マージナル・オペレーション 空白の一年 上

内容(「BOOK」データベースより)

村はアラタの指揮した戦闘で燃え、ジブリールたちは故郷を失った。子供たちを引き連れたアラタは、サマルカンドを経由し、イラン―かつてのペルシャを目指す。途次、シベリア共和国によると思われる不可解な襲撃を受け、目減りする資金を睨みながらも、一行を乗せた中古のバスは砂漠をひた走る。日本篇までの空白の一年に何があったのか。いま、ジブリールの視点から、全てが明かされる。芝村裕吏×しずまよしのりのタッグが贈る大ヒットシリーズ、再び砂漠の地へ―!

 本編1巻と2巻の間に起こった出来事が描かれる。1巻直後、アメリカ側に一撃を加えた後にアラタは子供たちと村を捨てて落ち延びているところからはじまる。
 そして本編主人公のアラタ視点ではなく、ジブリール視点で物語が進む。
 子供たちとアラタがまだ互いに理解していない頃の話で色々と互いの気持ちがよくわかっていなくて行き違いが生じる。子供たちはアラタを凄い人だと思っているから過去もきっと凄い過去があるのだろうと妄想をたくましくする。髭や体力がないところから、虜囚されていた将軍なのではないのだろうかと思ったり、そうした想像に年相応な面が伺える。
 1章の歩いて隣国まで落ち延びるまでの話は、ちょっとした冒険感もあっていいね。
 最初はウズベキスタン政府に子供たちを預けるつもりだった。そのように最初から傭兵やるつもりとかでなくて、一応別の道模索してたのがわかってよかった。しかしアラタにも捨てられると思って、子供たちは悲しむ。それに彼がいなくなると思った子供たちの間にギスギスした雰囲気が漂う。こういう描写を見て、初期メンバーが元から一丸とした集団でなくて、アラタがいることによって兄弟姉妹分として本編のような親密さが保たれていたことに、そして彼の存在の大きさに今更ながら気づく。しかし家族のように付き合っている彼等彼女らしか見たことなかったから、そうした描写は新鮮。
 そのような彼等彼女らは預けられて勉強するという状況を好ましく思っていないこともあって傭兵業をすることになる。そして子供たちに残していくつもりだったノートや教科書代がバスの購入代金に化ける。
 こうして当時のジブリール視点を彼女が、あるいは子供たちがまだまだ子供であるということを改めて実感するな。
 そしてアラタもまだ初期メンバーの文化に慣れていないこともあって、文化的なギャップが多く書かれている。脂を多く使わないと脂が余ってしまうから、脂分が多い料理となるという説明はなるほどなあ。
 ジブリールはアラタが携帯をずっと使っていると怒るので、アラタは彼女の頭をなでてかまいながら携帯を使っているがが、ペットに対するような雑な対処なのでちょっと笑う。
 『「いつか小遣いをあげて土産物店を歩かせたい」/ あの人は唐突に言った。/「それが神の御心なら」/ 私はそう応えた。あの人は、なぜか涙目だ。』(P122)アラタでなくても子供にそんなことをいわれたら、そんな気持ちにもなろうな。
 敵を殺したらもっと褒めてくれるだろうから、もっと戦闘の匂いのする地域へ行きたいと思うなど彼女の視点から見ることで彼女の子供っぽさや歪みがよく見えてくる。そしてハサンと彼女は当時折り合いがあまりあっていなかったということを知る。
 ジブリールの父から貰った首飾りがもとで厄介ごとに巻き込まれるが、敵のロシア系の組織を撃退し、逆に気に入られる。この空白の一年はその組織との話がメインになるのかな。
 敵を殺した後はできるだけ同じ状況の再現訓練を行うことで、トラウマが残らないようにする。
 アラタの15歳下の妹についてちょっと触れられたけど、確かその人まだ登場していなかったけど、こうして触れられるということはいずれどこかで出てくるのかな。
 あとがきで「遙か凍土のカナン」がこのシリーズと同一の世界観だということを知る。それを知ってちょっと読んでみようかなと思い始める。というかちょっとググって見たら、アラタの祖父の若かりし頃の話なのね。