怪人二十面相


 青空文庫kindleで読了。
 江戸川乱歩は小学生のころに、この本だったかはわからないが、小林少年がでてくるやつを読んだことがあるくらいで、それも今となってはほとんど何も覚えていないので実質今回が初乱歩みたいな感じ。
 もともとが少年誌に掲載されていたというだけあって、思っていたよりも児童文学的な語り口でちょっと意外だったな。
 怪人二十面相は高価な品物を盗む盗賊で、現金は盗まないし、人を傷つけたり殺すことはしないようにしている。だから作中で死者は出ない。
 それから彼は結構大勢の配下を雇い入れて、大がかりな仕掛けをしてその犯行を行うことも多い。大胆不敵な単独犯的なイメージがあったから、それは少し意外だった。しかし二十面相のやり方は今から見たらなのか、それとも少年誌で掲載されていたからなのかはわからないけど、単純なものが多いな。まあ、こういったものは細かいやり方というよりもキャラクターの活躍・すごさを楽しむものだからね。
 それと彼はいつの間にか持ち去っているというよりも、手に入れてから相手に種明かししたりとか語ってから逃げるパターンなのね。本書最後の事件にしても、相手の反応を見るために居残っているしね。二十面相は盗まれた相手の反応が見たい人なのだろう。

 この長編の最初に書かれている羽柴邸の事件で、その家の子息の壮二が夢で盗まれる光景を見て、壮二は夢で二十面相が踏み入れた花壇の中に一つ罠をしかけた。そうするとたまたま二十面相が実際に引っ掛かった。それでも二十面相は何とか逃げおおせたが、それで傷を負った二十面相は壮二を誘拐して代わりにまた違う美術品を要求するというのは大人げないなあ。盗みに入っておいて、怪我をして怒っているという子供っぽさがある人物よね。
 この事件を解決すべく明智探偵に依頼しようとするが、外国に行っていて不在なのでその助手の小林少年がこの事件にあたることになる。しかし助手に任せるのを不安に思っている依頼者に対して小林少年が『助手といっても、先生におとらぬ腕ききなんです。じゅうぶんご信頼なすっていいと思います。』(N530あたり)といっているのは、依頼を受けるためとはいえ、「先生におとらぬ腕きき」とはふかすねえ。小林少年は明智先生に信服しているから、実際はそうは思っていないと思うが、この誘拐事件にかかわるためにさらっとそういうこといっちゃうのなんかいいね。
 小林少年のとっぴな申し出に驚く羽柴氏に、小林少年は『ちょっと考えると、むずかしそうですが、ぼくたちには、この方法は試験ずみなんです。先年、フランスの怪盗アルセーヌ=ルパンのやつを、先生がこの手で、ひどいめにあわせてやったことがあるんです。』(N567)といって説得している。急に他作品がでてきたけど、この物語世界じゃ本当にあったことなのか、適当にハッタリをいっているだけなのかどっちなのだろう。まあ、少年誌の読者へ知った名前が登場させることで、明智のすごさをわかりやすくアピールしているのだというのはわかるけれど。
 小林少年は二十面相の拠点で美術品奪還まであと少しの所まで行くも、彼の盗賊が壁のボタンを押してできた落とし穴で地下に落とされて囚われの身となる。こうした落とし穴とかリアリティーとかは置いておいて、ロマンあるわくわくさせる道具立てでいいね。こうした謎めいた敵方のギミックにはまってピンチにという展開、嫌いじゃないよ。
 もっと怪盗二十面相は、煙のようにいつの間にか目当ての物を取っていき歯がみすることになったり、あるいは阻止したり、あくまで現場での攻防だけかと思いきや意外と二十面相のアジトに侵入できたりするのね。
 地下室にとらわれた小林少年に二十面相は、食事一回ごとにご飯と引き換えに銃やら回答が羽柴邸で盗んだダイヤを取り戻して持っていたのでそのダイヤと交換することにした『二十面相は、この奇妙な取りひきが、ゆかいでたまらないようすでした。』(N930あたり)一気に取り戻さずにそうしてじわじわと取り返すことで、じっくりと勝利を味わおうとしているのかな。二十面相は小林少年や明智探偵に追いつめられることも多く、想像よりもクールな感じではなかったけど彼のこうした彼の遊び心や稚気はいいね。結構彼のそうしたところ好きだな。
 羽柴邸一件が終わった後、二十面相は偏屈な美術収集家日下部老人の邸宅に盗みに入る。
 そしてその後ついに明智探偵と二十面相の直接対決の話が始まる。
 羽柴家の壮二が小林少年のことを友人に話して、小林少年にあこがれた彼ら少年たちは小林少年を団長として少年探偵団を結成することになる。
 そして最後は明智探偵が怪盗よりも一枚上手で、少年探偵団の見せ場もちょっとあってよかった。