夢見る人の物語

夢見る人の物語 (河出文庫)

夢見る人の物語 (河出文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

ファンタジーの源流ロード・ダンセイニ幻想短篇集成、第二弾。大地と同じほど齢をかさね、星星を姉妹とする都バブルクンド。海の伝説と化し、若者たちを魅力するポルターニーズの都。謎めいた響きの名を持つ数々の都市が驚異をもたらし、世界の涯では、夢見るものだけが垣間見ることのできる、妖精、英雄、盗賊の物語が繰り広げられる。初期二短篇集の全二十八話収録。

 ファンタジーというより、幻想小説という感じの雰囲気の短編集。以前にダンセイニの小説を読んで、いくつかのシーンが印象に残ったので読みたくなって久しぶりに読んだが、読んでいて読みづらく、そういえば前回もこう読みづらくてなかなか読み進められなくて苦労したなあということを読んでいる最中に思い出す。
 なんというか個人的にこうした架空の神話や英雄譚や伝説、幻の都市などについての話は漫画とかで読んだら面白そうと思った。ただでさえ現実とは違う世界観で、それについて書かれているところや芝居がかったというか台詞回し、それに些細なところの描写というか寓意的な描写というかが豊富にあるので目が滑る。そういうのは漫画とかならば読めるし、わざわざ理解しようとせずとも読み流しながら楽しめるが、文字で見ると理解しようという気が失せて目が滑ってしまう。
 それでも前回いいなと思う印象に残るシーンがあったりしたから、前回も似たような苦手意識を抱いていたにもかかわらず、懲りずに読んでしまったわけだ。
 「追い剝ぎ」悪漢たちだが、絞首刑にかせられてしまった友人トムを身の危険を顧みず夜にひそかにおろしてやって墓に入れてやったため、トムの魂は楽園へと行けて、そして悪行ばかりやった人生を彼らは過ごしたのだがその行為は天使も微笑むものであったという終わりの話だが、10ページもない短い話だけど、こういう悪漢たちの利益計算のない純粋な友情の発露が見られる話はなんか好きかもしれない。
 「黄昏の光の中で」臨死体験の話。最後に川で溺れた男を最後に目覚めさせて、現実に引き戻す感じの終わりがちょっといいな。
 「幽霊」幽霊を否定してみせるといって、実際に幽霊を見たときに簡単な数学の証明をいったら、その幽霊などが消えたというのは、オチがちょっとよくわからないのだが、幽霊への対策としてそうした故事とかあるのかね。
 「ブラグダロス」役割を終えて捨てられる運命にある道具たちの会話。子供の玩具の揺り木馬が愚痴をいっていたが、最後のシーンで再び子供に遊び道具として使われ高揚しているのはほほえましい。きっと最後の役割か、そうでなくともそれに近い日々だろうけど、それだからこそ揺り木馬がそうした高揚を見せて、だからこそ一瞬の輝きを味わいつくしたいと思っているのだろうし、それを存分に味わいたいと思っているのだろうと思うと本当に良かったねと思う。
 「剣と偶像」原始における武力による統率の始まりと、宗教の始まり、そして宗教が武力に勝利したゆえんを物語で書く。こういうのなんていえばいいのだろう風刺? 童話? 架空の伝説? よくわかんないなあ。
 「ハシッシュの男」その前に書かれた架空の都市ベスムーラの終焉を描いた短編「ベスムーラ」を雑誌で読んだ男が著者に話しかけ、あの都市に疫病があったのは間違っているという。その男は自分はハシッシュ(麻薬)を使って自分はベスムーラを行ったことがあり、ベスムーラのことを良く知っていてその終焉を見たといい、著者はその彼の話を聞いていたが、彼は最後に家族に連れ戻されていって終わる。こうした趣向の短編なんか面白くて好きだな。
 解説でクトゥルフ神話ラヴクラフトが『ダンセイニを師と仰い』(P365)で、そして執筆活動の初期にはダンセイニ風の短編をいくつか書いていたというのは驚いた。そしてラヴクラフトがダンセイニ風の短編を書かなくなった後も『宇宙的な視点、異国風な命名法、豊かな語彙、想像神話という形式などを引き継ぎながら、独自のクトゥルー神話へと進んでいった』(P367)というように、そこらへんはダンセイニの影響だったというのも知らなかった。