夜中に犬に起こった奇妙な事件


夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハヤカワepi文庫)

夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハヤカワepi文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

ひとと上手くつきあえない15歳のクリストファーは、近所の犬が殺されているところに出くわす。シャーロック・ホームズが大好きな彼は、探偵となって犯人を探しだすまでを、一冊の本にまとめようと決める。勇気を出して聞きこみをつづけ、得意の物理と数学、そしてたぐいまれな記憶力で事件の核心へと迫っていくクリストファーだが…冒険を通じて成長する少年の姿が多くの共感を呼び、全世界で舞台化された感動の物語。


 ネタバレあり。
 英国の小さな町に暮らし、特別支援学校に通う「ある種の発達障害」(P362訳者あとがき。タイトルでggって調べてみるとアスペルガー症候群みたい?)を抱えた15歳の少年クリストファーが自分の身の回りに起こったことを書いたという体裁の小説。そうした個性を持った人物が主人公となって、彼の視点で物語が進んで行く。起こっている出来事はそう大きなものではないが(少なくとも小説としては)、それに対するクリストファーの考えや行動がユニークであり、そこに書かれている特異な個性と行動に説得力がある。他では見られない視点・世界を見せてくれる小説。
 この本が『世界じゅうで一千万部という大ベストセラー』(P361訳者あとがき)となったのは、そうした障害(?)のある人から見た世界が、見事に描かれているからなのだろう。
 クリストファーは人の表情を読み取れず、他人の気持ちに鈍感。また人に触れられるのが嫌で、身体をつかまれると頭が働かず相手を殴ってしまう。黄色と茶色が嫌いでその色の食べ物が食べられない。そして数学好きで、嘘をつけない少年。
 最初は章のナンバーがとびとびとなっているのは、後でそこで飛ばされた出来事が鍵となって、書かれなかった行動が後で書かれることで真相が見えるみたいなミステリーかなと思ったけど、単に章の数字を素数にしているだけか。
 ミセス・シアーズという知り合いの家の飼い犬がフォークで刺されて殺されているのを見たところから話は始まる。クリストファーは自分の好きな殺人ミステリ小説としてこの出来事を書こうと、その事件についての調査をする。
 死んだ犬を抱いていたらミセス・シアーズが出てきて、警察も来た。そして警察はクリストファーに話を聞こうとする。しかし次々と質問をするので頭がパンクして、芝生に転がり唸り声をあげて情報を遮断する。彼を起こそうと腕をつかんだ警察を殴って、警察へ連れて行かれる。
 そのような出来事が起こっても、落ち着いた調子で事実を淡々と書いている。『警察の独房は気分が良かった。』(P30)なんて書いているようなところからも変わっていることがうかがえる。
 父が警察に乗り込んできて説明して、無事に警察からでてくる。父は職人気質で荒っぽさもあるが息子を愛している。
 その後犯人探しをしていたが、父からそのようなことを止めることを約束させられる。嘘をつけないし約束は守らなければならないものだから守る。しかしその約束で禁じられていない行いをすることで、その事件についての情報を得ようとする。意識的なずるさではないが、約束をしていないと思っていることなら何の葛藤もなく行える。
 そうやって探偵ごっこを止めていないことが、書いていたこの小説を父が読んだことでわかって怒られる。それで思わず腕をつかんだ父から放れようと殴ったことで、父からも殴られる。その出来事が起こった後に父が仲直りをしようと一緒に動物園に行くのはいいね。
 取り上げられたノートを探そうと家探しするクリストファー。そうして調べているうちに、母から自分に送られていた幾通もの手紙を発見する。父から母は死んだと言われていたが、実は嘘でミスタ・シアーズと共に出て行った。
 その嘘に極めて強いショックを受けたクリストファーは、思わず吐いて茫然自失となってしまう。その姿を見た父は、ミセス・シアーズの犬を殺したのは自分だということを告白する。
 父は彼女と再婚しようと思っていたが、彼女に父やクリストファーの世話という大変なことをするつもりもなかったので、しばしば口論になっていた。ひときわ激しい口論の後に、犬が絡みついてきたことで、かっとなって犬を殺してしまった。
 嘘をついていたこと、そのつもりもなく犬を殺してまったことで、自分の身も危ないと感じて、家出することを決心したクリストファーは、ロンドンの母のもとへ行こうと思う。
 そしてロンドンへ旅するという冒険が始まる。彼は人が多いところが大の苦手で、新しい場所が嫌い。父からの捜索願で彼を探しに来た警察から身を隠したり、困っている彼に親切にしようとしてくれた人相手にパニックになっていつも携帯しているスイス・アーミー・ナイフをつきつけたりと騒動を起こしながらもなんとか母の家までたどり着く。
 そうして母に庇護されることになった。母は彼の面倒をみなければならなくなったおかげで、同棲していたミスタ・シアーズとの仲がこじれるし、面倒をみるために休まなければならなかったことで仕事を失う。
 ロンドンに一人で行く際に彼が起こした騒動や、彼が転がり込んできたことで母がしている苦労を見ると、彼の面倒を見るのは大変なエネルギーと愛情と忍耐が必要な大仕事だなと感じる。それに忍耐強く、彼を愛していた父から逃げるのも、わからなくもないけど、父が可哀想に思える。
 最終的に元に住んでいた町に戻り、そこで母と二人暮らしを始めることになる。信頼を失ってしまった父はプロジェクトといって、愛する息子であるクリストファーとの関係を新しく築こうとする。そして父は犬を彼にプレゼントする。その犬が父の家に置かれて、その犬を仲立ちにして関係の修復を図る。そしてその犬が一緒に寝てくれるという安心感から父の家に預けられるのも平気になる。そして父は庭に野菜畑を作って、その手伝いをクリストファーがする。そうした共同作業もすることによっても息子との関係を修復し、彼の信頼を長い時間をかけてでも少しずつでも取り戻したいという父のひたむきな愛情を感じる。
 最後にこの小説で起きたこと、犬を殺した犯人を知り、母親を見つけ、一人でロンドンに行くことに成功した。そうした経験を通してクリストファーに自信がついた、成長をしたということが書かれて終わる。