リッターあたりの致死率は

内容(「BOOK」データベースより)

まわりで次々と人が死ぬ“死神”体質の少年・立花美樹。魚マニアの彼が観賞魚展示会に出向いたところ、案の定、会場の客が毒殺され、お守り役の高槻刑事の身にも異変が…。混乱極める中、さらには美樹誘拐事件まで発生!毒殺の真相は?誘拐の意外な背景とは?そして美樹と誘拐犯の運命は?高校生探偵の真樹(美樹の双子の弟)が掟破りの手段で事件に迫る。

 kindleで読了。ネタバレあり。
 このTHANATOSシリーズは文庫化するたびに読んでいたのだが、文庫化がしばらくないのでご無沙汰だった。しかし最近kindleを積極的に使うようになって、セールになっていたのを見かけたので、久しぶりにこのシリーズを読んだ。

 冒頭の意味ありげな章。青年がリョウスケに『お前みたいな思い。誰にもさせちゃいけない」とけしかける。
 美樹と彼方のデートということで気合を入れた服装で、国際観賞魚フェスティバルに行く
 国際観賞魚フェスティバルの会場で、高槻はカバーをかけたペットボトルでジュースを飲もうとしたら妙な生臭さを感じた。魚が入ったペットボトルに口をつけてしまったのではないか、そしてその魚が毒を持っていたらという可能性に気がついた高槻は意識を失った。
 それで搬送されたが、急性胃炎で毒とかではなかった。日々のストレスでできた急性胃炎を毒の可能性に気付いた結果、急に意識され毒だと思って気を失ったというところか。
 そして倒れる直前に目の前で急に苦しみはじめた暴力団員の金田の近くにも似たようなペットボトルがあったのも、高槻が昏倒した理由に加えられそうだ。そして金田の飲み物は種々の麻薬とアルコールが入った飲んだら死ぬようなもので、それを飲んだことで金田は死んだようだ。
 高槻と真樹が離脱して家まで帰る途中に、美樹は誘拐された。そしてその誘拐した少年グループが金田の死に関係しているのかと思いきや、美樹にそれを質されて平然と警察の推測と同じく金田の恋人ユキさんの犯行だと答えているので、どうやら違うようだ。
 美樹は誘拐されている中でも相変わらず、魚のうんちくを話を聞いてくれる相手に述べ立てている。魚への興味は薄いのだけど、こうしたミステリーの中で披露されるうんちくの類って面白い。
 その誘拐犯との会話で、シドと呼ばれている少年が冒頭のリョウスケであることがわかる。志藤良助でシドということのようだ。 
 現場の少年たちだけではなく、ヒュウガさんと呼ばれる計画を指揮している人間もいるようだ。
 真樹はこの誘拐が単純に金銭目的でなく、政治的目的があるものだと気づく。
 湊は政治的なあれこれで解決がなされて警察が馬鹿を見ることがないように、真樹を半ば脅しながら電話をさせて圧力をかけることで、命をかけている警察の面々に功績を持たせるようにしようとする。
 しかし真樹は湊は自分を手前勝手に動かしているが、美樹の誘拐事件の解決に結びつかないもので、彼や家族に得のないもの。そういうこともあってネットに情報を流出させることで事態を動かし、解決を図ろうとする。
 美樹がシドに納得させた推理。まず、ペットボトルにはショーベタが入っていたペットボトルA(高槻が一口飲んでしまったもの)と、高槻の普通のジュースのはいったペットボトルB、麻薬とアルコールの入ったペットボトルCの3つがある。金田の恋人ユキは魚を盗もうとしてペットボトルAに入れたが、それを誰かがBにすり替えた。高槻の姿を見て、タクはそのボトル(A)のことを手違いで替えられたCだと思って、本来Cを持ちだすところをAを持ちだすことになった。
 タクが真樹の誘いに乗ったふりをして、美樹を殺す。そうすることで金田の殺人についてはまずは恋人のユキ、そして次にシドに疑いの目が向けられるから自分は安全圏になる。
 そうした陰謀があったとシドに思い込ませて、彼の手で他の二人を処分させる。
