24人のビリー・ミリガン 新版 下

内容(「BOOK」データベースより)

ビリーの中には実に24もの人格が潜んでいた。性格、知能、年齢、国籍、性別さえ異なるこれらの人格はいかにして生まれたのか。「基本人格」のビリーは一貫した意識を保てない不安定な状態に苦しみ、何度も自殺を試みる。やがて治療により回復のきざしが見え始めるが、世間の好奇の目や反発にさらされ、劣悪な環境の施設に移される可能性が出てくる…。多重人格の世界を通して、人間の心とは何かを問いかける衝撃の実話。

 第二部では、統合したことではじめて記憶の抜けがなくなって、自分の人生が語られていたが、上巻では18歳の時に青少年キャンプ(少年院みたいなもの?)に入れられたあたりで終わったのでその続きが書かれる。そして上巻の冒頭で彼が捕まることになった事件当時の(混乱の時期で記憶が共有されずよくわからないまま、それぞれの人格がスポットに出たときに色々としている)様子から「何もわからず」に逮捕されるところまでを書いて第二部は終わる。
 第三部では統合した後のさまざまな出来事が書かれる。そして無罪になった彼がアセンズでしっかりとした精神医療をしてもらえる施設にいる(監獄的な場所でないこと、それなりに行動の自由がある)ことに対する反発をあおる政治家や新聞などのマスメディアの動きによって、人権無視がまかりとおっている施設(ライマ)に入れられる。そこでろくに治療も行われず虐待・抑圧をされたことで、統合された人格がばらばらになる。そして彼は裁判所からの命でライマ→デイトンへ移らされるが、いまだ適切な治療がなされるアセンズには戻れず、酷い環境で苦しんでいることが記されて終わる。
 そこに収容されている中でスポットから「好ましくない者」として追放するためのルールがアーサーやレイゲンによって整備される。そして混乱の時期には、アーサーやレイゲンがスポットに出ているものを見張れず、誰が出て何をやっているのか彼らでさえもわからない事態が生じるようだ。
 しかし麻薬密売に手を染めて、そうした組織の人間の護衛として働いたり、強盗をしたりと結構アウトローの世界にがっつりと足を踏み入れた行いをしていたのね。上巻の写真では好青年という印象の見た目をしていたので、ちょっと意外だ。
 しかしふと眼を覚ますと別の人格が気まぐれで他の都市だったり国にいる、しかも残金少ないというのは普通に考えると恐怖だなあ。
 ミリガンの絵は青少年キャンプにいた頃から売れているようだが、それだけの作品なのか、それとも元々アメリカには何の美術的教育を受けていないビリーのような無名の作家の作でも絵がよければそれなりに売れるような文化を買う文化があるのかどっちだろう。いや、もしかしたら私が知らないだけでアメリカだけでなくそうした文化は、日本でもどこにでもあるのかもしれないので、なんともいえないけれど。
 脚の支持器や車椅子を買う余裕のない家庭の足の不自由な子供を見て、そしてお上がそれを補助してくれないことを知り、ミリガン(レイゲン)は義侠心からそうした物品を倉庫から秘かに盗んでプレゼントする。混乱の時期は単にスポットが管理できないというだけでなく、そうした衝動に対する常識的な抵抗もできなくなっているような感じだな。
 母に聞いた実父の話と実父の遺文と実父の友人の話が食い違い、母親は自身が被害者のように語って実の父を非難していたが、彼女も不貞を働いていたらしいことを知り、精神的な落ち込み、混乱があった。
 統合されたビリー・ミリガンの能力は予想されたとおり、各人格の総合能力には及ばない。
 裁判所がミリガンのライマ移送を決める。そこでは多重人格を認めないような人間が、かえって人格の分裂を促進するような薬をだし、収容者に侮辱的な言動を取り、彼に対する嫌がらせや殴打が度々あった。一例をあげると、ミリガンは殴打されて、眼の近くに黒くなり、肋骨が二本折れた。そして彼がどのような扱いをしているか外に知らせないために、著者と接触させなかったり、鉛筆を一本も持たせないようにされた。そんなところに置かれたミリガンは非常に苦しめられることになり、そして統合されていた人格もその世界で生き残るために分離していく。かつて「好ましくない者」リストに入った人間もスポットに出すほどの悪環境。
 そういう状況下で苦しんでいるところがかかれて本編終わりというなんともモニョる結末。しかし「その後」で後にアセンズに戻れたことが書かれている。
 しかし「日本語版のためのあとがき」で州立ライマ病院でのビジネス、抑圧された状況下で施設に対する反乱の計画があったこと、セントラル・オハイオ精神病院に移されてようやくまともな治療を受けられたが、ライマの医師だった酷い医者がビリーに他の医者が命の危険があるからと止めている薬を処方しようとしていることを知って、脱走を図り逃げていた。そしてその期間に起こった一人の男の失踪について、ミリガンは殺人の容疑をかけられたという話など次の「ビリー・ミリガンと23の棺」を読んで、詳細について知ってみたくなることが書かれる。