戦術と指揮 命令の与え方・集団の動かし方

戦術と指揮―命令の与え方・集団の動かし方 (PHP文庫)

戦術と指揮―命令の与え方・集団の動かし方 (PHP文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

ビジネスに必要なことはすべて「戦術」に詰まっている!本書は、元自衛隊作戦参謀である著者が、自ら考案した本格戦術シミュレーション60題を通して、「戦いに勝つための9原則」を解説したものである。「勝つための目標をどう立てるのか」「急激な戦況の変化にはどう対応したらいいのか」など、「戦術」はまさにビジネスの必須要素といっても過言ではない。冷静に分析しながら的確な判断力が身につく本。

 1章の「戦いに勝つための9つの原則」では、戦いにまつわるさまざまな用語や常識の説明や戦術についての基本的な原則について紹介される。2章の「基本演習」で比較的単純なケースで、その基本的原則をどう使うかなどが問われる。3章の「集団における命令の下し方」で命令をどう下すべきかについての話がなされる。そして4章〜6章では架空の戦闘のケースで、現実的な複雑な状況を説明したあとに、その場合に動向どうすべきかというのが問われる。そのように2、4〜6章ではそれぞれの状況でどう考えて、部隊はどう動くべきかという問題があって、その直ぐ後に回答がおかれるという形式で進んでいく。
 戦術に対しての知識がないから、2章のような単純なケースであるならばわからないなりに各問題の回答を見ればふうん、そうなんだと思える。だけど、4章や5章のような複雑なケースの場合だと正直チンプンカンプン。
 私のように全く基本がなっていない中で読み進めるなら、普通に一度読んでそのまま進んでいくというよりも、一章ずつ何度も読み返してある程度理解したうえで次の章を読み返す必要があったのだろう。
 そのように難しくはあったけど、戦術の考え方を学べる本というのは中々ないので嬉しい。それぞれのケースはいくつかの選択肢がでて、その選択肢のどこがよいのか、悪いのかが説明されている。
 今回一読しただけでは正直よくわからなかったところも多かった。しかし、そうした戦術の考えがわかるようになれればいいなとは思うので、いずれ再読して理解できるようにはしたい。まあ、これを再読するまでにもうちょっと易しい本を読んで理解を深めるか(元々そうしたちょうどよい本を求めてこの本を読んだのだが想像以上に難しかった)、あるいはじっくり読み返すことで理解を深めようと頑張るかかはわからないが。

 経路の価値。その道が戦術の駒とできる部隊が3つ以上『戦闘起動できるような経路が「作戦の方針策定」に利用できる経路である。』(P48)そうした経路の容量だけでなく質も重要。質については起動しやすい(部隊が速度を出せる)ことと、適当に隠れやすい(奇襲しやすい)ことで考えられる。
 『戦闘力を構成するさまざまな要素のうち、物的要素だけをとりあげれば、マッカーサー元帥が指摘するように、/ 機動部隊の戦闘力=戦闘部隊の質量×(速度)²
 である。これは運動エネルギーにほかならない。したがって、しばしば機動部隊の戦闘力は、直線運動のベクトルで図示される。
 つまり、機動部隊が動けば、エネルギーは補給されないかぎり、どんどん摩擦によって消耗することになる。摩擦による消耗は、敵から受ける抵抗によるものはもちろん、気象・地形の摩擦によっても消耗する。
 わかりやすい例として、高知に向かう攻撃を考えればよい。』(P51)攻撃・抵抗によるものだけでなく、その他の状態による消耗も一緒くたにする考えは知らなかったが、なるほど。
 『十八世紀初頭、プロシャ建国功労者フレデリック・ウィリアム皇太子は戦陣において一人の少佐をよんで詰問した。
「なぜ、お前は作戦に失敗したか?」
 少佐は「私は皇太子からの直命のとおり作戦しました。間違っていません!」
「階級はなんのためにあたえてあるのか? 命令違反するときを判断できる者にあたえられているのだ。規則どおり、命令どおりするだけなら、貴様は将校ではなく、兵士でよい」とウィリアム皇太子。
 これ以降、軍隊の階級の意義は、この考え方が世界の常識となっている。』(P84)軍隊の階級にはそうした意味があったとは知らなかった。
 5章と6章、架空の島Q島での戦闘シュミレーション。イギリスで行われている大西洋上の架空の市までの戦闘を仮想する手法での戦術教育を参考にしたもの。そして5、6章とも同じ部隊ではあるが5章では小部隊の分隊長の決断、6章では大部隊の指揮官の決断が扱われ、どう考えるべきかなどが書かれている。『また、このシミュレーションでは、米国CIAが使用している戦闘シミュレーション・モデル、TNDM(Tactical Numerical Deterministic Model)を活用した。これは、十七世紀から二十世紀にわたる、全世界の戦闘・戦史のデータをベースとして作成されたもので、今日、もっとも現実に近い回答をだすシミュレーションといわれている。』(P193)