マンスフィールド・パーク

マンスフィールド・パーク (ちくま文庫)

マンスフィールド・パーク (ちくま文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

虚弱体質で内気な少女ファニーは准男爵家に引き取られ、伯母のいじめにあいながらもひたすら耐える日々を送っていた。いつしか感受性豊かな女性へと成長した彼女に、いとこのエドマンドへの秘めたる恋心が芽生えたが―。恋愛小説の達人で、皮肉とユーモアを愛するオースティンが、あえて道徳心の大切さを訴えた円熟期の作品。わかりやすい新訳で好評のオースティン長篇6作品個人全訳完結。


 19世紀はじめの英国の上流階級の恋愛を描いた小説。「高慢と偏見」でもそうだったけど、変にどろどろとしたところもなくて、話の雰囲気があまり重苦しくならないから、変にハラハラせずに楽しんで読んでいられる。なんというかハッピーエンドで終わるだろうと安心して読むことができるし、とても読みやすいから結構この作者の小説好きだな。
 物語の雰囲気の明るさ、軽やかさだったり、キャラクターにわかりやすい個性があってキャラクターがわからなくならないことがいいね。
 訳者あとがきにも『オースティンの小説は、あらすじだけ聞くとあまり面白くなさそうなのに、読み出すと面白くて途中でやめられないとよく言われる』(P735)とあるが、まさにその通りで、バートラム準男爵家の子供たちやその家に預けられているバートラム夫人の姪で主人公のファニー・プライス、そして近所に暮らすグラント牧師の夫人の弟妹であるクロフォード兄妹などが織りなす恋愛模様が描かれる。個人的にはそんなに恋愛小説が好きと言うわけでもないのに、この作者の小説は面白いしすらすら読める。
 劇的な恋愛ではなく、穏やかな日常と恋愛の様相を描いている。そうした日常の出来事や会話、恋愛感情のちょっとした変化なんかを面白くて、さくさくと読ませることには作者の手腕が確かさを感じる。
 それに当時の紳士階級の日常の雰囲気も感じ取ることができるので、そうした意味でも面白い。日常的な面が色濃いほど、そうしたある時代のある階級に合った生活なんかをかいま見れるからいいよね。
 面白いし、お話の雰囲気もいいし、読み心地もよいけどいまいち感想が書きづらいなあ。
 ヘンリー・クロフォードが最後にしたその馬鹿な行いは、ファニーとヘンリーがくっついてもよかったのではないかと思わせなくさせて、主人公カップルがくっつくのが自然なものとしたな。まあ、彼を完全に改心させてから、結婚でも普通によかった気がするけどね。というか、主人公の意思の堅固さからエドマンドとくっつくようになるんだろうと思いながらもわりと改心したヘンリーとくっつくを期待していた。
 ただ訳者あとがきにもあるように、道徳的に良くないキャラには厳しいその後を描いているけど、時代的に快楽志向に傾いたときだったから、そうした道徳的な小説にしたようなので、そうした行為に及ばせたのだろう。そうした意図があったとわかっていても、やっぱり登場人物の全員それなりにハッピーまたは不満はあれど現状を受け入れるといったエンドの方が個人的にはよかったかな。
 まあ、そうしたちょっと不幸になった(といっても全員上流階級ですし、悲惨な末路というわけではないので、安心できる)キャラの行いの顛末と因果相応についてさらっと書いているから、後味の悪さや重苦しさがないのはよかったけど。それに道徳的な主人公カップルなどについてはハッピーエンドではあるしね。