ビヨンド・エジソン

([さ]4-1)ビヨンド・エジソン (ポプラ文庫)

([さ]4-1)ビヨンド・エジソン (ポプラ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

21世紀の科学を支える博士たちの生き方に迫る、感動ノンフィクション。文庫化に際し、地震学会会長を務めた石田瑞穂東日本大震災の取材を続ける著者との対談を収録。

 国内のさまざまなジャンルの12人の科学者に対するインタビュー集。『科学者としての自分に影響を与えたと思う伝記や評伝を一冊挙げ、それを切り口に現在に至るまでの研究生活を』(P4)語ってもらったもの。それぞれの科学者が学問の道に入ってからの研究生活と、現在の研究についての話、そして各々が影響を受けた伝記についての話が一人当たり20ページほどの分量で簡潔に書かれる。
 また、文庫での「増補」として、本書でインタビューしている12人の一人である地震学者に東北大震災後にそのことについて再度のインタビューが載っている。
 科学系の話はろくに知らないが、こうした色々な分野の研究者の現在の研究について、簡単だがわかりやすく説明されるというのは面白く興味を持って読むことができた。
 「第一章 日本生まれの薬でアフリカ眠り病に挑む」アフリカ睡眠病の、現在の薬では副作用が強く治療を受けた5パーセントが副作用によって死亡。副作用で5パーセント死亡する治療薬って、とんでもないな。
 「第五章 南極の「空気の化石」に地球の歴史を見る」南極の氷に含まれる空気の化石を発見したのって、日本人研究者だったとは知らなかった。意外な事実。
 「第六章 言葉の不思議を探求する」音楽の絶対音感相対音感のようなものが、音声言語にもある。英語は日本語やイタリア語に比べると母音が多く、母音間の重なりも多い。そうした『音の絶対的な特性をとらえて情報処理するのがむずかしい言語体系なら、相対音感的に音をとらえる人が多いのではないか。音声言語は流暢だし雄弁、知的能力は高いかもしれないけど、なぜか本が読めない、手紙がかけないそういう成人が英語圏の国には多いのではないか』(P126)と音声工学者の峰松氏は仮説を立てた。そして知人の言語聴覚士にそのことを尋ねてみると、それは音韻性のディスレクシアの説明であることを指摘されて実際にその仮説が正しかったことをしる。そして逆に父親の「おはよう」と、母親の「おはよう」を同じ「おはよう」と認識できない音声の究極の絶対音感者もいるのではないかと思い調べると、自閉症の人にそういう人がいることを知る。ある『自閉症であることを公にして手記や刺繍を出版している少年』(P128)がそうしたタイプで、母親の声ならわかるがそれ以外の人の声は難しく、そして彼の母語は文字言語だという。また、オリバー・サックス「火星の人類学者」にも登場する自閉症の動物学者テンプル・グランディンの著書によると『自閉症者には画像をカメラでとらえたように正確に記憶する人がいるが、彼女もまたそうであり、それが彼女の母語が言葉ではなく視覚(絵)であることが関係していると思う』(P130)とのこと。
 11章では、はやぶさの試料採集の装置を作った科学者にインタビューがなされている。
 文庫版あとがきで、インタビューした科学者の研究のその後の進展などが書かれているのもいいね。