 シドは知らなかったようだが、他の二人がつらく当たって彼が優しくすることで彼に心を開かせて行動をコントロールしようというヒュウガさんとかいう少年たちの上の人間の作戦だったようだ。上では古典的な飴と無知・良い警官と悪い警官という構図を作ろうとしているが当人は無自覚というのが面白い。1対1の状況になって、シドに種明かしとしてそうしたことや推理はあくまで一つの可能性に過ぎず、他にも色々な可能性があって美樹が今持っている情報だけでは一つにしぼれないことを語る。
 そうして勝ち誇って、シドを馬鹿にする。しかしシドは美樹に怒らない。難しいことは分からないが強がっていることはわかった。あんなに長い話を聞いてくれる人がいないということや携帯の着信が弟と高槻さんのものばかりなことからなくして困る生活がないのだろうことに気づく。それならば一緒に世の中を変えようという。その言葉はヒュウガさんがそれができるという無垢な信頼から出た言葉で、現実的な事を知っている美樹には空疎に響く言葉ではある。しかしシドは美樹は頭がいいから、一緒に来て、彼としゃべったらそのことがわかるといって一緒に行こう友達だろうと笑いかける。
 シドは美樹が自分に他人を殺させるように誘導したことも気にしない、そうするために騙したことも気にしない。いくら振り放そうとしても真正面から友達だと本心でいった。
 馬鹿だけど本心から友達だといってくれている相手を見捨てられずに迷う。そしてシドに向かって家族がいないからこの迷いがわからないのだと言う。シドが一家心中して自分が奇跡的に生き残って、そうした類の言葉が大嫌いだとわかりながら発した言葉。
 その一番許せない言葉を吐かれたシドは流石に激昂する。そうして彼にも銃を突きつけた。美樹はその銃がもう発射できないことがわかっていたので、そうした挑発的な言動を取っていたようだが、その行動をとられたことで「ほら、やっぱり友達じゃない」と美樹は寂しげに言葉を発する。
 たぶんそれすらも受けとめて、言葉を重ねて、なおも誘っていたら美樹がどうなっていたか、彼の言葉をはねのけられたかはわからないな。そ美樹が勝ち誇って強がって、強い言葉を発しても、シドは奥にある彼が持っている気持ちを見抜いていて、純粋な善意と友情で彼に話しかけた。それくらい友達と心の底から言ってくれた人間はいなかっただろうから、彼を切り捨てたくはなかっただろう。それだからわざと激昂させて、それで彼を「裏切る」ふんぎりをつけたかったのだろう。
 そしてようやくふっきれて元の世界へと戻っていく。反射で行動を取ってしまったが、美樹が去っていくのを引きとめようと後を追う。そして外では機動隊が待っていて、銃を持って美樹を追いかけるシドは射殺される。
 この終結もあってイザナギの話とか、そういう行きて帰りし物語・帰還する英雄の物語っぽいなとふと思った。

 最後の美樹の『「――あの子、本当に馬鹿だったよ。簡単に人を殺しちゃって、捨て駒にされたって仕方ないくらい何も知らなかった」/ 声を詰まらせる。/「それでも、いい人だったんだ」/ ――誘拐されて、ひどい目に遭わされたくせに。/「友達だったよ」』(N3641あたり)馬鹿で悪いことはしたけど、もっと違う結末でもよかったと思いたくなり、同情させられるキャラだった。美樹が彼のことを思い出して悲しんでいるようなのがわかり、少し慰められる。
 結局ペットボトルの一件は当初の推測通り、被害者金田の恋人ユキの犯行であったようだ。ミステリーとしては風変わりというか、そこが主軸ではなかった。今回はサスペンス的な作品で、推理は誘拐された美樹がシドを騙す時にしか語られておらず、その推理も一つの可能性の提示で真相とは美樹自身も思っていないし実際違った。ミステリーと思って読んでいたから、ちょっと驚いたが面白かった。