笑う警官

刑事マルティン・ベック  笑う警官 (角川文庫)

刑事マルティン・ベック 笑う警官 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

反米デモの夜、ストックホルムの市バスで八人が銃殺された。大量殺人事件。被害者の中には、右手に拳銃を握りしめた殺人捜査課の刑事が。警察本庁殺人捜査課主任捜査官マルティン・ベックは、後輩の死に衝撃を受けた。若き刑事はなぜバスに乗っていたのか?デスクに残された写真は何を意味するのか?唯一の生き証人は、謎の言葉を残し亡くなった。捜査官による被害者一人一人をめぐる、地道な聞き込み捜査が始まる―。アメリカ探偵作家クラブ賞受賞。警察小説の金字塔、待望の新訳!

 kindleで読了。
 1967年のスウェーデンが舞台の警察小説。wiki見るとこれがシリーズ4作目のようだが、この本から読んでしまった。まあ、それでも気にせず読めたからいいけど。
 冒頭の家に帰宅した主人公のマルティン・ベックは大量殺人事件の知らせを聞き、刑事殺人課の人間に被害者がいることを伝えられて、先ほどまで主人公のマルティン・ベックと行動を共にしていたコルベリが事件に巻き込まれたのではないかと思って、彼の家に電話を掛けるが帰宅していないといわれる。思い返せば彼はいつもではしない行動をしていたので、より一層彼が巻き込まれたという思いを強める。そして現場に行ってみると、コルベリの顔が見えて固まったという、この肩透かし感いいね。読者にも、その普段では行わない彼の行動とその事件が関わりがあるのかという、その謎を追うという話になるのかなと思わせといて、ただコルベリは帰宅途中で事件現場に通りがかってそのままその場で仕事をしていただけという落ち。このいきなりの冒頭での緊張と緩和で、最初から物語に引き込まれる。
 バスで起きた大量殺人事件。そこにオーケ・ステンストルム刑事が何故乗っていたのか、そして彼は何故拳銃を携帯していたのかという謎がある。
 最初に発見した二人組の刑事が、中に生存者や犯人がいないか慎重に調べたことで、犯人の足跡が消えていた。
 この事件で警察が特別警戒体制に入ったことで、麻薬の売人や泥棒など普段罪を犯す人々が、そうした状況だと仕事ができないから、警察にとても協力的というのは面白い。
 ステントラムが秘かに探っていたテレサ事件という昔の未解決事件を調べ手いたことを知り、それを調べていくことで真犯人へと結びつく。その真犯人が真相を割れたことを悟り即座に自殺しようとしたが、それを防ぐ。その後はおとなしく自身の行いについて自白した。
 かつての行いが明るみに出ることがないように行ったのが、今回の事件だったが、自身の生活をかき乱されないために行った保身行為としては実に派手だ。憎しみでなく、保身のために誰目当ての殺人かを悟らせないため大勢の他人を殺して、恬として恥じない犯人。自分の身分を守るためにした当然の行いのように思っているところや、作業のように大量殺人を計画・実行しそれに良心の呵責がないのに、あくまで小市民風なところが恐ろしい。
 そしてラストでステントラムは結局かつての事件が迷宮入りしていた理由もわかり、犯人についても見当がついていたことが判明する。その彼が遺した資料が早々に見つかっていれば、本書で扱われている解決まで大分かかった事件も早々に終わっただろうから、マルティンはそれを知らされて思わず久しぶりに笑う。
 訳者あとがきによると、このシリーズは『刑事マルティン・ベックを主人公と刷る犯罪小説(Roman om ett brott)は、第一作『ロセアンナ』(一九五六)から四十八年経ったいまも、『87分署』シリーズのエド・マクベインとともに、世界の警察小説の二大双璧と認識され、後続のミステリ作家に多大な影響を与えたと評価されている。』それほど有名で、大きなシリーズだとは知らなかった。