第三若草物語

第三 若草物語 (角川文庫)

第三 若草物語 (角川文庫)

 kindleで読了。
 今回は四姉妹とローリーではなく、ジョーとベア先生の夫妻が運営する教育の場プラムフィールドの子供たちが主役。多くの子供たちが登場するので、それも一挙に増えたので、誰がどういう人物で誰の子なのかを覚えるのがちょっと大変だった。
 そのプラムフィールドにローレンスさん(ローリー)からの紹介を受けて、父親と一緒に流しの音楽家をやっていたが父に先立たれてみなし子となったナットという少年がやってくるところから物語は始まる。
 ナットの視点から、夫妻や子供たちが格好がみすぼらしくとも温かく、そして優しく迎え入れてくれた場面から描かれる。そうしたよい場所、作者の理想であろう教育の場所が舞台となっている。
 時折トラブルがあったりもするけど温かく優しいベア夫妻という教育者の下で、同じ屋根の下大勢の子どもたちが楽しい子供時代を過ごしている。そうした騒がしくも楽しく幸せそうな場所の雰囲気だけで好きだな。
 毎週土曜の夜は、夫妻公認で好きに騒いでいい日。そんな日にナットが来て、そのままこの大きな家族の一員となる。
 ナットが他の子供たちが何かしら生き物を飼っていると聞いて、自分も欲しいけど父もいないしお金もないから無理そうだと悲しんだ。その姿を見て、トミー・バングスは自分が飼っている鶏の卵を探してくれれば1ダースにつき1個あげる、12個あればベア奥さんが買ってくれるからそれで買えばいいと提案。子供のこうした優しい心遣いが書かれたエピソード、好きだな。
 新入りのナットの視点で学校であり大きな家族でもあるプラムフィールドの雰囲気だったり、子供たちの姿が生き生きと描かれる。仲良く過ごしている様子がいいね。
 ナットはプラムフィールド近くの森にピクニックに来た人にヴァイオリンを弾くことを思いつき、それを許可されて実行したことで、自分の手で金が稼げる手段ができて嬉しそうにしているのがいいね。
 それからデイジーがローリーおじさんに自分のための小さなキッチンをプレゼントされて、喜んでそれを使っている挿話も好き。
 ナットが以前に世話になったダンも一緒にここで暮らせないかと尋ねる。しかし他の少年たちと毛色の違うすれた大人っぽいワルな少年ダンをもてあまし、制御しきれない。結局ボヤ騒ぎを起こしたことで、彼はベア先生の知人が住む田舎にやられることになった。
 そのダンが再びプラムフィールドに戻って来た時の、ダンとジョーが交わした『「みつかって困りますか」夫人はひざをついてダンの足の傷を見ながら、からかうように、また半分はとがめるようにダンの顔を見た。
 その顔はさっと赤くなった。ダンはじっとお皿に目をおとしたまま、小さい声で言った。
「いいえ、ぼくうれしいです。ほんとはここにいたかったんです。でも、もしや奥さんが――」(N3069)という会話、好きだな。
 「第八章 子どもたちのあそび」では、プラムフィールドの子供たちがしているちょっと変わった遊びが色々と紹介されていて面白い。例えば架空の妖精をつくって、それに対してのさまざまな儀式や生贄(持っている玩具を焼く)をする遊びなど。
 男の子たちが、女の子たちを遊びの仲間に入れなかったことを女の子たちと共にベア夫人も怒る。それで仲直りの印にと女の子たちに凧を贈ったが、ベア夫人にも特大の凧を贈って彼女も少女たちに負けず劣らず喜んだという話もいいね。
 馬小屋を修繕して、自分たちが見つけたちょっと珍しいものを銘々持ち寄って、博物館にして陳列するという話もちょっといいね。
 近くの野山でのハックルベリー摘み。皆は二人が先に帰ってしまい、ナンと幼いロブは迷子となる。その時のロブの『ママがぼくたちをみつけるよ――いつもそうだもの。ぼくもうこわくないよ』(N3835)という無邪気な信頼がかわいらしい。夜までの山をさまようことになるも無事にジョー(ロブの母)が二人を見つける。このエピソードも好き。
 訳者の「あとがき」プラムフィールドは著者の父がかつて経営していた教育機関がモデルなのか。