トム・ソーヤーの冒険

トム・ソーヤーの冒険 (新潮文庫)

トム・ソーヤーの冒険 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

ポリー伯母さんに塀塗りを言いつけられたわんぱく小僧のトム・ソーヤー。転んでもタダでは起きぬ彼のこと、いかにも意味ありげに塀を塗ってみせれば皆がぼくにもやらせてとやってきて、林檎も凧もせしめてしまう。ある夜親友のハックと墓場に忍び込んだら…殺人事件を目撃!さて彼らは―。時に社会に皮肉な視線を投げかけつつ、少年時代をいきいきと描く名作を名翻訳家が新訳。

 あまりにも有名なジュブナイルではあるが、今回はじめて読んだ。
 短く章ごとで一区切りをいれているので、連載小説とか連作短編みたいな印象をちょっと受ける。ジュブナイルだから途中で本を置きやすいように区切りのいいところを一杯作ったということだろうか。キャラクターがわかりやすい個性付けがされているといった感じもあるけど、さくさくと読めたのでよかった。名作と名高く、文学的には本書よりも高く評価されているという「ハックルベリー・フィンの冒険」もそのうち読もう。
 1830年代40年代頃のアメリカ西部の村での、悪戯小僧トム・ソーヤーの日々が書かれる。子供時代にあった子供ならではといったシーンが多く書かれている。
 がらくた類を集めたり、交換したり、あるいは変な迷信を信じたり、悲しいことがあると直ぐに絶望して自分がいなくなったらという妄想にふけり、そういう空想で自分を慰めるがそれと同時に本当に悲しくもなるといったいかにも子供らしいと思わせる習性や遊びが書かれていて、そういう描写はいいね。
 基本的にはそうした日常的な子供時代あるいはその時代のあるある的な挿話が多いが、ハックルベリーと迷信的なおまじないをしに墓場にいったときに、そこで起きた殺人を目撃してしまい、それ以後、その関連での冒険的な挿話が物語に加わってくる。
 トムは日曜日に教会へ行く用の服が「もうかたっぽの服」と呼んでいるというくらい服が少ないようだ。こうした昔の時代の小説を読むたびに服の少なさを感じて、国や時代ごとに普通の人々は服を何着を持っていたとか、そうした衣装事情の情報がまとめられたものがあったら読みたいと思う。
 墓場に解剖するための死体を盗みにきた医者と、それを手伝うインジャン・ジョーとポッターが報酬の値上げを要求して揉めるて、医者が死ぬことに。手を下したのはインジャンジョーだが、もめあいの時に気絶したポッターに殺人の罪をなすりつける。そして息を潜めているときにそれを目撃することになったトムとハックルベリー
 殺人犯として町で悪し様に言われるようになったポッターに対して、真実を知っている二人だが、インジャ・ジョーが恐ろしく、真実を言う決心ができない。罪悪感も合って二人はポッターに何度も差し入れに行く。それに対してポッターにひどく感謝されて、お前たちほどいい奴はいないといわれる。真実を知らないポッターの純粋で悲しい感謝の言葉(P257-8)がぐさりと心を刺す。
 それもあってトムはついに決心をして、裁判で真実を話すことにする。その証言とそのときにインジャン・ジョーが逃亡したこともあって、ポッターは人を殺していないことが証明されて、町は手のひらを返したようにポッターを暖かく迎え入れ、トムのことを賞賛した。ポッターのトムとハックに対する言葉を聞いて悲しくなったので、こうして大逆転で無事に罪が晴らされてほっとした。そうして一瞬で罪が晴らされるなんて現実ではないだろうが、だからこそ物語でのこうした真実の告白で一瞬で、全てがめでたしとなるというシーンには嬉しくなる。
 トムは家出をするときに、家のベーコンなどを持ってきたがそれはお菓子をちょろまかすのではなく本当の盗みだと罪悪感を覚えて、もうしないと心に誓って良心の痛みが癒えた。悪戯はするけど、世間的な道徳的規範意識は(自分ルールで)緩いだけであるから、本気でやってはならないものはやらない。訳者あとがきにも『トムとハックの違いを、「トムはいずれ大人になって、ちゃっかり出世して町の名士になって『わしも昔悪さをしたものです、わっはっは』などといいそうなタイプだが、ハックが大人になって社会のどこかに治まっている姿を想像するのは不可能である」』(P392)とあるように、最終的には社会に普通に収まるタイプ。
 村に身を隠して戻ってきたインジャン・ジョーがやろうとした復讐をすんでのところでハックが伝えたことで難を逃れる。トムの告白もそうだが、こうした勇気を出した善行が手放しで賞賛されるというシーンは好きだな。
 そして最後のトム・ソーヤーとハックルベリー・フィンは大きな報酬を得たが、それを取り上げられなかったのはよかった。ハックは新しい生活は居心地が悪いようだが、「結び」で登場人物が大人になった現在幸福であると作者のお墨付きがだされていて、その後もハッピーエンドだったようなのもよかった。