい優秀だなと感じ入る。だって、儀典将校役として潜入するから国際法の知識も丸暗記したということで勉強したの短い期間だったろうし、それに加えて儀礼の暗記もあったのにそれは凄まじい能力だ。まあ、探偵役なのだから優秀なのは当然なのかもしれないが、彼は情けない印象ばかりが強いからちと意外だった(失礼)。
 艦隊攻撃された、その動揺の最中にもう一人怪しい死をとげ、もう一つの謎が生まれる。
 美沙の推理で犯人がまほろと指摘されて、金之助がやはりお前かと彼に矛先を向けようとした矢先、金之助自身も美沙にもうひとつの事件の犯人と指摘されて出鼻をくじかれ、「なんでやねん!!」と突っ込みを入れる流れ、金之助のすばやい反応に笑った。
 こういう大規模な事件では九尾、上巣由香里が絡むのね、やっぱり。いや、世界レベルでなんか騒動を起こす超常的存在である彼女が絡まねば、そういう事態にならないのだろうけど。これまで列車の前例あるし、彼女ならやはり彼女かとなるけど、そうでないと唐突さを覚えるかもしれないから当然かもしれないけど。
 ラストの由香里パートで死者の最後の消え行く魂の最後の対話が少しかかれるが、そうして描かれることで多少救い、のようなものがあったのは良かったわ。