家庭用事件
- 作者: 似鳥鶏
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2016/04/28
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
『理由あって冬に出る』の幽霊騒ぎ直前、高校一年の一月に、映研とパソ研の間で起こった柳瀬さんの取り合いを描く「不正指令電磁的なんとか」。葉山君の妹・亜理紗の友人が遭遇した不可解なひったくり事件から、これまで語られてこなかった葉山家の秘密が垣間見られる「優しくないし健気でもない」など五編収録。苦労性で心配性の葉山君は、今日も波瀾万丈な高校生活を送る!
伊神さんシリーズの短編集。カバーイラストが変わったけど、登場人物に前のイラストの印象がついているのでちょっとまだ違和感が残る。まあ、そのうちこのシリーズの続刊がもういくつかでるころには慣れているとは思うけど。
短編は時系列順に並べられているようだ。そして今回は葉山の妹にスポットが当たった一冊となっている。
しかし今回の短編を読むと改めて、葉山の友人であるミノは善意で不思議な事件を作り上げるというか、事態を複雑にさせるキャラクターだなと感じる。
相変わらず殺人事件の起こらないミステリーでいいね。
「不正指令電磁的なんとか」伊神さんの卒業前で、シリーズ1冊目の「理由あって冬に出る」より前の時間軸の短編。こうしたパソコンなど電子機器の知識を活用したトリックはあまり見たことがないので面白い。
「的を外れる矢のごとく」すでに伊神さん卒業後の短編。弓道場で、的枠2つという安いもののみが取られたという不可解な出来事についての話。開けるのにコツのいる出入り口が開いていたことで、弓道部の部員の他に葉山と柳瀬、ミノそして秋野に容疑者が絞られた。しかし疑おうと思えば顧問とかOBも含まれるんじゃないかと、事件とは関係なかった細かいところを妙に勘ぐってしまった。
「家庭用事件」ちょっと後味の悪さの残る短編だと思ったが、ここでの葉山の常にない怒りや彼の妹への思いが、最後の短編「優しくないし健気でもない」で効いてくる。その短編を読むと、そういうことだったんだと思って腑に落ちる。
「お届け先には不思議を添えて」アンソロジーの「放課後探偵団」に収録されていたもの。そちらで読んでいたので再読となった。以前にも思ったがやはり葉山家での伊神さんと葉山兄妹の食事シーンに癒される。
「優しくないし健気でもない」この短編冒頭の横断歩道についての葉山の心情描写や、他の短編での些細な描写が、語られていなかった事がわかったときの驚きと同時になるほどと納得させられる。「お届け先には不思議を添えて」で葉山の妹が伊神さんにただにこっと笑って、お茶を継ぐシーンがあって、それは単に猫を被って愛想を良くしているだけだと思っていたが、それもあるけど、そうした事情もあったのね。アンソロジーの「放課後探偵団」でその描写をすでに読んでいて、それから5年以上たって、今回その描写が違うことも示していたとわかったことでいっそうの驚きがあった。
その事件が解決されたあと、ラストでのちょっとしんみりとした雰囲気の中での葉山と妹との帰り道の描写がいいね。