第四若草物語

第四 若草物語 (角川文庫)

第四 若草物語 (角川文庫)

 kindleで読了。シリーズ最終巻。
 前巻から10年後、ローリングのおじいさんの寄付によってプラムフィールドは共学の大学となり、街も大きくなった。四姉妹の母は残念ながら既に亡くなったが、父であるマーチ氏は大学の牧師となっていて、ベア先生は大学の学長となった。
 前回のプラムフィールドの少年少女たちは、既にプラムフィールドから離れた者も多い。彼ら彼女らが現在どういうことをしているかということが冒頭で書かれているが、『かわいそうなディックとビリーは世を去ったが、からだにも心にも苦難が多く、生きていても幸福にはなれない彼らの死をだれも悲しむことはできなかった。』(N87)というのはあんまりというか、大人になった彼らを扱いかねたから葬られた感があって、えーと思った。
 フランツはドイツの親戚の商人のところにいて、エミルは船乗りになった。ダンは流浪の身、ナットは音楽学校にいる。ジャックは父と共に商売をして、ドリーとスタッフィは別の大学(ハーバード)に行った。ロブはプラムフィールドの目立つ生徒となっていて、デミは新聞記者となる。ジョジーは芝居に熱をあげ、ナンは医学を勉強している。トムは幼少期の恋人ナンに今も恋していて、それを理由に彼もまた医学生をしている。
 「第三章 ジョー最後の受難」ジョーが文筆家として名を成したことで、降りかかってきた色んな頼みごとだったり、訪問者、勝手な批評に悩まされる。露骨に作者が若草物語で人気となったことで実際に経験した色々なことを書いていることが伝わるから、面白い。高名な文学者である作者を一目見ることを願う訪問者が絶え間なく来る日々、おびただしく来るファンからの手紙やサインのお願い。
 ダンが久しぶりにプラムフィールドに戻ってくる。そこで彼の計画、親しくなったかわいそうなインディアン集団のために農場を作るというもの、が話されて、皆に賛成される。
 夏休みの愉快な日々を皆が過ごした後、ナットはもうすぐ留学であり、ダンは再び去って行き、エミルも再び航海に出て行く。夏の愉快な日々、詳しくは書かれずともどんなことをやったかが書かれてあって、それだけでもいいなと思える。そうした旅に出る人のための、最後のさよならパーティーやその準備でワァワァ騒いでいる描写もいいね。
 「第七章 ライオンと子羊」ダンがドンという名前の犬を置いていった。テッドはドンが飯を食べず、水も飲まないので不思議がり、兄のロブは熱いからあるいはダンを恋しがっているかもと応える。
 ロブからドンをからかうなといわれたテッドは天邪鬼に本格的にからかいはじめた。それで怒ったドンがテッドにとびかかり、間に入ったロブの足を一噛みした後申し訳なさそうにうずくまった。
 ロブは噛まれてから水を飲まないならひょっとしたら狂犬病の可能性もあるのかと少し怖くなる。しかし冷静に振舞い、なんでもないかもしれないから騒がないようにとテッドに言って、ナンを呼んできてもらう。もしものことがないように安全を期して傷口を焼く。
 弟に恨みごとも言わず何事もなかったようにふるまうロブ。今回の騒動でテッドは無鉄砲さが薄れ。そして兄ロブを尊敬するようになった。そんな彼を見てロブは感動し、他の者は不思議がった。このエピソード好きだな。兄弟のちょっとした秘密と冒険といった感じで。
 ベア夫妻の不在中にそうした出来事が起こったので、夫妻は息子たちに何があったのか尋ねる。そして結局話してしまう。でも、これで伝えるべき人にも伝えたからテッドにとっても重荷がなくなってよいことだ。
 今までナンを追っかけていた、トムはドーラと婚約する。流されて行ったら、あれよあれよという間に婚約・結婚が決まる。そして彼は医学の道を止めて、実業の道へ進んで商売人としての才覚を示して父親を喜ばせた。
 デミは新聞記者から出版社に身を移すことになる。
 プラムフィールドを去った後、ダンは気持ちのいい若者と出会う。そして彼がいかさま博打で金を取られているのを見て、インチキを指摘して金を返すように言う。それで口論になってペテン師がピストルを出したのを見て、殴ったら打ち所が悪く悪党は死亡してしまい、刑務所行きとなる。
 刑務所行きとなった彼は自暴自棄となるも、なんとか持ち直す。そして今まで希薄だった信仰心を持つようになる。
 ナットは留学先で仲間に触発されて、贅沢な暮しをしていた。しかしプラムフィールドからの手紙をきっかけに破綻する前にその生活を止めて、今度こそ熱心に音楽に取り組む。
 「第十四章 プラムフィールドの演劇」プラムフィールドの皆で、ジョーが書いた渾身の演劇をする。その劇の描写があって、さらに劇に対する観客の反応が入っているのがいいね。この章好きだな。
 ダンは不幸な事件の後、農場の計画を取りやめ鉱山で働いていた。鉱山の落盤事故で命を懸けて、多くの人を救出して、そのことが新聞の記事となった。
 ダンはベスを秘かに愛し、ベスもそれが伝えられたら決して悪くは思わなかったであろう。しかし罪を背負っているという意識がダンにあり、ジョーも『雪のように清浄なベスと罪に汚れたダンとは、光と闇よりも離れた存在だった。』(N6710)と感じている。そんなこともあり二人は結ばれることはなかった。
 最後は登場人物たちのその後どうなったのかが描かれて終わる。