古代ギリシャのリアル

古代ギリシャのリアル

古代ギリシャのリアル

内容(「BOOK」データベースより)

古代ギリシャではなぜ血液を「緑色」と表現するのか。なぜ「海」という単語がなかったのか。なぜ最高神ゼウスが「浮気性」なのか。学校でも本でも知り得なかったギリシャ神話の神々と古代ギリシャの人々。オリンポス十二神履歴書付き。


 濃い内容でありながら読みやすく面白かった。そして興味深い小ネタがたくさんあるのも楽しい。不満があるとすれば、読み終えるともっとこの著者の古代ギリシャの話を読みたいと思ってしまうくらいだ(笑)。
 古代ギリシャの神殿は元々は極彩色に彩られていて、白亜の神殿というのは後のイメージ。色がはげて素材が出ているのが元々のように思われているって、日本の仏像みたいな感じか。
 ページの下のほうにある注に書いてあることも面白い。例えば『現代ギリシャ人は世界の人々の興味が常に自分たちではなく古代に向けられていることに困惑してはいるが、同時に「古代ギリシャ人の末裔」ポジションも捨てがたいのでジレンマを抱えている。』(P21)という話とか面白いな。
 古代ギリシャのワイン色のエーゲ海という表現があるが、『古代ギリシャ人の表現する「色」は、物のうわべや表面的な色ではなく、質感やそれ自体が持つ性質をあらわすことがある。』(P25)つまり古代ギリシャの色のイメージから来た表現。そうした色のイメージを使った表現は、日本だと嬰児を「みどりご」という表現や、本書でも例として出されている「黄色い声」や「青々とした木」、「真っ赤な太陽」などがある。
 古代ギリシャでは『「紫色」は流れたり動いたりするものにつかわれます。だから古代ギリシャ人にとっては海や打ち寄せる波は紫色なのです。』(P25)そのためワイン色のエーゲ海という表現は、『波が打ち寄せるエーゲ海』を意味している。または、ワイン色という表現は暗い色全般にも使われるため、『日没のときの暗い海を表現している、という説もある。』(P26)
 古代ギリシャの「海」という単語は古代ギリシャ語としてはありえない音の並びで外来語だった。そのことからもわかるように元々古代ギリシャ人は内陸の民だった。
 「第二章 古代ギリシャ神話の世界」古代ギリシャの神、一柱一柱に対してどういうキャラクターかどういうエピソードがあるかなどを履歴書形式で紹介して、そのあとイメージの変化、神のイメージや関係性から見る古代ギリシャ世界などギリシャ神話についての面白くも興味深い話が書かれている。
 あと神々の美称が列挙されていて、それもギリシャ語名と和訳の両方があるのはいいね。こういう二つ名的なものを見るのはなんか好きよ。
 光明の神アポロン。『光はポジティブな面だけではありません。光は隠しておきたいものを暴き立て、植物を枯らし、物を腐らせ、疫病を流行らせ、生き物を殺します。
 ですからアポロンは疫病を流行らせる恐ろしい神で、人間の突然死にもかかわる死神でもありました。』(P60)光のマイナス面というのは、一般的にプラスの表現で使われるから、意外感がある。
 最高神のゼウスが浮気している神話が多いが、それは『ゼウスは偉大な最高神なので、各地の都市の人間がそれぞれ「俺たちの先祖はゼウス神だぜ!」と主張しているため、結果として浮気神話が量産されていると言うことなのです。』(P60)
 最高神ゼウスの妻ヘラは、元々先住民の主神だった。そのため、『ギリシャで最も古く重要な神殿の多くはヘラのものです。』(P89)
 紀元前三世紀になって古代オリンピックが最初に開かれた都市を基準としたオリンピア期が採用されたが、それまで『古代ギリシャには統一された暦も、年号も、月の名前も、統一された「年始」すらも』(P213-4)なかったというのは驚き。ちなみにアレクサンダー大王は紀元前4世紀の人。
 古代ギリシャ人は農閑期の『夏しか戦争をせず、戦争の最長記録もスパルタの40日程度でした。』(P221)。