怪談と名刀

怪談と名刀 (双葉文庫)

怪談と名刀 (双葉文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

名物警視として活躍後、実業界に転じて通信事業の世界で風雲児となった著者が、その晩年、刀剣研究を志し著した幻の名著。名刀妖刀にまつわる怪談奇聞の数々を、物語的興趣を湛えて活写している。昭和10年初刊以来、史上初の再編復刊なる!

 刀にまつわる短い奇談を集めた本で、ホラーというよりも昔ながらの説話的な怪異譚という感じ。
 『さまざまな刀剣にまつわる出色の武勇譚、とりわけ怪談がらみのそれを近世の怪談本、随筆集などに求め、講談活劇調の闊達なる文体で綴った伝奇読物集』(P257)。
 編者解説によると1935年に出された本から、怪談奇聞にかかわる内容の作品を選んで、新字新仮名遣いに改めて収録した本とのこと。そして元の本では怪談要素のある収録策は半分くらいだが、それでも「怪談」とタイトルにつけたのは、当時が怪談ブームだったということもあるそうな。そして著者は、この本を出版したのと同じ年に『「講談倶楽部」(講談社発行)に、元警視庁警視の肩書きで「悲恋の白蠟美人」を寄稿』(P256)しているようだ。しかし、その話はどこかで見たことあるのだがそれってこの人のことか(同じような偉いさんで探偵小説とか書いた別の人がいるとかでなければ)。
 妖刀的なものをあつかったものではなく、その刀の何かしらの凄い力のおかげで妖怪などを打ち倒すという話が多い。そして基本的には各短編の終わりには、その刀はどういう刀工が作って、その人が作った刀やその流派の特徴などその話で登場した刀の紹介文が書かれている。
 そうして物語中の登場人物が使った刀について書かれるけど、どうも刀の個性みたいなものが物語上からは見えないから、ちょっとワンパターンに感じてしまう。
 あと、内容とは全く関係ないけど、表紙の内側が白でなくて、青色というのもちょっと珍しいけど何か理由があるのかな。
 「鬼女狂恋」死した者が一軒の家にそのまま放置されていて、夜になったらその死者が凄い速度を出しながら、主人公を探してあちこちを徘徊する。そして主人公は死者が動き出す前からその死者の後ろに乗って、その死者に縋りついて、相手から見つからないようにして難を逃れて、その死者はあきらめて成仏する。このような話は今昔物語か、なにかで読んだ気がするが何だっけ。
 この本の中では一番長い「藤馬物語」幕末から明治にかけてが物語の舞台で、そこらへんの時代の怪異譚というのは珍しく、ちょっと面白い。まあ、前半は剣豪物語的なもので、怪異譚は最後に少しという構成ではあるが。
 しかしこうした昔の文章(特に怪異譚ということで、同時代の文学とかよりもずっと昔風だろうから)を読むと、今では使われないような表現も色々とあって目新しくてちょっといいな。たまにはそういうのを読むのも悪くないかもね。