中世騎士物語

中世騎士物語 (岩波文庫)

中世騎士物語 (岩波文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

アーサー王トリスタンとイゾルデ、パーシヴァル等々、伝説やオペラの主人公として活躍する王や騎士、貴婦人たち。彼らは騎士道の典型―力、勇気、謙譲、忠誠、憐憫、貞淑など諸徳を具備した人間として登場する。『ギリシアローマ神話』で神々の世界をいきいきと伝えたブルフィンチ(1796‐1867)は、本書で中世の人々をも鮮やかに現出させている。


 アーサー王と円卓の騎士については断片的に知っているエピソードはあってもある程度まとまったものを読んだことがなかったので、こうして短く(たぶん)有名なエピソードを読めたのはよかったかな。
 作者のwikiを見たら『古典文学には頻繁に各種の神話の知識を前提とする記述が現れるが、それらを理解するために必要な様々な物語が体系立てて、平易な文章でまとめられている』とあって、この本の趣旨をようやく理解した。文学に出てくる有名な物語や伝説・神話的人物のことをまとめて紹介するという本なのね。
 本書では主に前半ではアーサー王と円卓の騎士の伝説のエピソードについて、後半ではマビノジョン(マビノギオン)という中世ウェールズの物語集にあるエピソード(こちらにもアーサー王らが登場する話がある)について紹介している。そして最後に「英国民族の英雄伝説」としてロビンフッドなど有名な英国の英雄数名について短いページでさらっと書かれる。
 また、一部の「アーサー王とその騎士」たちでは、エピソードに入る前に第一章で序説として騎士についてや当時の時代背景についての説明が付されている。そして第二章では「英国の神話的歴史」として神話的な人物や物語について簡潔に書かれている。
 僧職者(クラーク)は本来は僧侶など聖職者を指す言葉だったが、後には『文字を読むことができさえすれば誰でもクラークの仲間に数えられ、「僧侶の恩典」を蒙った。それは何か罪を犯した場合に都から追放されたりその他の形で受けるべき罰を免除されたりするのであった。』(P18)文字を読める人間であれば一定の罪が免ぜられるというの話は興味深い。
 「英国の神話的歴史」、シェークスピアの戯曲で有名な「リア王」はそうした神話の中の人物だがその前後にどういう人物がいて、どういう物語があったのかが書かれているのはいいな。
 魔術師マーリンの父が夢魔インキュバス)だというのは知らなかったな。
 アーサー王伝説ではストーン・ヘンジは、マーリンがユーサー(アーサーの父)の希望で作った彼の兄弟ペンドラゴンの墓という説明されているようだ。当時はそういう風に説明してたのかと思うと面白いな。まあ、もしかしたら当時でもこの他にもいくつも説があるのかもしれないけどね。
 そしてペンドラゴンの死後にユーサーは自分の名に兄弟の名称を加えた。それでアーサー王アーサー・ペンドラゴン。
 アーサーの乳兄弟のケイ、『その性格に道化的な所があり、勇気に充ちていながら、格闘するといつもみじめな失敗をする。また口がわるくて常に悶着を起す。それでもアーサーには信用があって、王はよくケイの忠告を入れる。けれどもその忠告はいつもまちがっていた。』(P380)なんというか物語を動かすのに使いやすい人物だなと思う。
 「アーサー王、湖の女王から剣を受ける」というエピソード。その前に通り道に立って馬上槍試合をしなければ通さないという騎士がいた。アーサーはその騎士と闘って、剣を折られて降伏を勧告されるが、それを容れずに躍りかかって馬から引きずり落とすも結局与しかれて止めを刺す寸前まで追い詰められて、マーリンが彼はアーサー王だといって止めるという格好悪い話が剣をもらう前にあるのね。しかも相手は名前がでてきてないモブ騎士で、有名な騎士でもない相手にアーサー王がやられているのにはちょっと驚くし、妙に笑える。しかしwikiで調べたら、どうもこの騎士ペリノア王という人(たぶん)と知って、なんだモブじゃないのかとちょっと思った。
 ケイに扮したラーンスロットが闘いに勝って相手に次の聖誕祭にアーサー王の宮廷に行って王妃ギニヴィアに『彼女の虜として騎士ケイがよこしたと告げ給え』(P89)と命じているシーンなど「ドン・キホーテ」で滑稽に描かれているような行動が騎士物語で(当然ながら)まじめなものとして書かれているのを見ると、ドン・キホーテを自然と連想してしまい思わず笑みが浮かぶ。
 注解、十三が不吉とされるのは最後の晩餐がキリストと十二使徒のうち、ユダが裏切ったからだが『北欧の神話ではヴァルハラの宮殿の晩餐では、争闘の神ロキが加わって十三人となると、平和の神バルダーが殺されたという孤児が在る。またトルコ民族も昔から十三の数を不吉として忌んだ。』(P381)
 アーサーの墓の上に書かれたという「ここにアーサー横たわる、過ぎし日の王、未来の王」という詩句は格好いいね。
 聖盃が見つかるまで帰らないという誓いを立てた円卓の騎士たち。その冒険の最中によって多くの円卓の騎士たちが死すことになる。なんか伝説・神話の終わりという感じで、理想的と考えられていた世界が崩壊していく様は物悲しさを覚えるな。
 注に『広間へ馬を乗り入れる習慣は普通のことだったと見えて、騎士物語にはいくらもその例がある。』(P382)とあって、知らなかったので興味深い。こうした現代との差異・異文化を感じさせるような風習などについての豆知識は面白い。