本好きの下剋上 第二部 神殿の巫女見習い 4


内容(「BOOK」データベースより)

長い冬を終え、瑞々しい春が到来したエーレンフェスト。神殿内では、巫女見習い・マインの今後について様々な動きが加速していた。彼女を嫌う神殿長の画策もあり、街は不穏な空気に包まれていく。それでも、マインの毎日は何も変わらないはずだった。弟の誕生、インク開発による新しい本作り等、これからもずっと家族や仲間との愛おしい時間を過ごすはずだった。だが、世界は彼女に残酷な決断を迫る―。マインは今、大切な人々を守るため、家族への愛を胸に新たな道を歩き始める!ビブリア・ファンタジー第二部、感動の完結編!衝撃の結末後の人々を描く書き下ろし短編集+番外編2本、さらには椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!

 ネタばれあり。
 冒頭の神殿長とその取り巻きたち、爵位を持っているものが複数いて、情報を得れる立場なのに神官長フェルディナンドの力量を甘く見ていたのか。案外彼の力量のすごさは知られていないのかな。青色神官なのに騎士団に請われて呼ばれるレベルなのだから、かなり優れていることくらい知っていてもよさそうなものだが、彼らの派閥の人間はアウブが弟を実力でなく身びいきでそうしているのだと思い込んでいたということであろうか、それもまたありそうだ。
 魔力のために身食いをそば仕えや愛人としてさりげなく側に置くが、『全く教育されていない者は地下室で飼い殺しも珍しくはないらしい』(P57)というように、この世界もわりと殺伐というか、残酷な世界だよな。孤児院とか貴族とそれ以外の関係とかも書かれているから今さらではあるけど。
 前半は新たな身食い子の赤ん坊が孤児院にやってきたことによるデリアの変化、そしてマインの相変わらずの印刷関係に必要なものを作ったり生まれたばかりの弟と身食いの赤子のための玩具をつくったりしている。中盤は神殿長の陰謀と彼の失脚。後半はマインが新しい局面に入ったことを受けた周囲の人々のあれこれの反応が書かれる。
 そうしていたら神殿に入って以降はマインとほとんどかかわらなかった神殿長が強硬手段でマインに従属契約を結ばせて、彼女が神殿に入った時の復讐(それもみっともないことになったのはこの男の自業自得以外の何物でもないのだが)と、その魔力を思いのままにしようとする両方の理由でそんな実力行使に出る。
 その神殿長の陰謀はダームエルや父ギュンター、フランが奮闘するが危険な状況、そんなときに神官長が登場する。これで助かったと思いきや、彼も原則論からいって処罰しなければならない立場であり、彼はそれを曲げられる性質でもないから万事休すかと思いきや、ここでジルヴェスターがマインに与えた「お守り」が効力を発揮する。
 そして領主アウブ・エーレンフェストが神殿長を断罪して、脅威は去る。ここでマインがアウブ・エーレンフェストの養女になった。ここで強力な後ろ盾を得て、これで理不尽なことをされてもしっかり対処してくれる、味方してくれる人ができて安心感がいままでと段違いになった。web版でもそこから安心して見られるようになったという印象があるので、そうした意味でも次の巻から楽しみだ。
 そして物語を読み進めたうえで再読するとアウブ・エーレンフェストはよくここで身内を切る決断ができたなと、ここでの彼の聡明さと勇気を改めて感じる。
 彼女の大切な人々を守るためにもマインは領主の養女となり、貴族となる。
 そのため家族と分かれて、もう二度と家族として接することができなくなる。もしそうなるにしてもいくらか時間があると思っていたが、今回の出来事で早まって、急に家族と別れなければならなくなる。その家族との別離のシーンはその互いを思いやった最後の家族としての温かい言葉に、web版で読んだ時もそうだけど、涙腺が緩む。
 また、マインとその家族が互いに家族とは呼ばないという(出自ロンダリングのため)契約がなった後の、貴族と平民と身分が分かれてしまい家族と呼べなくなった家族が礼儀正しい言葉で別れを告げ、それに同じく礼儀正しい返答をして深々と頭を下げて見送るマインの姿もいいね。
 そうして中盤で物語がひと段落したあと、エピローグのあとにいくつもの短編が収録されている。書き下ろしの数はいつも通りだけど。web版でも見ているとはいえ、本編では見られない日常的な話だったり、いろんな人々の視点での話がみられるのがいいね。
 後半のその後の人々が書かれた短編で、神官長の側仕えアルノーは青色巫女に思うところあって立ち回っていたが、それが神官長に露見して死を賜った。神官長もそうしたところはドライに切ってしまうところにも、命に関する現代との感覚の違いを感じるね。
 マインがいなくなった後の家族が、「マイン」の最後の祝福を受けたんだから(そして家族としてふるまえなくなっても生きていて、会えるし彼女についての話を聞けるんだから)私たちは平気だと、寂しさを感じながらも前を向いて進もうとしている感じがいいね。
 巻末の書き下ろしは今回登場したインク工房の研究好きハイディの夫ヨゼフ視点での本編で書かれていた期間の話。そして以前の孤児院の子供たちとともに、森に行った青色神官に身をやつしてジルヴェスター(アウブ・エーレンフェスト)の姿が、一人実は正体を知っていたギルベルタ商会のレオン視点で書かれた短編。森でのジルヴェスターの姿と、レオンがマルク・ベンノの話し合いを耳にして、正体を知っていたため色々気をまわしている様子が書かれる。
 巻末の四コマ漫画も、キャラクターがかわいくていいね。