曠野の花 石光真清の手記 2

曠野の花―石光真清の手記 2 (中公文庫)

曠野の花―石光真清の手記 2 (中公文庫)

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中央公論新社HPより 明治三十二年八月、ウラジオストックに上陸、黒竜江の奥地に入る。諜報活動中にも曠野に散る人情に厚い馬賊や日本娘たちがある。波瀾万丈の第二部。


 菊池正三という偽名を使って、私人として極東ロシアに留学していた石光真清。そこでロシアの情報収集をするつもりだった。しかし義和団事件の時に清側がロシアにちょっかいをかけたのをきっかけにロシア軍が満州に勢力を伸ばしていく。そうした状況を見て、危険を冒してロシア占領下の満州に入って馬賊やその地の日本人(女郎や鉄道敷設の労働者)などと知り合いながら色々と情報収集をしていく。洗濯屋や写真店を表向きの職業にして、そうした情報を収集していく。
 色々なことが起こっている戦乱の季節に、そうしたものに巻き込まれた人から聞いた体験談や新たに知りあった人の過去話などについての挿話がところどころにあって、そうしたものが非常に興味深く面白い。
 馬賊頭目とその妻妾である元女郎の日本人という取り合わせが二組登場し、著者はその人たちと知己を得た。その二人の日本人妻は女郎の身から馬賊の頭領になるくらいだから胆力あって、たくましいな。ともにロシア軍の馬賊刈りで夫が死亡したようだ。お花はロシア侵攻当初の混乱した状況下で良家の夫人たちを連れて馬賊としての知識を活かして、彼女らを無事に家に送って、その後菊池正三(著者)のもとで彼が営んでいた表の身分の洗濯屋の差配をしながら情報収集を手伝う。お君は夫君が死亡後に密林の隠れ家に住みながら、仇敵ロシア相手に商売をしながら配下たちを養っている。
 細々としたエピソードのどれもが面白買ったり、興味深かったり、印象深い。馬賊たちとの交流シーンも結構あるので馬賊ならではという描写も面白いし、日清戦争で捕らえられてから何年も黙秘を続けてそのまま死んだ男の話は印象深い。
 そしてお花が良家の夫人たちを連れて混乱した状況から落ちのびた体験談は面白い。彼女が両家の夫人たちを家へ連れ帰ったら馬賊として襲撃したことのある家だと思い出して気まずかったが、そうして連れ帰ってきた夫人もその家の人々からもとても感謝され手厚いもてなしをうける。そうした中で、そして温かい家族の風景を見ている中で馬賊稼業への罪悪感がわく。そして夫も死んだだろうから日本へ帰ろうと決意して、挨拶をして家から去ろうと思ったが引き止められたが、なんとかその家から出る。そうした折に石光と会い、彼の情報収集を手伝うことで何か罪滅ぼしになればいいと協力を申し出る。
 こういう方法で動乱を巻き起こしたロシアへの復讐、夫や配下への鎮魂しようとしたのか。それとも国への奉公という意識からの申し出。あるいは明確な目的のある何かをしたかったというのもあるのかもしれない。
 まあ、なんにせよ非常に有能で著者は大いに助けられたようだ。全く人に気づかれない男装スキルと外国人だと思われない中国語スキル、人を使う能力(洗濯屋経営)や情報収集能力など。さらにお花は著者がロシアの警戒が厳しい南下の旅ができるように取り計らいながら、共に旅してフォローする。石光真清がこの時点で結婚していないのであれば、そうなっても不思議でないと思うほどのいいコンビだと思うわ。