中世ヨーロッパの武術

中世ヨーロッパの武術

中世ヨーロッパの武術

内容(「BOOK」データベースより)

中世ヨーロッパの戦闘教本。ロングソード術やレスリング、レイピア術など、中世・ルネッサンス期における剣術・格闘術のすべてを図解。

 以前から読みたいと思っていたがようやく読了。多様な技や構えを多くのイラストを使いながら、わかりやすく動きを説明している。全部の技に図をつけて説明されている。そうやって非常に多くのイラストを使っているのでどう動いているのかわかりやすく、そしてそれぞれにキャプションで説明や解説があるのもありがたいし面白かった。新たに知ることも多く中世ヨーロッパの武術のイメージが刷新された。
 同じような感じで多くの図を使ってどういう構えをしてどう動くかについて説明された武術とか日本剣術とかの本があったら読んでみたいのだが、そういう本ないのだろうか。
 『中世・ルネッサンス期のヨーロッパの武術について、その理論と実際の技を図解で解説していきます。取り扱う武器の種類は、現在まで記録に残る竜は4つを中心に、21種類の各武器術を紹介しますが、なかには鎧を着た状態での戦い方や、場上での戦闘法、さらには異なる武器同士での戦闘法も存在します。』(P3)基本的には1対1で、同武器同士での技のかけ方やその技への対処法的なことなどが書かれる。
 『レイピアはもともとスペインで発展した武器と考えられていて、戦争での使用を考慮されていない、いわゆる「平時の剣」でした。』(P13)鎧相手で隙間を突くためには使えそうだけど、一般的にイメージされるレイピアの戦い方は確かに戦争とかでは使えなそうな感じだ。
 ヨーロッパの武術の技術が保存されなかった理由。『ヨーロッパは継続的に戦争が続く地域であり、戦争の技術もまた止まることなく発展・改良されていきました。そのような状況では、時代遅れになった技術を保存しておく意味も余裕もなかったと考えられます。』(P14)
 スペイン式レイピア術、背筋をまっすぐに伸ばして立ちながら足を止めずに動き続けて戦う。棒立ちに近い独得な姿勢の構えだが精緻な理論をもった強いレイピア術だったようだ。動きながら隙を窺い、相手のレイピアの攻撃線を外れた瞬間に攻撃をかける。
 中世の剣は実際には軽量のものが好まれていた。しかし中世の剣は重く鈍器に近かったというイメージがあるのは、ヴィクトリア朝の学者が原因。一つは彼らが親しんでいた武器が超軽量のフェンシング用の剣だったことので1kg程度でも重く感じたということ、それから儀式用の見た目重視で思い両手剣を実用の物と誤解したこともそのようなイメージが作られた理由の一つとしてあり、また当時の剣を再現したレプリカが実物よりもずっと重かったこともそのようなイメージが広まるのに一役買った。
 中世の剣術が力任せに振り回す単純なものだったというイメージもヴィクトリア時代に遡る。全ての事象が進歩していくという観念から、フェンシングのような洗練されて技巧的な剣術の前は、力任せだったということになり、そしてフェンシングが「突き」だったから、振り回す(斬撃)が劣った攻撃方法とされた。
 『本来の決闘は、対立するに勢力のどちらが正しいのか、神(または神々)の手に自らの運命をゆだねて命を賭けて戦ったのが始まりです。当時は客観的な証拠を収集するのが非常に困難で、このような神の手に判断をゆだねる方法がそれなりの合理性を持っていたのです。』(P173)本来的には神明裁判的な意味があったのか。
 練習道具。『杭:ローマ時代から伝わる伝統の訓練道具で、現在のサンドバッグにあたります。この杭を相手に見たて、木剣などで打ち込みや間合いの取り方の訓練をするのです。当時の柄を見ると、杭はしっかりと立っているように描かれていますが、現代の検証によると、ある程度動くようにしないと、手首に非常に大きな負担がかかるということです。』(P257)こういう細かな工夫の知識を知るのも楽しい。

 技の説明によってはその技の対応方法や、更にそう相手が対応してきた場合にどうするかというようなこともかいてあり、そうした攻防が図つきで載っているのが見ていて楽しい。そうした攻防だったり、格好いい技がイラストで見れるので見てるだけで楽しめる。
 ドイツ式剣術の奥義の一つ「流し目切り」(P88)も格好いい。切りかかってきた相手の剣と相手の体の間に剣を入れて、その剣を梃子にするような感じで、剣を遠ざけながら裏刃で相手を切りつけるというのは両刃の剣ならではの攻撃だから面白い。
 「バインドからのハーフソード」(P100)バインド状態から剣の中ほどを握ってハーフソードにして、相手の剣を遠ざけて、そのまま相手に突きを入れる。このハーフソードという技術も独特で面白い。
 その他にもバインド状態から相手を突きで攻撃できるようにする技術である「巻き」も興味深い。剣をひねったり回転させるから巻きという。もちろんただ単純にひねるだけでは有効ではないから、バインド状態の剣を上にまくことで自分の剣の鍔元で相手の剣先を押して相手の剣をはねのけて突きを入れたり、自分が少し横にずれながら巻いて突きをいれたりする。
 また柄頭での打撃とか、相手の剣を奪うとか剣撃中の投げとかについての技も描かれているのも面白い。
 ダガーは順手で持った方が有利だが、ダガー術では逆手にダガーを握った状態での攻防をしている。実戦武術であった中世でダガー術が逆手での攻防をしていたのは、当時左腰に剣を吊るしていてダガーは右腰につるしていた。剣では手狭な場所や奇襲を受けた時は右手で右腰のダガーをさっと取って戦うことになるので、自然とその取った時の握り(逆手握り)での攻防が教えられていた。
 ハーフソード術、剣の半ばを握って鎧の隙間を正確に突くために発達した技術。また、鎧を着ていない時でも、通常の剣の持ち方では戦えないような接近戦で使える。
 『当時の鎧は、大体20〜35kgほどで、現代の兵士の装備が約40kgであることを考えると、かえって軽いくらいです(中略)また、きちんと作られた鎧は、動きをほとんど制限しません。関節部は、着用している人間よりも可動範囲が広いぐらい』(P317)。重くて動けないや間接の可動域が狭いというのは間違い。『鎧の主な欠点は、スタミナを急激に消耗すること(超人的な体力を持つ人間でも5分の戦闘が限界だと推測されています。』(P317)
 刺突は致命傷を与えやすいが、 しかしその後もしばらく行動できる。『つまり、刺突による攻撃は、致命傷を与えやすいが、相手を戦闘不能にする能力、ストッピングパワーがないのです(その反対に、斬撃は相手の戦闘能力を奪うことに適しているが、致命傷は与えにくいということになります)。 」(P568)そんなこともあってレイピアでの決闘は互いに致命傷を負いながらも戦闘不能にはならずに突き合って、最終的に両者相撃ちに終わることも多かった。その致命傷率の多さがあって、決闘や乱闘での死者数が増えた。