あの戦争と日本人

内容(「BOOK」データベースより)

歴史とは、前の事実を踏まえて後の事実が生まれてくる一筋の流れである―明治維新日露戦争統帥権戦艦大和、特攻隊。悲劇への道程に見える一つ一つの事実は、いつ芽吹き、誰の思いで動き出したのか。名著『昭和史』に続き、わかりやすく語り下ろした戦争史決定版。日本人の心に今もひそむ「熱狂」への深い危惧が胸に迫る。


 語っているものを文章化したもののようで、全編語り口調。
 冒頭、正史・常識を丸呑みしないことを語るために、坂口安吾蘇我入鹿天皇説を著者に聞かせたという話を出す。古代史は正直トンデモ入り乱れていてどれが信憑性の高い説なのかよくわからんのだが、そういう話し出すなら現在も通説になっていないものでなく、当時は違ったが現在は通説になっているものとかを例に出してほしかったな。
 そうじゃないと、正史的なものの見方を否定したいばっかりにそういう可能性も否定できないということを語るのではないかとちょっと思ってしまい、素直にそうだったんだと思いながら読めなくなってしまうから。まあ、これは自分の語っていることを丸呑みするのも違うよという予防線なのかもしれないけど。
 日中戦争中の昭和12年時、内閣の方が強気で戦争を進めようとして、逆に統帥部が講和しようとするも、内閣からはそうやって総帥部が反対するなら総辞職すると脅される。そうすると世間からは統帥部が内閣を倒したことになるので、結局最後には内閣に屈する。そして最後の手段として統帥権の独立の妙を使って、帷幄上奏で天皇陛下に停戦したほうが良いことを説明しようとしたが、それも直前に近衛の上奏が行われて内閣の方針が認可されたことで間に合わなかった。
 『この一例でもわかるとおり、軍部は面倒なことが起こったら一刀両断的に、統帥権を「魔法の杖」と必ずしも振り回さなかったのですよ。』(P125)統帥権は魔法の杖というイメージは司馬遼太郎などによって広まったが実態は必ずしもそうでなかった。
 宮沢賢治の「雨ニモマケズ」、『最後の「サウイフモノニワタシハナリタイ」のあとに実は「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」といいくつもお題目が書いてあるんです。』(P142)
 ロンドン条約に反対する野党の雄弁家たちが、政権奪取のために統帥権干犯を叫ぶ。『この時から、政党は政権をとるために軍部と結託して与党を揺さぶることを覚える』(P216)。この政争の影響で、海軍でも条約賛成派のバランスの取れた考えの軍人が多く首を切られて辞めることになってしまう。
 原子爆弾、日本でも研究がされていたという話を聞いたことはあるけど、1944年に実験に使うための砂糖を研究者が自分の配給の砂糖を使っていたというのだから、本当に一応研究はしていた程度のものなのね。たぶんダメだと思うけど、なんか成果あったらラッキーくらいの気持ちで、予算もろくに与えられずにちょこっとやっていたというレベルで、現在の戦争に間に合うような武器だとは思っていなかったのね。
 ラストの十一章にも書いてあるように、明治天皇には本気で責任を取る責任感のある人物が傍にいたけれど、昭和天皇にはそういう人物がいなかったというのが大きいよね。
 指導者に冷徹なリアリズムで物事を見ることができず、昭和天皇も最後まで情報を信金を悩ませたくないと理由でもって正確な情報を受け取れず、軍部のいっていた本土決戦計画が砂上の楼閣だということを知ったのは結局敗戦の年の6月だった。