千の顔を持つ英雄 上 新訳版

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

世界最古の英雄譚といわれるギルガメシュの冒険からオデュッセウスの苦難の旅、ブッダの修行、イザナギイザナミの物語まで、古今東西の神話や民話に登場する「英雄」たちの冒険を比較すると、心を揺さぶる物語の基本構造が見えてくる―。ジョージ・ルーカスに“スター・ウォーズ”創造のインスピレーションを与えるなど、世界中のクリエイターたちに多大な影響を与えた神話学者キャンベルによる古典的名著の新訳版。


 『本書の目的は、あまり難しくない例をたくさん提示して本来の意味を自然とわかるようにし、その上で、私たちのために宗教的人物や神話に出てくる人物の姿に変えられてしまった真実を、明らかにすることである。』(P14)神話などの宗教的物語やイニシエーション(儀礼)として世界各地で変奏されているが、それらの物語には共通していることの多い要素がある。そうして世界各地で物語や儀式として伝えられている重要なことについての話であり、それらについて多くの神話や儀式の例を紹介しながら、そうした物語の意味について説明している。
 『英雄の神話的冒険がたどる標準的な道は、通過儀礼が示す定型――分離、イニシエーション、帰還――を拡大したものであり、モノミス(神話の原形monomyth)の核を成す単位と言ってもいいだろう。/ 英雄はごく日常の世界から、自然を超越した不思議の領域(X)へ冒険にでる。そこでは途方もない力に出会い、決定的な勝利を手にする(Y)。そして仲間(Z)に恵みをもたらす力を手に、この不可思議な冒険から戻ってくる。』(P54)この基本的な物語の形の中にある、色んな要素を解説している。
 例えば物語の初めの英雄の分離・出立を扱う第一章では「冒険への召命」や「最初の境界を越える」などが書かれて、二章の「イニシエーションの試練と勝利」では英雄に課された試練で、その試す者や援助する者などがどういう意味を持ち、それを経ることでどのような成長を遂げるかについてが書かれる。そして三章では英雄が共同体への帰還についての話が書かれる。また『第二部の「宇宙創成の円環」では、世界の創出と破壊の壮大な姿を紐解く。』(P67)上巻では、二章までが扱われている。

 英雄は困難な道を歩む。そうした自己発見や自己発展の困難な道。『たいていの人は、男も女も、比較的無意識な市民的で部族的な習慣である、あまり冒険的ではない道を選ぶ。しかしそういう人たちもやはり救われる。社会に受け継がれた象徴的な援助の手や、通過儀礼、神の恵みを生む秘蹟など、救い主によって大昔の人類に与えられ、何千年もの間伝えられてきたもののおかげである。内なる召命も外部の教えも知らない人たちだけが、どうしようもない苦境に陥る。つまり、今日を生きる大多数の人々が心のうちでも外でもこの迷宮に迷い込んでいるのである。』(P44)
 しかしその道を通った神話の英雄たちがいるので『私たちは英雄が容易してくれた糸の道をたどればいい。そうすれば、忌まわしきものを見つけるつもりだったのが神に出会い、出会った者を殺すつもりだったのが自らを殺し、外の世界へ飛び出すつもりだったのが自分自身の存在の中心に戻り、ひとりでいるつもりだったのがすべての世界と共にいる、ということになるだろう。』(P46)そうして一つの真実を見つけることで、すべてが関連付けられる。
 『もし英雄が手ほどきの試練をすべて受けずに、プロメテウスのように暴力や抜け目ない策略や幸運によってただ目的に向かって走り、思惑どおりに世界のための恵みをもたらしたら、そのせいで不安定になった力は凶器となって、英雄は内からも外からも打ちのめされ、プロメテウスのように、汚された無意識と言う岩の上で十字架にかけられることもあるだろう。』プロメテウスは正統な方法でなく、力を得たから罰せられたというのはなるほど。そうした見方は知らなかったが面白い。

 『伝統的なイニシエーションの考え方は、若者に仕事の技術や職務、特権を教えることと、親のイメージに対する感情的な関係を合理的に見直すことを結び付けている。秘儀を伝授する者(父親または父親の代理)は、不適当で幼稚な充当(カセクシス)をすっかり取り払った息子にだけ、仕事の象徴を託すことになる。そういう息子なら、自己強化や個人の好み、または憤りと言う無意識な(意識的で合理的な場合もあるが)動機のせいで、正しく客観的に力を行使することが不可能になる、ということはない。理念的には、託された者は単なる人間性を取り払われ、人格のない宇宙的な力を現すことになる。つまり、「二度生まれた」。自分で父親になったのである。その結果、今度はイニシエーションを授ける人間や、案内人や大洋の扉といった役目を負う資格を持つようになる。そしてそれを通じて人は、幼稚な「良きもの」「悪しきもの」という幻想から脱して宇宙的な法則の権威を経験し、希望や恐れを取り払って、本質の表れを理解した心穏やかな状態に慣れるのである。』(P204-5)