本好きの下剋上 第二部 神殿の見習い 1

内容(「BOOK」データベースより)

洗礼式を終えたマインは「青色巫女見習い」として、神殿での仕事を開始する。そこには待望の図書館と本が待っていた!夢叶い、期待に胸が膨らむマインだが、多くの問題にぶつかってしまう。困った側仕えたち、貴族出身者が突き付ける階級社会の現実など、これまでの常識が全く通じないのだ。おまけに虚弱な体も相変わらず。そんなマインは仕事の合間に、孤児院の酷い実態を知る。どうしても放ってはおけず、ルッツと共に改善に奔走するが…。社会の厳しさなんか吹き飛ばせ!ビブリア・ファンタジー第二部開幕!書き下ろし番外編×2本収録!

 web版既読。このパートはまとめては久しぶりに読んだけど、やはり神殿長にむかむかさせられるなあ(笑)。
 マインが神殿で身体が弱いのに麗乃時代のように食事も取らなかったので倒れた。その姿がベンノに死した最愛の恋人のことを思い出させて、非常に心配する。このシーンはその恋人に対してベンノのいまだ強い愛を持っていることを強く感じさせられる。また、未だその傷がいえていない弱いところが見えることで人間味もより感じるから、ベンノへの好感度がいっそう上がる。
 再度読んでみて、やっぱりフランはいいなあとしみじみ思う。有能で何でもまかせられる安心感のある人だけど、彼は神殿育ちだから、今まで知らなかった神殿外との常識のギャップだったり、あるいはマインの行動にびっくりしている姿を見るのは、何か微笑ましさもあっていいね。P83、P127とそうしたフランの表情が描かれているから、なおさらそう感じたのかもしれないが。
 そしてマインがフランとギルに外出用の服をプレゼントしたときに、ギルと同じようにフランもプレゼント貰ったことがないから『戸惑いと喜びと気体に満ちた顔で、丁寧に包みを開ける。』(P145)とギルと同じ反応で喜びをあらわしている姿を見るとなんだか愛おしくなるな(笑)。
 マインが地球の(というかイタリア)料理を料理人に再現してもらうシーンは、web版でもここだけ何度も繰り返し読むほど好きなシーンで、何回読んでも飽きないな。そもそも小説中の料理・食事シーンが、個人的に好みだということもあるけど。
 新しくイラストがでてきたキャラ、フランは爽やかで穏やかな印象の好青年って感じでいいし、デリアは思っていたよりもずっと美形だな。まあ、容姿で拾い上げられた子だからそりゃそうか。そして料理人のフーゴとエラはいい感じに野暮ったいというか普通の容姿でいいね。こういう脇キャラまで美形に書かないのは嬉しいな。
 マインは、ろくに資金・食料も与えられず放置されている神殿内の孤児院を救おうと、継続可能性とか実際自分に何ができるのかとか、色々と悩む部分もあったが、他人任せでは解決されることのない、眼前にある飢えている子供という現実を前に、自ら重荷を背負う決心をする。こうして主体的に自分が最高責任者となって、飢えている彼らを救おうと決めるという大きな一歩を踏み出す。
 ここで、そうやって人の命・運命を背負う決心をした。そのことで現代知識を持つ技術者または助言者という有能な一個人から人の上に立つ者にもなったので、かなり大きな立ち位置の変化となったな。
 神官長がマインに周りを(神殿長の手の者の顔を覚えて、そいつがいないかを)見て、言葉に気をつけろといったり、自分の発した言葉の隠れた意図を読み取れといっているが、子供にどこまで求めているのだか(まあ、中身大人ですけど)。まあ、今となっては神官長の出自と自身の経験からして厳しい水準を求めているというのもわかるし、そういうのが貴族社会の常識であるようだから危うい立場であるマインに彼なりの親切心で厳しく言っているというのもわかるけどね。
 婚姻した男女に独身者たちが水風船のような木の実をぶつけて「祝福」したり、あるいは結婚した人とか関係なくその実をぶつけ合ったりする星祭りという祭り。フーゴが仕事で木の実を拾いにいけなかったが、マインが孤児院の中で孤児たちがその遊びを行えるように拾わせておいた木の実のいくつかを渡したところ、それを手に取りすぐに駆けていったというシーンはくすりと笑える。
 しかしweb版では部ごとに区切ってあるので気づかなかったのだが、各巻ごとのページ数も大きく変わらずに、上手い具合に区切りとなる部分で終わるなあ。
 今回の書き下ろし短編はトゥーリ視点の話と、ギル視点の話。トゥーリ視点の話は、以前閑話でマインに聞かされた北のお金持ちが多く住む場所で服装を見て勉強するということを同僚と実践する話。そして同僚と目標とするところが違うことを感じるが、マインとルッツが目標へ進む姿を見ているから、ある程度でいいとは妥協せずいいものお金持ちがきるようないいものが作りたいと同僚が帰ってからも一人でギルベルタ商会の前で観察(勉強)を続ける。
 ギル視点の話、孤児院があんなに酷い状況だったのに、神殿のルールで暴力は一切ないというような価値観の違いは少し面白い。そしてギルは、はじめて居たい場所(マインの側仕え)ができたが、それまでの行動がたたってそのまま側仕えでいられるかが不安になったが、大丈夫だとルッツに励まされているシーンはちょっと好き。