徳の政治 小説フランス革命16

内容(「BOOK」データベースより)

公安委員会に加入したロベスピエールは、共和国フランスを幸福に導くには徳が必要であり、徳を実行するためには恐怖が不可欠であるとして、いっそう強力に恐怖政治を推し進めていた。一方、激しい政争の末、劣勢に追い込まれたエベール派は、公安委員会を倒すべく蜂起を企てるが、あえなく失敗。行く手には革命広場の断頭台が―。革命は理想郷を実現できるのか。苛烈さを増す、第16巻。第68回毎日出版文化賞特別賞受賞。


 恐怖政治で政治の優柔不断が改まり軍隊の綱紀粛正が徹底された。そうした恐怖政治の効果もあって、フランスは対外戦争でも巻き返し、内乱でもヴァンデやジロンド派に呼応した反乱が大方が鎮圧されてと危機的状況にあったが戦局は好転した。
 エベール派、フランスが危機にあったからラディカルな彼らの意見に同調者が集まったが、戦局が好転して危機が遠ざかった今はそれまでのような勢い、求心力を得られないだろう。
 そこでデムーランも自身の新聞(『コルドリエ街の古株』)上でエベール派を攻撃。彼が口に出して攻撃して、戦況が好転し、時局が変わったことで、それまでエベール派の勢いに押されて首をつぐんでいた人たちが、口火を切ったデムーランのエベール批判に追随してくる人も多く出てくる。そうして彼は、マラ亡きあと一番人気の新聞だったエベールの『デュシェーヌ親爺』に引きづられがちだった世論を引き戻す。
 エベール派とダントン派(寛大派)が対立の様相。
 デムーランなど寛大派は、愛国者までも獄につなげている嫌疑者法の運用に異議を唱える。
 デムーランはロベスピエールも同調してくれていると思っていたが、ロベスピエールは嫌疑者法の運用を批判した彼の新聞を問題視したことにショックを受ける。
 ダントンはロベスピエールのそうした言動について、自分の政治哲学から考えて、ロベスピエールは右が排除されていった結果右となった寛大派と左のエベール派の中間でバランスを取って主導権を握るつもりではないかと予想する。しかし実際はロベスピエール山岳派が一番左で政権を握っている彼らが、エベール派も寛大派もまとめて排除しようという形になる。
 食糧問題が革命のきっかけとなった1788年の危機よりも危機的状況となっているのを見て、エベールは自派のたまり場で現在の権力者であるロベスピエールの一派を『嘘つき派』と呼び、糾弾。戦局が好転しても、生活苦はなくならない。そんなときにそもそもその値じゃ赤字だから出回らないようになっているとはいえ公定価格を引き上げていることで、支持者のサン・キュロットたちを煽る。
 また、逮捕されているジロンド派75人の処刑がいまだなされなかったり、エベール派は偽の横領罪をでっちあげてダントン派とともにエベール派の仲間を牢に入れたりされていた(結果的に、一時的だったが)ことも問題にする。
 一時情勢危うくなって逐電も考えたが、食糧危機がわいてきて状況が変わる。最高価格法で商人が闇にしか食料を流さなくなったというような人為的要素もあり、またロベスピエールも病気で表舞台に1週間出てきていないこともあり、エベールは蜂起へと動き始める。
 エベール派の仲間の多くは、エベールに蜂起を促すものの、エベールはパリ市第一助役で仲間だったが最近仲間から抜けたショーメットがいないのが気がかり。いつも蜂起のさいに隣にいた友人であり、また蜂起の成功にはパリ市の協力が必須だったから、気にかかっているのだが、エベール派はエベールを除いて蜂起することに非常に積極的。
 サン・ジュスト、泥にまみれ恐怖の象徴たることを自らに定め、政治家として一回り成長。
 革命の敵の財産を没収し貧民に分け与える法律を作る。ここでダントンは公安委員会、ロベスピエール派が左より左であることに気づく。
 エベール派、ここで蜂起しなければ自分たちが逮捕などをされると思い決起を望む。しかしエベールは蜂起成功見えないから乗り気でない。なぜなら財産没収して貧民に与える法律(風月法)で支持基盤のサン・キュロット公安委員会に満足していて蜂起の成功確率は少ないからだ。しかしだからこそ今を逃しては蜂起できる機会がないとエベールの取り巻きたちは決起するように説得。
 その蜂起は、エベール派が民に求められていたところの貧民の救済、あるいは彼らの声の代弁ではなく自分たちの立場を確保するための決起、権力闘争としての決起という意味が強い。
 そのためエベールは、乗り気ではないが担がれるようにして蜂起に参加し、そして盛大に失敗する。
 そして家宅捜索に入られて、買占めを紙面で罵倒していた当人の家から大量のベーコンがあり、買占めを行っていたという事実が明らかになったため、サン・キュロットの支持が一挙に離れた。
 病気とされていたロベスピエールは、精根使い果たして一回体調を崩したが、しかし実は仮病で休みながら、家の中で政務に励んでいた。エベール派がやらかした後、久しぶりに表舞台に登場したロベスピエールが堂々とした演説で舞台にあがってエベール派を弾劾。
 ダントンは、エベール派を彼らが除くなら、バランス的に寛大派も除かねばならないだろうということを察して、罰せられる前に自分から詫びにいって、隠居することで手打ちにしてもらおうとする。しかしデムーランに、ダントン自身はそれで助かるとしても僕は助からないと泣き言を述べて、旧友のその言を聞いて、再び行動し始める。そしてロベスピエールに、現在の独裁的体制、厳罰体制、恐怖政治に終止符を打って、エベール派なども寛大に罰するようにと説きに行く。
 しかし言葉届かず、ロベスピエールは理想に向けて邁進する姿勢を変えず、エベール派の処刑でこの巻閉じる。
 解説、この「小説フランス革命」完結後、著者は現在「小説ナポレオン」を書いているようだ。いずれ読むのが楽しみ。まあ、たぶん文庫化してから読むので読むのはずっと後になるだろうけど。