ストリート・キッズ

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

一九七六年五月。八月の民主党全国大会で副大統領候補に推されるはずの上院議員が、行方不明のわが娘を捜し出してほしいと言ってきた。期限は大会まで。ニールにとっての、長く切ない夏が始まった…。プロの探偵に稼業のイロハをたたき込まれた元ストリート・キッドが、ナイーブな心を減らず口の陰に隠して、胸のすく活躍を展開する。個性きらめく新鮮な探偵物語、ここに開幕。

 主人公ニール・ケアリーは母子家庭で、母は麻薬中毒の売春婦だったこともあり、子供時代はすりを生業としていた。その仕事をしているときに片腕が義手の男グレアムに捕まえられた。それが縁となって彼の仕事を手伝ったり、探偵のスキルを教え込まれた。グレアムやニールの仕事は、とある銀行の「朋友会」という顧客の悩み事を秘密裏(表ざたにせず)に解決する秘密組織のお仕事。そして朋友会の仕事に携わるようになって、ニールはなにやら目をかけられているようでいい学校に入れられた。
 現在、大学院生となったニールが今回請け負うことになった仕事の内容は、チェイス上院議員の家出した娘アリーを連れて帰るというもの。チェイス上院議員とアリーは血が繋がっておらず、義理の娘にした不道徳な行いが家出のそもそもの元凶であると聞かされる。そういった依頼を完璧にこなそうとハッピーエンドにならない嫌な依頼だと感じるが、無事に大学院を卒業するためにもこの事件を片付けるために動く。
 アリーが以前にも家出をしたことについての記録が、情報をまとめたファイルから抜け落ちている。そのことについてグレアムに尋ねて、彼が否定したときの『うそじゃないよね、父さん。心から、嘘じゃないことを願うよ。』(P107)というニールの内心を思うと切ない。このことでニールは師であり、父のような存在であるグレアムも少なからず疑わなければならなくなる。
 そうした描写があった後で、片腕が義手の男グレアムが少年時代のニールに探偵をするのに必要なさまざまな技術を仕込んで、二人が家族のような親しい関係になっていく過程や、グレアムや今はそんなに仲がよくないレヴァインに子供時分に可愛がられ、世話になった過去のエピソードが描かれる。そうしたエピソードを読むといい話だと思うのと同時に、現在は彼らも疑わなければならないことに切なさを感じ、少し感傷的な気分にもなる。
 それにニールがはじめて付き合った彼女に自分の生い立ちを明かしたが、そのことで彼女の親から身を引くように言われて、その後も付き合っていたがやがて疎遠になって別れた。そのことをグレアムに話したときの『「人を信じるもんじゃないね、父さん」/「信じられる人間もいるぞ、坊主。ここにな」』(P180)という会話があり、そうした家族のような強い絆が描かれるほど現状に悲しくなる。
 英国で売春婦から麻薬の売人を紹介されて、その男の隣にアリーがいたという情報から、アリーを捜しに英国までやってきたニール。ニールはホテルに売春婦を呼んで、そのアリーの情人である麻薬の売人と伝手のある売春婦を呼ぼうとしていた。しかし頻繁に女を部屋に呼ぶので警察が来て、ホテルの評判が悪くなるとそのことを注意される。警察はわざとらしく部屋で麻薬を発見した風を装い、ニールにそうしている理由を白状させようとする。そしてニールが従姉妹を捜していると(嘘の)白状をすると、親切にもその警官は協力をしてくれたものの結局売人を見つけるまでには至らなかった。
 そして長くかかってようやくアリーを見つけ、その後売人の男と親しくなってから、危険だが大金が手に入る話を持っていく。そのもうけ話で一芝居打つ必要があるといい、その芝居中にアリーを連れて逃げ出す。謎の密告者が売人にニールがいる場所を話したことで危ういことになるが、何とか彼らを振り切る。
 そして身を潜めて生活していく中でニールとありーとの距離が縮まっていく。ニールは結ばれない縁と知りながらも惹かれていく。
 一方でグレアムは、ニールからレヴァインは仲間面した敵だと伝えられて、誰が情報を流しているのかを調べることになる。しかし長年の付き合いから知っている彼の性格からしてもメリット・デメリットを考えてもそれは違うのではないかと思い、真犯人を見つけようと行動しているようだ。この描写で彼がニールを裏切って嵌めようとしているという線がなくなって、レヴァインの線も薄くなって、ほっとした。
 そして連絡が取れなくなったニールのことを本気で心配しているグレアムが見れて、ほっこり。それまで少し疑わなければならない状態だからなおのこと微笑ましく感じる。
 結局グレアムは会長にこの件のことを打ち明けることを決意。
 ニールが怪我とか色々としたが、大団円に終わってよかった。そして最後の最後までどうなるかわからない展開も面白かった。また、この事件で何かを失うような予感を漂わせながら、最終的には杞憂に終わって、そうしてハッピーエンドで終わらせてくれたのは嬉しい。