折原臨也と、夕焼けを

内容(「BOOK」データベースより)

「まったく、人間観察も一苦労だよ」自分は情報屋である。そんな事を嘯く、一人の男がいた。ただ、本当に『情報屋』と呼ぶべき生業をしているのかどうかはさておき、彼が数多の情報を手にする力を持っている事だけは確かである。彼は決して正義の味方などではなく、さりとて悪の手先というわけでもない。自分がないのではない。ただ、彼は平等なだけだった。己の欲望に、果てしなく素直なだけだった。『人間』。そんな単語のすべてにくるまれた有象無象の玉石達を、彼はひたすらに愛し続ける。彼はただ、人を愛しているだけなのだ。たとえその結果、愛する人間を壊す事になったとしても。壊れてしまった人間も平等に愛でる事ができるのだから―。


 「デュラララ」のスピンオフ作品。静雄との決戦後の臨也の話。所在不明だった彼は、面白そうな事件があった場所へと赴く。今回は、武野倉市という鉱山を持つ阿多村家と有力政治家である喜代島家という2つの家が牛耳っている街(警察すらも懐柔されている)が舞台となる。
 その二家は港の開発の利権をめぐって勢力争いをしていて、阿多村家の長男が殺された事件をきっかけに臨也がこの町にきて、さまざまな勢力から多くの情報を得て、そうして得た情報をばらまく。そうすることで臨也はただでさえ不穏な空気になっていたところを、一層煽って、波風を立たすことで大きく事態を動かすように仕向けて、いろんな欲望・望みのために動く人々を見物している。
 臨也は車椅子にて登場。まあ、再び歩けないとかではなく、今でも痛いけどそれなりに歩けるみたいで、リハビリきちんとすれば普通に歩けるようになるようだが、どうもモチベーションが上がらずにリハビリ途中で止めて、こうして情報屋として面白そうな揉め事に首を突っ込んでいる。
 それと、だれかが「デュラララ」登場キャラクターに臨也について尋ねまわっていたようだから、池袋にいる面子の大体に臨也が生存が伝わったということか。
 阿多村グループが懇意にしている非合法な手段を使って情報を集めるカンディル。それも臨也の傘下だったのか。彼ってそうした今まで登場していなかったけど、そうした情報組織もとりまとめていたのね。そうした傘下のところが、カンディルだけとは思わないし、臨也って一匹狼的かと思ったらそうした組織を作ったりもしていたのね。
 そうした組織の他にも坐老人みたいに恩を着せて使える手駒が他にも多くいるのだろうし、案外本気で集めれば部下を結構大勢集結させられそうだな。まあ、そういうのは趣味でなさそうだからやらないだろうけどね。
 カンディルの情報収集で「デュラララ」の最初で女の携帯を踏みつけていたが、それってかつての趣味だったことが阿多村竜二に報告される。そのシーンでも趣味云々といっていたかもしれないが、軽口だと思って注意を払わなかったか、それともここで始めて明らかになったのかはわからないが、どうも本気で趣味だったっぽいな。
 しかしもしかしたら散々指摘されて今更かもしれないけれど、臨也の全ての人間を愛している云々って、ある意味全てのキャラクターを愛着を抱き、それでも物語をつむぎ事件を起こすことで不幸にしたり打倒されるキャラもださなければならないという作者さんの本音であるのかもと思った。
 冒頭に置かれた臨也が一人の男を充分に情報を与えなかった、彼が求めたものだけしか与えなかったことによって、破滅させたエピソードのことは途中まで何のために置かれていたのかとか考えていなかったが、今回臨也の傍に侍っている二人の子供がそうなった理由につながっているのか。最初のエピソードが注意の外にいっていたこともあって、そうしたところから、不意に物語とのつながりがわかるとなんか嬉しくなる(笑)。
 静雄ほどではないが怪力を持つ臼原と謎の男たち、同時に臨也を倒そうときたのだが、両者に目潰しした後に言い回し一つでもう一方を臨也の味方だと誤解させて、互いを争わせるとか臨也うまいなあ。
 阿多村甚五郎は臨也との距離の置き方もうまいものだし、今まで築き上げたものにも深く執着せずに損得割り切った振る舞いで最悪の事態を避けるとはなかなかの曲者ぶり。
 あとがき、「枷」である静雄のいない土地で臨也が好き勝手やるというシリーズになるみたい。一冊だけのスピンオフかと思ったらシリーズものになるのね。
 当初はメディアワークス文庫から出る予定だったが、途中で電撃文庫で出すことになった。当初なら電撃ならもっと派手な展開となり、メディアワークス文庫のままならば冒頭の殺人事件の真犯人がねっとりと酷い目にあう展開になったと思うとのこと。
 そういうのを見るとメディアワークス文庫だったらもっと後味悪いというかビターな話となっていたっぽいから、電撃文庫になって、ほどよくケレン味の強いキャラが出てきて、最後は閉鎖的で悲劇の温床ともなっていた町の空気・二つの陣営のために作られた秩序を壊して、そしてロミオとジュリエット的な二人も結ばれるというある意味ハッピーエンド的なオチになってくれて良かったわ。そして面白かった。