双生児 下

内容(「BOOK」データベースより)

1936年、オックスフォード大学ボート部所属のジャック・ソウヤーとジョー・ソウヤーは、ベルリン・オリンピックに舵なしペア英国代表として出場、見事銅メダルを獲得した。だが帰国後、一卵性双生児の二人の運命は決して交わることなく、一方は空軍爆撃機操縦士として、もう一方は国際赤十字職員として第二次大戦下の混沌たる世界をさまよっていった…。歴史に翻弄される二人の男の人生を虚実入り乱れた語りで描く大作。

 ネタバレあり。といっても読み込んで解釈しているということでは全然なく、解説で説明されていることにも触れますよ程度です。
 上巻では双子のうち英独戦時パイロットとなった方のJ・L・ソウヤー(ジャック)の話が書かれていたが、下巻では他方の良心的兵役拒否者で赤十字で仕事をしていた、そしてビルギットと結婚したJ・Lソウヤー(ジョウゼフ、ジョー)の話が書かれている。彼の話は、彼の日記やさまざまな「史料」、本からの抜粋とさまざまな形式で彼のことが書かれる。
 今回はある時点で二分とかではなく、空襲の爆撃に巻き込まれて頭を大きく打ったことをきっかけに時空が分岐していく。彼がその爆弾の衝撃で数日記憶を失って、搬送中に記憶を取り戻す。その時から時間が巻き戻ったかのように暫く前に戻るようなことが度々起こるようになる。夢や想像にしては実際にその後起きる状況も含めてリアルにすぎる。そのように搬送中に戻ったり、数時間前に戻ったりというような微妙な行きつ戻りつを繰り返しながら、多くのifを見て、いろいろなことを知る。そして最後は再び爆撃によって頭を大きく打って搬送されている状態に戻ってしまう。
 そういう細かなifがあるので、全体を把握するのを難しいな。
 てっきり歴史作家が最後にそのなぞについて調べて自分なりの考えとして、答えを読者に提示してくれるのかと思ったら、結局最後に現代の彼のパートがなくてあれ? と感じて、結局最初の彼と彼に手記を渡してきた女性は何だったのかなと思っていた。しかし解説を読んで、上巻冒頭で出てきたその二人がどういう人物なのかがようやくわかった。
 1940年双子の兄弟ジャックと妻との善からぬ関係があるのではないかと気づく。パイロットのジャック・ソウヤーの視点ではわからなかったが、良心的兵役拒否者という選択をしたことに戦争中色々と悩んだり、そうしたことを気づいて家庭でも悩んだりして、ちょっと気の毒な感じになっている。そして両方の視点で見ると、互いの双子の兄弟が悩みの少ない信念を持った人物に見えるのが面白いな。
 87-8ページに英独和平がなった後に下巻の主役のジョウゼフ・ソウヤーは姿を消して、その後は海外で目撃例が2度あるだけと書いてあるが、それはどうなっているのだろうかね。
 搬送中に死んでいたけど、その行きつ戻りつの中で和平に尽力した世界は残り続けるということか。でも、それだと目撃例がわかんないな。世界自体がジョウゼフまわりだけぐっちゃぐちゃになって、いくつもの世界に一人のジョウゼフがいて、その世界観を出入りさせられていると言う状況にでもなって、そうなったのかな? それとも今際のときからそうした時代に飛びでもしたのか。
 村にある家にはビルギットが一人でいることが多く、その中で近所のグラットン夫人と風変わりな中年の息子ハリーと交流していた。彼は上巻のパイロットのジャック・ソウヤーが見た、ジョー死後の世界線でビルギットの再婚相手となっていた人。ジョーが生きていても彼女を狙うそぶりを見せている。
 ジョーも一役買った、英独和平だが、その結果ヒトラーが追い落とされて、ヘスが総統となる。そしてその和平がなった世界観では、爆撃機パイロットの兄弟ジャック・ソウヤーが死亡する。だから、デジャヴというかリプレイ的な巻き戻りもあるが、基本的には和平がなった世界(ジョー生存、ジャック死亡)か史実どおりに戦争が続く世界(ジョー死亡、ジャック生存)の二つがあるということか。
 最後、息子誕生時に死したジャックの幻影を見たことがきっかけで、再び搬送中の状態に意識が飛ばされる。そして容態が悪化して、彼が生きるか死ぬかというところで終わる。作中に搬送中に付添い人の同僚が疲労で眠っているときに死亡とかかれたものがあったので、それを考えるとたぶん死亡することになるが、明確には描かれていない。
 そして解説であるように、上巻冒頭の歴史ノンフィクション作家スチュワート・グラットンと彼に資料を渡したアンジェラは、同じ両親はJ・L・ソウヤー(ジョウゼフまたはジャック)とビルギットの子で、養父はハリー。ジョーが死んだ世界でアンジェラが生まれて(上巻でジャックはビルギットと(自分かジョーの)の娘と、再婚相手を見る)、そしてジャックが死んだ世界=1941年5月10日に英独和平がなった世界線でスチュワートが生まれる(下巻ラストでジョーは息子の誕生を知る)。解説の世界をまたいだ二卵性双生児とあって、タイトルの「双生児」はそこにもかかってくるのかと感心したけど、原題は「The Separation」で分離・分岐的な意味なのね。
 そしてスチュワート・グラットンがJ・L・ソウヤーと縁者だったと思うと、ある意味彼は家族の歴史についての関心から、調べていたというのもあることに思いいたった。
 しかし現代で何故そうつながったのか、アンジェラが何故スチュワートの元にジャックの手記(別の世界線のもの)を持っていったのか気になるなあ。単に私の読解力不足でしっかりよめばわかることなのか、それはまた別の物語だからと書いていない(あるいは放り投げてある)のかどっちだろう。