真夜中の天使 1

真夜中の天使1 (文春文庫)

真夜中の天使1 (文春文庫)

内容紹介

芸能界きっての敏腕マネージャー・滝俊介は、場末の音楽喫茶で痩せっぽちの少年と出会う。サロメのような妖しい美貌と甘い声をもつ、ジョニーこと今西良。この出会いが自分の運命を変えるとは知らず、スカウトする滝。金、コネ、ライバルを追い落とすための汚い手段、そして倒錯した性がうずまく非情な世界で、ふたりの魂の闘いがはじまる。「グイン・サーガ」シリーズを物した著者の記念碑的作品であり、当時としては過激な同性愛描写が話題を呼んだ名作の第1巻。
(amazon より)


 kindleで読了。
 芸能界のどろどろとした裏側を物語の舞台とした小説。
 美少年今西良の魅力に『その辣腕と冷酷非情とで、伝説にまで高まった、一種かんばしい悪名につつまれていた滝俊介』が惑わされて、惹きつけられていく。その滝俊介が心を揺らがせながらも良に惹かれていっている様子と、冷酷非情ともいわれた滝を魅了した神秘的な美の結晶今西良の美しさが書かれている。
 今西良の魔性にやられた滝は、そして良に優しくしたい/傷つけたいという相反する思いを抱いて、衝動的に良を傷つけてしまうことも多い。そうした冷酷なプロフェッショナルの彼が我を忘れ、徐々に狂わされていく様がいいね。
 そうして良に魅かれる自分の心に戸惑う滝の心理描写や二人の関係性がメインの物語。
 冒頭で現在のファンからは”ジョニー”と呼ばれるスター歌手の今西良とそのマネージャーの滝の姿が書かれる。そこで今西の現在の人気や、猫のような超然とした性格、そして滝との関係が語られる。
 その後でデビュー前の二人の出会いから時系列に、二人の交流が綴られていく。そうして二人の複雑な関係がいかにして出来上がっていったかが書かれる。
 滝は一介の不良少年であった”ジョニー”をデビューさせた。新人発掘の神様とも呼ばれた滝は今西にほれ込んで、自らマネージャーを務めることになる。
 滝は彼を見ているうちに犯しがたいものを感じはじめていたが、同時に汚れにつかったときにどう変化するかをみたいという複雑な気持ちをもっていた。そして今までの習慣や、この事典では明確に認識していない自分の気持ちへの反発で結局彼に枕営業を指示したことや、自分が荒々しく抱いたことで傷つけた。
 『外の世界など何一つ見てはいない。自らの美しさの中でまどろむナルシスを思わせる、冷たい、そのくせ夢見るような目だ。滝をつきぬけて自分自身の内部に戻ってゆくような目。』(N325あたり)そんな目をした今西良。彼は魔性で猫のような気まぐれがあり、それでいながら寂しさを湛え、心の内を見通せない美少年。
 最初の良の弱さとか、愛への飢えを求めて弱々しく縋りついてくるようないじましさは、冒頭の現在の時点では最早期待しなくなっているのか、それとも内にはやはりいまだあるのかどっちなんだろうな。
 そうして信頼しようとした彼を裏切って荒々しく無理やりに抱くという残忍さを見せる。そして行為の後に滝は肉体・精神の両面で傷つけた良に向かって俺を憎め、そしてスターになって小間使いのようにこき使えと囁く。そんなことがあったから当然良は滝を信用しなくなる。そして彼も愛を求める心が弱まり、何からも侵されずに冷たい目で世界を見るような面が出てきた。
 滝は傷つけて、良の心が彼から遠ざかったことで彼に惚れてしまっていることを自覚する。そして彼の足下に跪きたい衝動すら感じて、今までにない自分の気持ちを怖れる。
 不意に良に優しくしたくなって、今更と思いながらもそれを行動に移す。そして共にレストランで食事するが、そこで有名な作曲家の先生と出会う。その出会いは本当に偶然だったが、良は滝が顔合わせのために図ったものだと感じた。そして良は、滝はひどいことはしたけど枕の相手に嫉妬して、気遣ってくれてもいると思っていたが、単に仕事のためだと感じて怒る。そして意図せず傷つけてしまい、そして滝は弁解もちゃんとしなかったため、二人の溝は深まってしまった。
 以前に滝がデビューさせたスターの花村ミミとの久方ぶりのベッドの中で、滝が良に惚れ抜いてしまっていて、その気持ちに戸惑っているということを指摘される。そのことでその気持ちを自覚して、滝は呆然とし、戦慄する。
 冒頭の現在では良に思い焦がれる崇拝者となっている滝。そして出会って直ぐの、まだ自分の思いをしっかり自覚できていない滝。両方を見ることで、滝が今西良への愛を最初から認めて、彼を望んでいたならば、もっと親密で良好な関係が築けていたかもしれない。
 しかし焦がれるほどの愛を経験したことがなかった彼は、その思いをしっかりと自認することができなかった。そしてまだ愛に飢えた弱々しい少年だった良を傷つけてしまった。