平安朝の生活と文学

平安朝の生活と文学 (ちくま学芸文庫)

平安朝の生活と文学 (ちくま学芸文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

豊かな国風文化を育んだ平安時代、その担い手だった宮廷の人びとはいったいどんな生活をしていたのか。本書は、『源氏物語』や『枕草子』などの文学作品をはじめ、さまざまな古記録を博捜し、当時の行事や日常を復元する。後宮の制度や宮仕えの動機から、住宅事情、食事と食べ物の種類、結婚と風習、懐妊と出産、美意識やその表現、美人の条件や教養、はては誤楽、疾病、医療、葬送、信仰などにいたるまで明らかにした、平安時代の女性生活百科の名著。国文学専攻の教師や学生はもとより、広く古典文学愛好家必携の書。通読するだけでも、当時の生活が澎湃として眼前に立ち現れる。

 平安の文学といえば女流文学ということで、平安時代の貴族女性に関係の深い場所や制度、平安貴族女性の生活についてが書かれている。例えば平安文学の中心的場所となった後宮・宮廷については全22章のうち2〜6章(2章から「後宮の制度」「後宮の女性」「後宮の殿舎」「宮仕えの動機」「宮廷の行事」)という冒頭に結構な省の数を割いている。
 各章で、その章題に関係する事柄について(役職や事物などの)小さなトピックに分けてそのトピックの一つ一つに簡潔な説明がなされる。そうした扱われているトピックまで目次に書いてあるので、それで検索できるのはありがたい。 (「第九章 女性の一生」や「第十一章 懐妊と出産」など)細々と段階別に区切って、この時はこれが行われると記されているのはわかりやすい。
 皇居の目の前には『朱雀大路の北端に大学寮と、その南につづく弘文院・勧学院・奨学院などの私立諸学校』(P18)があった。官立の学校である大学寮と私立諸学校が近接していて、またそれらが皇居のすぐ前にあったというのは知らなかった。
 『『宇治大納言物語』に、小松の宮は市に出て物を買わないと、どうしても気が落ち着かない御性分であったというようなことが書いてあり、(中略)『江談抄』を見ますと、大納言道明が妻と同車して市に買い物に出かけており、『大和物語』には、平貞文が若い時に市に出かけて風流な遊びをしたということが書いてあります。』(P21)市に行くのは家人とか下女に任せているものだと思っていたが、そのように貴族でも市に行くことがあったのか。そして庶民が大勢いる市に行くことは見とがめられるというか、眉をひそめられるということはなかったのか。
 女房たちは病気や旅行、結婚や服喪などさまざまな理由でいったん暇をいただき、里へ帰ることもあったが、『里にいる間は、宮中を慕い、早く出仕したい気持ちに駆られたことは、『枕草子』『紫式部集』『紫式部日記』などによって知ることができます。』(P75)同僚との折り合いなど人間関係の難しさも当然あったが、『見聞を広め、体験を深め、精神生活を豊かにすることのできる』(P60)貴重な場所だった。
 また、当時貴族女性同士が交流を持てる場所が少なかっただろうからそうした点でも貴重だったろうし、また知的な風土があるという意味でも非常に彼女らのような才人にとっては楽しい場所だったのだろう。
 甑で蒸したご飯である強飯(こわいい)、今の赤飯はこれに小豆を混ぜたもので、おこわは強(こわ)飯が語源。
 『大床子の御膳は、強飯を用いられるのが普通です。しかし内々にはひめ飯を用いられ、木椀ではなくて、磁器の椀を用いられたということが『松屋筆記』という書に見えています。』(P95)
 水飯(すいはん)、今日のご飯である『ひめ飯、またはそれを干したものを冷水に漬け、柔らかくして食べるもの』(P95)お茶漬けのお茶なしバージョンみたいな感じか。
 平安時代の「餅」は『糯米・麦粉などを合わせて作ったもので、今日の餅とは違います。』(P100)
 平安時代の結婚には、数か月あるいは数か年夫が妻の家に行って暮した後、改めてその妻を夫の家に迎える「むことり」と、夫の家に婦を迎える「よめむかえ」の2つがある。しかし後者の「よめむかえ」は平安末期に生じて、もっぱら武家の間で行われたもの。そのため平安文学の結婚はほぼすべて前者。
 へその緒を竹刀で切るのが古来の慣例だったので、そのように行っていた。
 お歯黒、上代あるいは室町時代以降は結婚した婦人の証としてするものだったが、『平安時代中期には結婚すると否とにかかわらず、成年に達した、もしくは成年に近い女子の一種の容飾となっていた』(P214)。そして『
源氏物語』の書かれた時代には、少なくとも十歳くらいになれば、眉をぬき、お歯黒をしたもののようです。』(P214)
 習字・音楽・和歌が『中古上流社会における女子教育の必修の科目』(P227)。そして、そうした芸術教育(当時の上流社会的には実用でもあったが)以外の実用的な教科目としては裁縫や染色があった。